没の部屋 | ナノ

夜の香に埋もれ(ギマレン)


どちらかの家に帰るとも無く、私達の張り詰めていた気がふーっと抜けてしまうのか緩んでしまうのかどうか判断していないが私とレンブは距離が無くなる。

物理的な距離と言うか感覚と言うか、お互い日頃は適切な距離を開けて接し仕事をこなしているのでプライベートゾーンがしっかり確保されているんだけれど、其れが融けてなくなってしまう。
例えは出来ないんだけれど正に今の状況が全てを物語っているわけで…

*

例えばソファーに腰掛けている間何の用もお互い無いんだけれど、どちらからともなく寄りかかる様に相手の傍に居て時間を過ごす。どちらかが新聞や雑誌なんかを読んでいればそれを横から覗く訳だがその時は相手にのめりこみ気味だし、脚やら肩やらが密着している状態だが、それも全く気にしない。
飲み物を取りにキッチンへ行ったり本を見繕いに立ったり、ちょっと摘まむものを作ったりする間も別に用なんか無いし一人が行けば済む事だ。それなのに相手の後ろを着いて歩き付かず離れず所かくっつきすぎ!なんていわれるくらいの至近距離を維持して家の中をうろうろ…そしてソファーなりベッドなりに腰を下ろせばもう一人も直ぐ隣に腰を下ろして…うん、これはあれだべったりだ、職場の彼は偽者じゃないかと言われたら否定出来ない程の変貌っぷりだ。

でも悪い気なんか一っつもしないし

「レンブ」
「ん?」

逆に優越感でいっぱいだ。だってあのレンブが私にしな垂れかかって(傍目から見れば圧し掛かられているようにしか見えないだろうが、其れは問題ない)何言も漏らさず黙ってくっついてるんだよ?
小言も、溜息も文句も言わないで唯べったりと!もう、可愛いったらありゃしないね!!
等と脳内妄想を止め処なく広げていたギーマだが顔は何時もの儘、余裕綽綽なのか何を考えているか解らない風に取り繕った儘
「なんでもない」
とこぼし、くっついているレンブの肩に腕を回す。ちょっと届いていないとかそう言うツッコミは受け付けないから。
「変な奴だな」
「君と一緒に居れて幸せだなーって思っただけ」
「っ…そんなの………俺もに決まってるだろ?」
「本当?」
「ああ…本当だ」
「嬉しいな、職場だと寄るな触るなだし」
「あれくらしないと…お前の傍に無意識にいってしまいそうで」
「え?」
「…忘れろ、失言だ」
「いやいや、何処が失言なの君、あきらかにぼろっと零してくれた本音でしょ?しかも嬉しい系の」
「羞恥心で死ねそうだ…」
「今ので!?」
「冗談だ」
「最近冗談の腕を上げたようだねレンブ、なかなかの筋じゃないか」
「お前と一緒に居れば嫌でもこうなるだろ?」
おいおい、嫌味かよ…そもそも私達ってどっちかの家に常に二人で居るんだよね?なにこれ同棲カップル?
え?何レンブ、もしかして長く一緒に居るから相手の行動が伝染って来たって遠回しに言いたいの君?
それってどんだけ甘甘なの?!
「…なんだその顔は」
どうやら顔に出ていたようだ。屹度今の私の顔は締りなんか一切無い、だらしなく緩みきった顔になってる。こちらこそ羞恥心で死ねそうだよレンブ、でも死んでられないな。
「やっぱり君は可愛くて素敵で、どうしようもないくらい堪らない」
読んでいた雑誌も放り投げ、ぎりぎり回る程に広く厚い彼の肩を抱き、其の儘圧し掛かるように抱き竦めて愛の言葉を雨の様に降り注がせる。死んだら言えないし抱き締められないし君と居れないし。やっぱ駄目、死んでられない。
小さな子供をあやすみたいに体をくっつけ、ゆっくりと揺すりながら続けて囁いているとそっぽ向いていたレンブがぽそっと何言か呟いた。あまりにも小さな声だったので「ん?何?もう一回教えて?」と甘える様に強請ると、どうだい?

小さな声で「俺も同じだ」なんて言われてご覧?もう、無い距離をマイナスにしてやろうか?!なんて下世話な考えを実行に移しかねないんだからさ。

寧ろそうしようかな?だっていいじゃない、もう此処は職場じゃないんだもの。


*


家に帰ると俺達はまるで鴨の親子の様にくっついて行動してしまう癖があるらしい。ギーマの後ろを俺が、俺の後ろをギーマが何する訳でも無しにえっちらおっちら、ぺたぺた、ぱたぱたのそのそもそもそ…兎に角付いて回るのだ。
本当に用なんか無い、寧ろ一人がやれば済む事なのにお互いが一時も離れようとしない。つまり―

べったりだ、職場のこいつは偽者じゃないかと聞かれたら肯定してしまいかねない程の変わりようだ。まさしくべったり、そこいらの熱愛カップルよりも下手したら距離感無しだ。

でも嫌な気分ではまったく無いし

「ギーマ」
「んー?」

隣にギーマがいる事が、とても心地好い。別にギーマが何をした訳じゃないのに、隣にいるだけでまるで恋愛に振り回される少女の様に胸がときめき続けてしまう。おい、我ながら気色悪い。如何したんだ俺?
落ち着け、俺は筋肉だらけのムキムキ男だ、こんなのが花盛りの、花も恥らう乙女や少女がやってこそ様になる仕種を俺がやって如何すると言うのだ!?ギーマにどん引きされて嫌われたら如何するつもりだ!落ち着け、自重しろ、気を引き締めろ。お前なら出来る、レンブ。

「…なんでもない」
「え?焦らしプレイ?受けてたとうか?」
「そんなんじゃない!」
「俺は君の我慢がどれだけ持つかって言う程にいじり倒すけどね!」
そんでもって君が意地悪するなって泣きそうな顔をしてお願いするのを眺めるよ。
「っ変態!」
「うん、合ってる。俺変態なんだ」
でも君はそんな俺が好きでしょう?そう言って覗きこまれた俺の顔は屹度もう泣きそうだ、し真っ赤だ。そんな俺の顔を可愛い、本当に可愛い、なんて連呼しながら
「俺はそんな素直で可愛い君が大好きだよレンブ、」
愛してる
なんて嘯くのだ。でもそう囁かれると、本人には言わないがもう体の芯がぐにゃんぐにゃんになってしまう気がする。自分だって変なのかもしれない、だってお前に囁かれるだけどもうどうにでもなってしまえと思ってしまう自分も居るんだ。
「馬鹿、擽ったいぞ」
耳元で囁かれる言葉の波に擽ったいと肩を竦め逃げようとするが
「駄ぁ目、逃げないで」
とまた甘く囁かれ柔らかく縫い止められて耳元で囁きを再開される。擽ったい、馬鹿、顔が赤くなったらどうしてくれる、恥ずかしいじゃないか。
俺の考えなんてお見通しの男だ、屹度この状況も楽しんでる。

でもまだ言ってやらん、もう少し焦らしてやる。その程度の意地悪なら俺にだって出来るんだからな

なんて俺の余裕は、こいつにとっては子供の小細工程度のものだとこの少し後に俺は思い知らされるのだが、それにすらそんなに不満が無いのだからもう降参してしまおうか、だってそうだ。此処は職場じゃなく自宅なのだから。





某方のリクエストで頼まれてもいない所迄書いて、途中で気付いて引っこ抜いて、でも殆ど出来てるし…とケチの心ででかした蛇足。
屹度多分、否絶対無いだろうけれど、リクエスト主様から寄越せ等と言われたら差し上げる所存。

14/7/20





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