あなたと三千里(ワタッコ視点のミナキ+ワタッコ)




昔々、と言うほど遠くない、でもそれなりに季節が過ぎ去ったあの頃、こんな嵐の後の澄み切った春の青空の下で、わたしはあなたに出会いましたね。

その時のわたしは運悪く前日の嵐で仲間とはぐれ、途方に暮れていたのであなたの存在に気付くことが出来なかった。その時のあなたはまだ子供で、結構失礼な方でしたね。疲れてぐったりとくさむらの中に身を潜めていたわたしのおしりを棒で乱暴に突っつくような人間でした。
しかし、逃げる元気もないわたしに出来ることは無視をするか威嚇するくらいでいくら威嚇してもあなたは逃げるどころかわ益々わたしを棒で突付く始末。
その内低い声があなたを呼び、あなたは棒を放り捨てるとその声の元に行き、そしてとても怒られていたようですね。人間の話していることが解らないわたしでも、威嚇するように低く吠えるように大きな声で叫ぶのを聞いたら怒られているのだと言うのは解りました。
それからその低い声の人間に抱き上げられるのを感じた後わたしは気を失い、次に目が覚めたとき目の前にいたのはあなたと低い声の人間―あなたのおじい様と言う方でした。あなたがわたしに何かを話しかけてきたのは解りましたがまだまだ疲れていたし、人と一緒にいたことの無いわたしには何を言ってるのかさっぱり解りませんでしたしあなたがわたしを棒で突付いたことをわたしは忘れていませんでしたからあなたを警戒していたのです。でも、この日からあなたがわたしを乱暴に扱ったり棒で突付いたりすることは二度とありませんでしたね、それどころかあなたは毎日毎日わたしの手当てや世話をしてくれました。
わたしの調子がもどり、さあ外に戻らなければならない時にあなたは良かったらこれからも一緒にいない?と恥ずかしそうにわたしに言ってくれましたね。お尻を突付かれた恨みを忘れていなかったので敢えて仕方ない態度を取りましたが、本当は嬉しかったんですよ?
それからの毎日は夢の様な日々でした。

あなたと一緒にいる間、今でもそうですがあなたと一緒にいるのはお年を召されたおじい様では骨の折れる行為でわたしがあなたと一緒にいることを殊更喜んでくれましたね。だってあなたは、わたしの姿が見えなくなると探しにきてくださいましたもんね?おじい様が鉄砲玉の速度が落ちた、と言いながら笑ってらしたのを良く覚えています。
モンスターボールを持てる歳の頃になり、ボールの中にいるようになった私や他のポケモン達を、あなたは頻繁に出してくださいますね。すごく嬉しいです、だってボールの中にいるとあなたの事が心配でならないんです。他の面子も同じ事を言います、あなたが、ミナキさんは危なっかしいから目が離せないと。
みんながそう思っていることをあなたは知っているんでしょうか?もし解っていないなら少しは考えていただきたいです。あなたとの道中、心臓が何個あっても足りないくらい私達はずっとはらはらしっぱなしなんですから。

出会いから年月は経ち、あなたが子供から大人になろうとする頃あなたは毎日枕元のわたしに話してくれていたスイクンの写真を見せて下さいましたね。熱の籠る目と声でスイクンの話を、写真を指差しながらして下さるミナキさん。実はわたしはスイクンの姿を何度か目にしているのですよ?でもわたしの言葉が解らないでしょうから唯あなたのはなしに頷いて、なかなか寝付かないあなたにねむりこなをかけて差しあげる日々をどれだけ送ってきたことでしょう。

そんなあなたが敬愛して止まないスイクンへの思いを胸に抱くだけに留まること等、到底出来ないと言う事をわたしもおじい様も知っていました。
「両親の反対を押し切った、今からスイクンを探しに旅に出るんだぜ俺!」
と声を弾ませながらわたしに報告して下さったとき、わたしはああ、あなたとお別れしなければならないのですね。と内心がっかりし、とても寂しい想いをしました。
わたしはそれまでに二度進化してあなたと出会ったときより大きく、手も足も少し長くなりましたがそれでもあなたの旅の供としては役に立てないだろうと自分で解っていました。長くなったとは言えわたしの手の先には綿毛が生え何に役立つと言うわけでもありません。
あなたの行き先を照らす灯りにも、あなたの障害を打ち破る力にもなれないし旅先で寒さを凌ぐ為にあなたを温かく包むことも…何も出来ないのだと自分で知っていました。だからあなたに置いていかれると思っていたのに、手早く荷物をまとめたあなたは何をしているんだワタッコ!スイクンを探しに行くんだぞ早くおいで?と言うではありませんか?その言葉に私は耳を疑いました。
言い方は悪いですが鉄砲玉、遮眼帯つけた馬、向こう見ずの三冠を漏れなくおじい様に頂いているあなたでしたがそれでもあなたが知識に富み聡明で、ポケモンのことをある程度以上理解し更に旅の厳しさを知っていていることを知っているわたしとしては、スイクンを追うことにはしゃぎすぎて頭が可笑しくなったんじゃないか?と思わざるを得ない言葉でした。嬉しくないかと言われたら嬉しいです。しかしそれと旅に出るメンバーとしてわたしを選ぶのは違います。
落ち着いてほしくてしびれごなでも出そうかと綿毛を振るわせるわたしに、痺れを切らしたあなたはわたしを抱え、住み慣れたタマムシを飛び出しエンジュに飛んでいったのも随分と前の事の様に思えます。
エンジュに着くまでの道中にあなたは沢山のことをわたしに説明してくれましたけど、その話は又今度にします。本当に色んな話をずうっとしてくださったので一度に思い出すのは勿体無いのです。

ミナキさん、今迄どれだけ一緒に旅をしてきたでしょうね、スイクンを捜して西へ東へ、北へ南へ。エンジュに戻るたびマツバさんに叱られてもわたしは助けませんからねと最初宣言したとおりですから、その様に睨まれても私は反省しませんよ。マツバさんにはお世話になっているんですから連絡してしかるべきなのにミナキさん、あなたは何時も連絡を忘れてしまうんですからじごうじとくと言うものです。
さあミナキさん、夜は遅いし明日は紙に文字を沢山書かなきゃいけないんですからもう寝ましょう。マツバスペシャルの後ですからお疲れでしょう?
布団に突っ伏したミナキにかけ布団をかけてやろうと布団を手で挟み必死に持ち上げるワタッコに、ミナキはさっと顔を上げると嬉しそうに話し始めた。
「ワタッコ、俺とワタッコとゴーストとマルマイン、フーディンにスリープはもう千里は一緒に旅をしているな!一里は四kmだから四千km、それでもスイクンには届かない、何て遠いんだろう」
でも諦めないぜ俺!折角お前もいるんだ、陸から海から空から、もっともっと沢山の物を見ような!スイクンにも会って、ゲットして、皆で旅をしような!なんたってお前は俺の一番のパートナーんなんだから!!
子供の頃の様に頑是無い顔をして笑うミナキさんにわたしの口からは勝手に嬉しい声が漏れ、嬉しいか?今日は一緒に寝ような!と上機嫌にあなたはわたしを抱きかかえ布団に潜り込みます。マツバさんのお邪魔にならないよう場所を変えて眠ろうとしていたのに、ミナキさんはしっかりとそれでいて優しく私を抱き抱えるものだから抜け出すことも出来ずただただ、ミナキさんが眠りに落ちるを腕の中で感じるだけでした。

ミナキさん、わたし達はあなたとなら何千里でも何万里でも一緒にどこにだって行けますよ。
だからもう少し体を大切にしてくださいね、わたしをパートナーだから何処にでも連れて行くと言ってくださったことへの嬉しさを感謝をお礼を果たしたいのですから、何時までも元気でいてくださいね?
聞いていないだろうあなたに甘えたような声で鳴き、わたしも目をつむり眠ることにしました。
懐かしい夢が見れたらいいなと、淡い期待を温かな腕の中で期待しながら。






まりもさんのリクエストでした。





back



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -