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集積所の懺悔(ネジクロ)






今年も凄い量だな。
溜め息の様に落ちた言葉の先にはごみ袋に詰め込まれた色とりどりで鮮やかで華やかできらびやかでと飾り立てられる言葉を山程用意されるべき、贈り物の数々があった。贈り物だったそれらはごみ置き場に積み上げられていた。

「本当、なに考えてるんですかねー毎度毎度」
「ネジキ?」
風邪を引きますよ、と何時もの気遣いの言葉を放ちながらさくさく、と雪を踏み締めクロツグの視線の先に自分のも落とし繰り返す。何を考えてるんだろう、

「普通の手作りなら、普通に買ったものなら受け取ってもらえるし嫌がらせなら何時も通りすればいいのに」
その嫌がらせが包みから漏れでて周囲のまともな贈り物を巻き添えにして泣く泣く一緒に捨てざるを得なかったものも目の前の袋の山に入ってる、それすら折り込み済みか予想出来ないのか。出さない言葉の代わりに漏れでる吐息は白く、湯気の様に棚引いて冷たい風に流されていく。
暫しの間の後、ああそうだとネジキは肩に下げていたバッグから包みを取り出しクロツグに差し出して呼び掛ける。
「はい、クロツグさん」
「ん?」
クロツグさんにですよと手渡された袋は明らかに手作りと解るラッピングだ、中からは焼き菓子だろうか、ふわりと香ばしくでも甘さも解るような匂いがした。
「コクランさんとダリアさんとケイトさんと一緒に作りました、味も中身も大丈夫ですよ」
ああ、カトレアとお茶をして一緒に遊んでいた時のあれか。お前等は来るなと念を押されて、二人で色々言いながら待っていたんだった。甘い甘い、お菓子の焼ける匂いに二人で少しそわそわしていたのにその時階下から聞こえたビニール袋の擦れる音と重量のあるものが投げられぶつかる音に気になってつい席を外して此処に来てしまっていたんだ。毎年の結末だと解っているのにそれでも何時も見に来てしまう、勿体無い、痛ましい、後ろめたい――他にも沢山ある感情や言葉が渦を巻いて頭の中からは胸の腹の奥迄滲み出ているが明確に言葉にしては答えを出してはいけない気がして何時迄も唯の感傷の域を出ない色の洪水の前に今年も唯独り、立ち尽くすだけだと思っていたのに。

隣にはネジキがいて、手の中には皆の贈り物があって。
決して大きな包みでも重さがある訳でもないのにそれはとても重く感じた。大切で嬉しいと言う気持ちが溢れて堪らなかった、ああ
「……こうやって、手渡しされたのは何年ぶりだろうな」
嫁さんは毎年フロンティアに送ってくれるけど、手渡しされたのは結婚前後数回だけだ。解ってる、自分が悪い。罪悪感から益々間は空き手紙は屑箱に行く数が増え筆を持つのも受話器を握るのも躊躇われた。それなのに、二人の事は変わらず愛しい儘想いだけが募りこんがらがっていく……
「他のものも、こうやって安心して手渡しされて受け取れたならどんなに幸せで穏やかでいられただろうか」
「……ええ」
「今年はまだ受け取ってないんだ、嫁さんの」
「……きっと帰りを待っていますよ」
貴方が色々思い悩むよりもずっと単純に、当然の様に貴方を待っていますよ。
「そうなら、いいな」
「そうですよ、貴方の自慢の奥さんと息子さんでしょ?」
何時も惚けまくってるくせに、考えすぎなんですよあんた。今日の仕事終わったら帰れ!
雪を蹴上げるようにクロツグの脛数度蹴ると痛い痛いと体をしならせながらもクロツグの顔は先程より穏やかだ。
「もう入りましょう、カトレア達も待ってますよ」
上着も何も着ていないネジキは流石に寒いのだろう、指も耳も鼻も寒さで赤く染まっていてズボンで指を擦る様に暖める仕草をしている。ネジキこそ風邪を引いてしまうんじゃないのか?早く部屋に戻らなきゃな。頷いて色の洪水を背後にしたその時、

ああそうだクロツグさん僕からですどうぞ遠慮なく。

そう小声で早口に捲し立てながらネジキはクロツグのコートのポケットに何かを捩じ込んできた。感触は小さな薄い箱の様なものだ、見くら自分でも意味理由も解る。それにまつわるネジキの想いも――

「あの、ネジキ」
「こんなお菓子に全てを託すなんて狡い結果は僕の計算からは出ませんでしたから、気にしないでください」
この前の写真とかのお返しと思ってくださいと随分前の椿事を掘り起こされクロツグはちょっ!ネジキ君!?と裏返った声を出してあーだこーだ言い始めたがいい加減ネジキは寒さが染みてきていたのでクロツグを置いて集積所に踵を返す。

「またいつか、写真か服か返事でもください」

いつか、きっと、遠い遠い先話でしょうけど。とは口に出さず、ネジキは歩を進め始める。ちらつき始めた雪が積もったりしたら風邪を引く事間違いなしだ、急がなければ。
ああ頬が熱いのか、頬に当たる雪はすぐ溶けて水になり滴る。まるで涙みたいだと日頃思わない感傷が胸からほろりと零れた。