没の部屋 | ナノ

リクエスト没2


「マツバー!」
と勢いよく駆け寄ってくるミナキを、マツバは思いっきり突き出した腕で止めそれ以上の接近を拒否した。
「何するんだマツバ!」
「君こそ何するつもりだったのかなミナキ君」
「えー、久し振りに会えたからつい嬉しくて」
「つい?」
「ハグを」
なんて言いやがるもんだから、マツバは遠慮なくミナキにチョップをし始めた。
「僕エンジュっ子だからそう言う他所の文化に馴染み無いな〜」
チョップは次第に勢いを増していく。
「い、痛いぞマツバ、脳天が、頭が割れちゃうぞ!」
「今君がすべき事は何?言ってご覧?」
「た…ただ今帰りました……手を洗ってうがいをして……着替えをします」
宜しい、の一言でチョップをやめたマツバはミナキを促し自宅の玄関を潜った。その後、手を洗いうがいをし着替えを終えたミナキを見たマツバは
「よーし、よく出来たねミナキ君」
わしゃわしゃわしゃ!とポケモンを撫で回すみたいにミナキの髪を撫で回した。
「や、止めろ髪が、髪形が乱れる!」
「よくやるよー、ポケモンを褒める時に」
「俺はポケモンじゃなーい!!」
「はーいだっこだっこ〜」
「わーやめろやめろ〜!」
ひょい、と脇の下に手を差し込んでミナキを持ち上げたマツバはミナキが騒ぐのもお構い無しにミナキを抱き上げ、何故かくるくる回りだした。
それは窓全開で声も大きかった所為で周囲にじゃれてるのがバレバレだったのを、ミナキは暫く後に知るのだった。

*

「マツバ!」
「…今度は何?」
洗濯物を取り込み縁側に放り出していたマツバにミナキは何ってハグだよハグ、抱擁!とまた叫んでいる。
「…さっき抱っこしたじゃない」
「抱っことハグは違う!」
さあレッツハグ!と両腕を広げたミナキにマツバはさもさも嫌そうな顔しかしない。
「マツバが足りないんだ!マツバ!ぎゅっとしてその後他の事もしたいんだよ俺は!」
「はいはい、欲求不満を日の高いうちから声高に宣言しないで、恥じらいを持ってミナキ君?」
「俺は十分紳士だー!!」
解った解った、とミナキの傍に歩み寄ったマツバはさっとミナキの背後を取るとあっと言う間に首に腕を回し、頭を固定し、ミナキの足を払うと同時に縁側にどすん!と腰を落として腕に力を込め実況し始めた。
「ヘッドロック決まった!ミナキ如何切り返すか!」
「決まった、じゃない!!あででででで、スリープ助けってカウント取ってるんじゃない!!」
ぺちん、ぺちんと主人が負けているにも拘らず床を叩いているスリープは何が楽しいのかニコニコ笑っているし、他のポケモンも二人を囲んで床を叩いている。
「レフリーのカウントが止まない!どうするミナキ、マツバのロックはその程度じゃ外れない!」
「ギブギブギブ………」

「あら、マツバはんようはしゃいどりますね〜」
「ミナキはんが帰ってきはったらしいですえ」
「そしたらはしゃいでもしようがないどすな〜」
等と言う会話も生温い視線も、当人達には聞こえていない…

*

「マツバ!」
「寝る前までなんなのミナキ君」
うんざり、と言った顔をするマツバも何処吹く風、ミナキは胸を張って
「夜で寝るとなったらする事は数えるくらいしかないだろ!」
と全く色気のないお誘いをマツバにする。が、相手はマツバだ
「うん、就寝するよ」
と全くの素っ気無い返事に
「意地悪!マツバ解ってやってるだろ!!」
と流石に怒り出した。
「何の事だかさっぱりだよミナキ君」
「お前が足りない、愛が足りない、温もりが足りない!!」
よくもまあいけしゃあしゃあと恥ずかしい事を連呼するもんだ、とマツバは呆れて物が言えない。
「全部形が無いよ、足して如何するの?溜めておけないでしょ?」
溜めておける!とミナキは言った後
「だから充電しておくんだ、マツバの愛と温もりをエンジュに居る間に!さあマツバ!」
アイウォンチュー!だなんて、今時子供でもやらない直球の求愛行動に呆れを通り越して感心すら覚える。ミナキ君、時々君が解らないと思っていたけれど、今は普通に君が解らないよ…
仕方ない。
「しょうがないなミナキ君は」
「お。やっとその気になったかマツバ!さあぎゅうっと!」
「我慢してあげてたのに、相変わらず君は迂闊な人だね」
「マツ…」
「そんなに言うんなら、遠慮はしないよ?」
このマツバの
「施術される側の痛みを無視した整体テクニックを存分に味わってもらおうじゃない…」
「え、ま、まつば?マツバサン??」
「泣いても叫んでも知らないよ?」
ミナキの悲鳴が夜のエンジュに響き渡ったが、ポケモンの遠吠えと相俟って無い事にされるのも最早エンジュの日常であるとは、ミナキは知る由も無い。

*

「マツバ…」
「んー?」
「お前、楽しいか?」
「すっごく楽しい」
ミナキの全身の疲労も癒え、引き換えの痛みにのたうち逆に疲れたミナキは動かない体を布団に横たえながらマツバに問うたが、あまりにも予想通りの答えに涙も溜息も出ない。
「ミナキ君は?」
「は?」
「随分疲れてるようだったから、休ませてあげようと思ってたのに。君無駄に張り切ってるんだもの」
そう言いながら優しくミナキの頭を撫でるマツバの顔がふいにミナキの顔に影を作り――

ミナキの声を飲み込んだ甘い雰囲気を一瞬だけ醸し、あっと言う間に影と共にミナキの顔の前からマツバが避ける。
「……まつば」
「充電完了した?」
柔らかに微笑むマツバを見上げながら頬の耳の、顔全体に熱が集まるのを感じつつ
「…もうちょっと足りない、かな?」
と正直に伝え、確かに軽くなった肩と腕の動きのよさを感じつつマツバの袖を引いて自らマツバの影にミナキは落ちていく。
「甘えんぼさんだね」
構わないだろ?空っけつなんだ、お前を充電しなきゃ眠れやしない。だからマツバ
「もっと充電してくれよ」
夜は長いから。





唯マツバさんが構いたがりなだけだった!と打ち終わって略

14/10/17





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