いちまんヒットフリーおきば | ナノ

ギマレン


・瞼に咲け

一輪で構わないのだ


「いい結婚式だったね」
「ああ」

共通の知り合い、等とお互いのコミュニティーにおいては奇跡のような人物が結婚し、互い別々に式に呼ばれ会場で顔を合わせた時一緒に行けばよかったねなんてこの男は諳んじながら式の間近付いてくる気配すらなかった。妙に義理堅いと言うか空気を読むと言うか世間体を考えるのだ、何だかんだ言って気遣われているのだと気付いた時、なんと言えばいいか解らず妙な顔付きになり、近くに立っていた知り合いに指摘される迄自分は祝いの席には全く不似合いな表情をしていたらしい。
そして帰る頃になって漸くギーマは声をかけて来た、それがつい10分ほど前の事で、此処迄がとても長い気がした。同じ家を別々に出て同じ会場で別々に行動して、たかが半日にも満たない時間だったのに、恐ろしく長い時間に感じたのは一体…?

「お前、そんな花つけてたか?」
ふいに視線を遣ったギーマの手には一輪の薔薇が握られてた。花弁はレースの様に薄く、淡いグラデーションに彩られ複輪咲きなのだろう、いくつかの蕾が大輪の花の陰に隠れていた。
ああこれ?となんでもない風に持ち上げたその手で指先で弄びながら
「くれたんだ、花嫁さんが」
とギーマはあっさりと言った。

「は?お前男だろうが」
「うん、正真正銘の男。丁重にお断りしたんだけれどね、どうしてもって譲らなくてさ」
「…あの人と結婚するから只者ではないと思ったが、変わった女性なんだな」
「いやー、変わってるかどうかは兎も角只者じゃないのは確かだね」
「?」
なんだかんだと声をかけてくる女性をあしらう―とは失礼だが、失礼の無いようにお断りする私に彼女はこう言ってブーケの一輪を差し出したのだ。

貴方の愛する人には、大輪の花束よりも一輪の方が効果的なんじゃないかしら?

いや、見透かされてるとはねと肩を竦めれば前からバレバレなのよ貴方。と何時も通りの取り澄ました顔で彼女は言いきるとこう耳打ちしてきた。
「私が結婚したのよ、次は貴方の番じゃない?良い報せ、期待してるわよ」

いやはや流石だ、世界を舞台に戦ってきただけある、相変わらず視野が広い。なんて心にも無い謝辞を述べてると男見せなさいギーマと名指しされ、ブーケ指名されないだけ有り難いでしょ?とお優しい心遣い。
涙が出そうじゃないか、二重の意味で。

発破をかけられたのだ、背を押されたのだ、なかなか切欠を作れず時間だけを浪費していく私と彼の関係を、じれったい間柄を見てられないと常々言っていた彼女に晴れの舞台で嗾けられた。全く、本当にいい友達だよ彼女は。
それに勝負師の血と魂に火がつかない訳がない。だか燃え上がる炎では駄目だ、胸を焦がす激情が相手の心を焼き尽くしては元も子もない。ああつまり、そう言う事…か

確かに一輪で構わない、

この胸の溢れ咲き零れる情動を想いを告げる切欠は、この一輪の花束で十分だ。君の瞼に灯る程の微かな炎からこの情が花開く、その足がかりには十分過ぎる花嫁からの最高のプレゼントだ。

最高にロマンチックじゃないか、

結婚式の帰りに、もう一組の新しい未来が咲くなんて!





back



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -