50:50でいきましょうか


「…突然の有給休暇が出た訳だが」
しかつめらしい顔をしながら、レンブがそう切り出す。ギーマは目を丸くして、その当たり前の事実を重々しく告げた当人を見つめた。
「……そうだね」
「それだけか」
「…それ以外に何か?」
「リーグに挑戦したがっているトレーナー達はどうするんだ?」
一拍置いて、ああ、と間抜けな声が出る。我ながら無神経な反応だとは思うが、
「ああ、じゃないだろう。毎日のように挑戦者が訪れるリーグが、予告もなしに閉じられるなど…」
目の前でほんのり青筋を立てているレンブに比べれば、自分はまだ健全真っ当な労働者の頭をしている。ギーマは頭の中だけでそう悪態を吐き、わざとらしく顎に手をやった。
「うーん…確かに、いきなり有給休暇で休め!なんて初めてみたいなもんだからねえ。出された貼り紙、見た挑戦者はガッカリだろうね」
「がっかりで済むのか?」
「済むよ。また明日来ればいい」
「その日に備えて気持ちを高めてくる挑戦者もいるだろう。最良の状態を作った挑戦者は?話は道端のバトルじゃない、リーグなんだ」
あーハイハイ、ごめんよレンブ。あしらうように呟けば、更に何かを言おうとしてしかし諦めたらしいレンブが静かに頭を抱えた。
「…相変わらず、師匠の考えることはわからない」
「ハハ、頭空っぽにする為に休暇があるんだよ?休みの理由にそんな頭使ってどうするのさ」
「………」
「え、なに?」
押し黙ったまま、ギーマをじっと見るレンブ。何か不味いこと言ったっけ、と己の台詞を脳内で反芻した。
「お前が、頭を使わない日があるのか?ギーマ」
「…な、何それ…。私だって休むさ」
「リーグにいない日はほとんどギャンブルだろう」
「…低レートの争いは頭空っぽでも勝てるよ」
右手をひらりと振ってみせれば、レンブはこれまた難しい表情で黙り込んだ。
「……そうか……」
と思えば、ぽつりと呟いたきり眉間に皺を寄せ。
「なに、今度は何を悩むのさ」
「いや。俺は結局、今日をどう過ごすべきかと思ってな」
「いつもみたいに鍛錬したら?」
「毎日一定のメニューを行なっている。こんなに時間が余っては、やり過ぎで体に響く」
「はあ……じゃあ散歩でも行ったら?」
「……そういえば、ネジ山の監視も暫くやっていないな」
「違う、そうじゃない。……うーん、レンブのおかげで休暇になったのかもね」
やれやれと肩を竦めたギーマに、なに、と顔をしかめるレンブ。
「俺のせいだったのか…!」
「“おかげ”って言っただろ」
またしても何やら頭を捻っているレンブ。君そんなに頭使うキャラじゃなかったよね、そろそろやめなよ。言ったが最後盛大な背負い投げを食らいそうな台詞は飲み込み、ギーマは組んでいた脚を入れ替えた。
「しかし、そんなに決まらないかね。休暇の過ごし方」
いきなり暴漢が襲ってきてもすかさず返り討ちに出来そうなんだけど。いや、体はパッと反応できても頭は駄目ってことか。
もはや台詞も届いていないレンブへ、ポンと浮かんだアイデアを投げる。
「じゃあさ。私の家に遊びに来なよ」
「………」
言い放ち、レンブの視線を受けて初めて、冷静な自分が自分を煽った。
(何言ってるんだ俺、いきなり)
どこから出てきたのか分からない言葉に、言った当人が疑問符を浮かべる。師匠と一緒に師弟水入らずしろよとか、家でリラックスとか、幾らでも言えたのに。
「……行って、何をするんだ?」
「そりゃあ、なんか喋ったり夕飯食ったり休んだり…自分の家で独りでいるよりはマシじゃないか?」
さらさらと言い訳を紡ぐ裏、一つの結論が出る。
家に来てほしいってことじゃないか。
「なるほど。わかった」
「…え?」
「すまないな、ギーマ」
「……ホントに来るの?」
「来いと言ったのはお前だろう」
「……来るんだ…フーン…」
「ああ、そうか。何から何まで世話になるのは、流石に悪いな」
そう言ったレンブが、小さく膝を打つ。
「夕飯は俺が作ろう。食材も買っていく…それでいいか?」
一連の流れにぽかんとしていたギーマは、その言葉でいよいよ額を押さえた。
「……ハンディ付けすぎだ」
「…ん?」
くつり、顎に手を添えて含み笑い。ギーマの口端に浮かんだ悦楽を見て、レンブがいつものように不可解に眉を狭める。
「それじゃあ決まり。なんなら泊まっていってもいいよ。…本当は、低いレートで適当に賽でも転がそうと思ってたんだけど。こっちの方がスリリングだし」
ますます分からない、と首を傾げるレンブに、既視感のある背徳感。

人生はギャンブルだ。だから、こういう偶然にベットしてみるのも悪くない。賭けをふっかけたのは俺だけど、レートを跳ね上げたのはお前だ。もちろん、持ち金全部躊躇い無し。
「じゃあ行こうか、レンブ」
ふふ、ゾクゾクするね。



50:50でいきましょうか






ざっぴんぐの而立様にギマレンリクエストさせていただき頂戴してきました!もう、此の二人の温度差堪りませんっ本当に有り難うございました!

15/4/19





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