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雨粒では漱げぬ恋(マレクク)






何時も寝癖の様に癖の強い髪を他の子供にからかわれ泣いていると彼は
「マーレインの髪はヒヨコの様に柔らかくてあったかいし太陽みたいなきれいな色だ!」
僕なんか黒こげだぜ?なんて笑いながら触ってきた。日に焼け絆創膏の絶えぬ小麦色の指が優しく絡まるのは全然嫌じゃなかったし彼のするすると指から逃げていく真っ直ぐな黒髪に触れるのがぼくも好きだった。

「親友聞いてくれよ、頭が焦げちまいそうだぜ」
「帽子も被らないでフィールドワークしてる馬鹿だからね、元々黒焦げだしいいじゃないか」
「酷い!帽子忘れても帰らないで炎天下うろついてるのは認めるけど!!」
「自業自得だよ」
「マーレイン冷たい!アローラこんなに暑いのにマーレインはぜったいれいどだ!」
「はいはい、タオル使いなよ」
タオルを渡しながら、汗だくもいいとこだなお前はと触れた髪はほつれ湿るどころか雨に打たれたように濡れそぼっている。いっそのことスコールでもくればこの滝のような汗も胸の中のもやもやも流れていくのだろうか。マーレインも髪ぐしゃぐしゃだなと犬でも撫でるように掻き回してくる、髪から滴る汗が踊り目に突撃してくるのが痛くて身をよじるとふざけてると思ったのかククイは益々髪の毛をぐしゃぐしゃにしてくる。お返しとほつれた髪も気にせず掻き回してやると何か言ってるけれど都合よく降り注ぐスコールが僕等の声を掻き消して後には笑い声しか残らなかった。



「何してるんだいククイ」
「……マーレイン」
扉を開ければよく見かける衣服とは違う白を身につけた親友が緊張からだろう真剣な、それでいて余裕の感じられない表情で僕を見上げてくる。椅子から立ったり座ったりを繰り返し手を揉み絞りと忙しなく、日頃の彼とは思えない程どこか頼りない。
「……嬉しいんだけど、なんか不安もあるんだ。本当に嬉しいんだけど大丈夫かなやってけるかな、彼女さは本当にいいのかなって」
お前がマリッジブルー拗らせてどうすんの、しかも直前に。情けない奴だなぁお前はと呆れながらもマーレインはククイの肩を軽く叩いて励ました。
「もっと幸せな顔しなよ」
バーネットさんも不安がるだろ?お前なら大丈夫、アローラのポケモン博士で僕の……長年の親友じゃないか
「シャキッとしなよほら、髪もセットしてもらったんだしイケメンが台無しだぞ」
ほつれてるぞ、纏めた髪からはらりと落ちる一房を指先で戻してやればマーレインだって崩れてるぞと節くれ始めた指が僕の言うことを聞かない髪を押し上げる。
「……有り難うマーレイン、本当に君が友達でよかった」
「どういたしまして、二人で世界一幸せになりなよ」
嗚呼、もう僕からも君からもこうやってお互いの髪に触れる事はないだろうねククイ、親友、特別な想いの人
指から落ちる髪に名残は惜しく何処までも尽きないがどうにも出来ない。幾度の雨でも風でも波でも流れなかったこの想いはまだまだ僕の胸の中を満たすだろう。




17/12/20