延長戦の果ての分岐点(誠人さん誕生日デンオ)


俺とオーバは幼馴染と言うか腐れ縁と言う奴で、もう口にするもの飽き飽きしているくらいだし顔見知りに全員に知れ渡ってると言ってもいいくらいのまさに周知の関係だ。
そんな二人の関係がほんの少し変わったのは先二月程前の事で、しかし変わったとは言っても表面上は前と変わらない腐れ縁の一番のダチで、よくつるむ黄色いのと赤いので通っているし万が一何か進展があったか?と聞かれたらこっ恥ずかしくて聞いた奴を無用に睨みつけるところだが、無くは無いあるにはあったな微々たる事でまるで子供のままごとみたいに遅々として進まない関係に日頃なら苛立ちを隠さずオーバに八つ当たりするだろう俺も、これは仕方ないと考えてしまう。
俺達は付き合いが長すぎる、親友と言う立場はお互いの無意識に迄入り込み居心地がよくそれが枷になる。友達はこんな事しない、なんて長年胸の中で反芻し続けた考えが思いの通じた後でもちょくちょく顔を出し俺達の関係の進展を阻む。そんな中で衝動的にやらかした事以外で何か世間で言う恋人同士の行うスキンシップとやらはまるで取れていない。第一俺達は仕事が結構忙しいのだ。お互い同じ職種なら理解がない訳もなく基本的に休みの前夜かお互い挑戦者が少なくジムやリーグを早仕舞いした午後にしか会えないと言う今迄の生活パターンの儘だらだらと続けていた。
やきもきはするが満更でもない、曖昧な関係の儘だらだらと時間が経っていく中カレンダーを見て思い出した。ああ、来週はオーバの誕生日か。速いな、もう彼奴一歳老けるのか―…なんて、月日の流れを儚んでいる場合ではない。何度も言うが付き合いが長いから互いの趣味趣向は手に取るように解る、同時に誕生日プレゼントは思いつき限りの種類は渡し尽くしてしまっていて最近は『デンジ君との真剣ポケモン勝負六体フルバトル券』を渡しその場でチケットを受け取りバトル、がここ数年の定番である。
勿論俺もオーバもポケモンバトルを嫌だとは思わないしジム戦の様にバッジをくれてやる器かどうかなんて気を使わなくてもいい、本気のポケモンバトルは勝負所か休みの日に集まれるヒョウタやナタネにスズナスモモ、時折遊びに来るコウキやヒカリにジュン、そしてガキの頃と同じ様にまるで外に遊びに行こうぜ!なんて勢いで俺を誘うオーバとしか出来ないから俺には拒む理由は無いしデンジらしいプレゼントだよなってオーバも喜んでくれる。
だがデンジ、いいのか?去年まではそれでも良かっただろう、俺とオーバは腐れ縁の幼馴染のガチのマブダチだからな。でも今年からはそうじゃないだろデンジ?今年から俺と、俺とオーバはあれだ、恋人って奴なんだぜ?恋人に母の日のお手伝い券や父の日の肩叩き券紛いの本気バトル券を去年と同じ様に渡して飲んで騒いででいいのか?否良い訳が無い、なら何が良いんだ?物品は先程も言ったとおり以下略でもう何も思いつかない、そもそも俺にはサービス精神やサプライズ考案誰かの喜ぶ事を考えるなんて精神が欠落している為こういうのを考えるのが死ぬ程面倒――いや苦手なんだ。オーバならそう言うのは得意だから周りに声かけたり一人でコツコツ準備を整えたりとマメに出来るだろうが俺には出来る気がしない。
いっそオーバの家の洗濯機を改造して最新型と同レベルの洗濯機に……駄目だ、前やってしこたま叱られた。乾燥機能迄つけたら電気代が跳ね上がったって言うからエコボタンもこっそり付け足しておいたのに結局前のに直してやる羽目になって、じゃあ電子レンジを炊飯器をテレビをで全部正座で説教させられて俺はオーバの家の家電に触れる事を禁じられた……そうだった、忘れてた。じゃあ服か?欲しがってた本かCDか?でもそれって別に誕生日プレゼントでくれてやるものか?チョイスは間違ってないだろうがそれってどうなんだ平凡すぎないか?
ならいっそ貴金属でいけばいいのか?例えば指輪―…っまだ付き合って半年も経たない俺達に指輪は速ええ!駄目だ駄目だ考えろデンジ、お前は顔もいいが頭は更にいいし悪知恵も働けば閃きも半端なくいい筈だ。なんか考えるんだデンジ、何か何かこう特別って言う感じのプレゼントを!!
そう考えてから毎日カレンダーを見る度あれがいいかこれがいいかと考えを巡らせるが全て堂々巡り。製図板に向かいながらも引いているのは機械の設計図ではなくオーバが欲しがる物喜びそうな物のランキングでありトレーナーが挑んで来た時に脳裏を掠めていくのはデンジからの贈り物を受け取って嬉しそうに顔を綻ばせるオーバの姿でありその後に訪れたらいいなと言う不埒な流れの妄想だ。仕事中に不謹慎極まりないがデンジとて血気盛んなお年頃をちょっと過ぎた青年だ、恋人とのナニやらを妄想しない程枯れてはいない。寧ろ顔に出さず普段どおりにトレーナーを迎え討ちアドバイスまでして笑顔で送り出せたのだからオーバは俺を褒めるべきだとこの場にいない赤いアフロへの愚痴を頭の中でぼやく程の余裕すらある。だが何を贈るかと考え始めた途端余裕はまるで湯気の様に?き消える、これが恋の愛の悩みだと言われれば聞こえはいいがデンジにはもはや苦行の域に達しかねない案件だ。
何がいい?いっそバクやオーバに聞く?いやそれは俺のなけなしの砦と言うか最後のプライドと言うかこだわりが許さない、普段はそんなこだわりも何もないのに今回に限って何故かこだわりが強い。どうした俺こだわりのスカーフなんか持ってねーぞ等と前にマキシさんが言ってた余分なダジャレを思い出すが笑えない。オーバの誕生日は迫ってきていると言うのにああ、どうしたら…………!?
悩みあぐね頭を抱えるデンジの青い瞳がぎらり、とまるで名案を思い付いたと言わんばかりに輝き顔をあげた。果たしてそれが吉と出るか凶でと出るかそもそも名案なのか、それは誰にも解らないし寧ろデンジにも解らない。
そんな不安と期待の入り混じる時間は日々は刻一刻と過ぎオーバの誕生日も間近に迫ったある日、オーバは仕事が早く終わったからとデンジの家に向かっていた。弁当やビールに適当なつまみを買い、これから行くよと連絡をすれば何時もの気のない返事が返ってくる。口ではそんな事言いながらも家に着けば満更じゃない風に迎えてくれるデンジの姿を想像してオーバは少し早足でデンジの家に向かう。ビールが温くなるからだ、別に久しぶりに会えるからじゃないぞ。と誰にするでもない言い訳を頭の中で繰り返しながら歩いて行けばあっという間にデンジの家のドアの前に着く。当たり前のように合鍵を取り出し鍵を開けながらオーバは何時も通り声をかける。
「デンジー来たぜーー」
「おー、入れよ」
珍しく出迎えない家主の声の響きからどうやらリビングにいるらしい、さてはまた何かよく解らない機械を組み立てて足の踏み場も無くして動けないか組立作業が佳境で動きたくないのだろう。片づけてからじゃなきゃ飯は食えないだろうな〜とひとりごちて、オーバはサンダルを踏みつぶしながら脱いでぺたぺたと足音を立てながら短い廊下を歩く。ドアノブに手をかけながらデンジー、元気してたか?と明るい声で尋ねドアを開けて――オーバは硬直する。
「おー、久し振り」
手に持ったコンビニの袋を取り落としたオーバの視界にズームで入り込んで来た姿に、オーバは唯デンジの名を呼ぶしか出来ない。信じられない光景だった―…それは、それは
「で、デンジ?」
「お前の誕生日プレゼントいいもんが思い浮かばなくってさ」

フローリングに胡坐をかき俯きながらも大真面目な顔で声で語る、全裸のデンジの姿だったのだ!!

「だから俺をプレゼントしょ……」
「デンジィイイイイ!落ち着けええええええ!!」
オーバが奇声を上げながら素早くぴっちぴちのシャツを脱ぎ捨て、俺の主に下半身に投げつける。なんだ、お前も乗り気だな大胆だなオーバ。等と若干わいた思考回路のデンジにオーバは大慌てで捲くし立てる。
「デンジ落ち着こう?風邪かインフルエンザか?未確認のウイルスか?」
「デザートと言う名のプリンはあるがメインディッシュは俺だって言う」
「もういい、そんなエロビデオの設定みたいなのいらねーから!いいから服着てくれよデンジ何がお前をそこまで駆り立てたんだよ!!」
「折角恋人同士になったから、なんか何時もと違う事をしようかと」
「お前のサービス精神とサプライズは嬉しい、嬉しいけれどまず服を着ようかデンジ!」
オーバさんセクシーなお前にドキドキしすぎて直視出来ないから!と大急ぎで取ってきた着替えを押し付け急かせしばしぶしぶデンジはパンツとスエットを履き……手を止めオーバへ向き直る。
おいどうした?上も着ろって風邪ひくぞ?訝しむ声を上げながらシャツを着るオーバの足先を見ながらデンジは問いかける。その声は普段どおりに見せかけてどこか湿り気を帯びた響きだ。
「あのよ」
「ん?」
「俺らもうただのダチじゃねーじゃん?」
「……ん、おう」
戸惑いながらも肯定すると僅かに息をのみながらデンジは続ける。
「だからさ、もっと色々したいとか、しなきゃいけないのかなとか考えたんだよ」
「……んーそうか」
「でもさ、なんかこう、うん、急すぎるのもあれかなとか無理にっても思うんだよ」
「…………」
「それでもさ、何もしたくないとかは全然思ってないし寧ろしたいし」
手持無沙汰か緊張からかデンジは手を握ったり開いたりスエットを引っ掻いたり摘んだりと忙しなく動かしながらオーバにつむじと痛みかけの金色の髪を見せ続ける。
「それ考えたら、何やればお前が一番喜ぶのか解んなくなって……なんでか俺になってさ」
「?!」
俺、お前に連絡貰ってからずっとああだったんだ……と告白するデンジにオーバはやや堪えていたが我慢出来ずにあっさりと噴き出し腹を抱えて笑いだした。それが嫌だったのかデンジは不機嫌そうに顔を上げながらぼやく。
「……笑うなよ」
「ひ、ひ、ギャハハハハハ!笑うなって言う方がおかしいわ、なんでそこでお前に着地する訳?!デンジの超展開に俺もビックリだよ、なんでそうなったって今言ったな!でも裸は無いわーデンジさんいくら魅惑ボディだからって俺相手にそれはない!!」
無い無いと否定の連弾を打たれデンジの機嫌は急降下していくが泣く程笑うオーバは目尻に涙を浮かべながら一言こぼした。
「デンジ何時もどおりでいいって」
「……は?」
意味が解らないと聞き返すデンジにオーバは泣き笑いの儘続ける。
「別に誕生日に何か記念にちょっと一歩、なんて無理してくれなくたっていいよ」
「でも、」
「お前だって解ってんだろ?テンポ合わないと上手くいかないって。現にお前なんか可笑しいし」
「…………」
「俺達昔の少女マンガみたいに全然色々出来てないけれどさ、恥ずかしがる俺が言う事じゃねーけどさ」
言いながら肩で目尻の涙を拭きつつも内心恐る恐る、オーバは忙しない動きでスエットを掴み続けているデンジの両手に自分の両の指を重ねる。驚いた様に動きを止めた手の甲をぎこちなく滑り、解けた手をゆっくりと握るとオーバは漸くデンジの顔を正面から見た。デンジの青い瞳は戸惑いと不安と緊張間に揺れ今にも滲みそうだ。でも俺だってそうだ、緊張に喉奥は涸れ手から俺の鼓動が不安が伝わってしまうんじゃないかと思うくらい胸はドキドキしている。互い触れる事なんて珍しい事じゃないのに意図して触れた事は数ヶ月前から数えて片手しかない。そのどれもが緊張交じりのものだったが今日のは今までで一番だななんてわざとらしく考えながらオーバはデンジを先へと促してく。
「焦んなくたって必ず進むって、俺とお前だぜ?何もない方がおかしいだろ?」
あの日だってそう言っただろ?今までの道からちょっと違うところへ進むけど、それ以外は変わらないって。二人で一緒に行くから大丈夫だってお前も言っただろ?だから変に構えなくたっていいだろなあ、デンジ?
念を押すでもなく唯胸の内からあふれる言葉を口にするオーバの柔らかい声音と温かい手の温もりと落ち着きだした己の鼓動にデンジは深く息を一つ息を吐くと、唐突にお前はお気楽だなと無神経な事を言い放ち何だと!?とすぐさま言い返してくるオーバの声に更に安堵したように顔を綻ばせながら聞きたくても聞けなかった事を口にする。

「オーバ、誕生日何が欲しい?」
そう尋ねてくるデンジの顔があまりに奇麗で、青い瞳があまりにも優しく細められその眼に映る相手が愛しいとありありと伝えてくるものだからオーバは一気に頬が目元が耳が胸が熱くなったのを感じ咄嗟に視線を逃がし顔を伏せた。
「?なんだ、欲しいもん無いのか?」
重ねて聞いてくる声が耳を鼓膜を優しく擽るのに背筋がぶわっと粟立ち首筋に鳥肌が立つ。駄目なんだよ、こいつが本気でこう言う顔するともう全身が心臓になったんじゃねーかってくらいどきどきしてどこの女子だってくらい顔中赤くなっちまうんだよ俺。だからお前のモーションを何時もはぐらかしてるのにっっ
なあオーバ、と伺ってくるデンジの声にようやく絞り出すようにオーバが呟いたのは何時も通りの物とほんの少しだけ違う……似た様なもの。

お前とのマジバトル券と…………デート券

なんて恥ずかしそうに呟くオーバにさっきの勇気はどこに行ったんだよと薄く笑いながらデンジは逃がさないよう掴んだ手に力を込めながら更に耳元に顔を寄せ夕日に負けないくらい首まで赤くしたオーバに先程よりも更に優しく柔らか囁いた。

そんなの何時でもするよ、オーバ。





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