小説 | ナノ





徒情け(ネジクロ)






「プロポーズはなんと言ったんですか?」
「なんだなんだネジキ、おませさんだな。駄目だぞ告白の言葉は自分で考えなきゃー」
「データ収集にご協力お願いしまーす」
機械をパタパタと振りながらお願いする態度に見えない仕種で言われ、はぐらかされた気がしないでもないとクロツグは思ったがそれでもずいぶん遠い日を思い出すように記憶を辿っていく。
「あー、そうだなー」
あ、これかな?
「必ず帰ってくるから待っていてくれますか?かなー」
貴女を帰る場所として必ず帰ってきますってさ、すごく恥ずかしかったよ。本当に……緊張した。
「今思えば、随分身勝手なお願いだったよ。私は大嘘つきなんだから」
「……素敵な奥さんですね」
「うん、とてもね」
「有言実行したらいかがですか?」
「今更、どう帰ればいいのか」
「普通に帰ればいいじゃないですか、貴方の帰る場所なんでしょ?」
きょとん、と大きな目を更に大きく丸くしている貴方は本当に子供のようだ。遠くまで遊びにいって帰りが遅くなって、約束を守れなかったと落ち込み家に入れないと思い込んでいる、そんなやんちゃで真っ直ぐで思い込みの激しい素直な子供。
「そうかなー」
「そうじゃなきゃ実家に帰られてますよ」
「っそ、それは困る!」
「休暇申請は15時までですよ」
行ってくる有り難うなネジキ!跳ねるように駆け出していく上司を見送りながらパネルに額を押し付け唇を噛む。ああ、ああ、ああ!

もっと早く貴方と出会えていたら報われていただろうか?それとももっと遅く、僕がもっと大人だったら諦められていただろうか?その鮮やかな瞳に映るのは僕じゃない、解ってるのにどう足掻いてもどう願っても
貴方の望む言葉を吐いて引き出して貴方を後押しするようで貴方の影を踏み貴方の背を僕は見ている。

親切心でも情けでも仕方ないなと言う呆れでもない、これは保身だこれは貴方の関心を得る打算だある種計算づくの言葉のやり取りだ。
僕は醜い

僕は罪深く悪どい心の持ち主だといっそ伝えて逃げてしまいたいとも考えるのにあの人を前にするとどうしても、どうしても言えない。

貴方が好きなのだとすら言えない僕はまた唇を噛み声を圧し殺し肩を震わせる事で懺悔しているつもりになるんだ、ああ、この想いはつらいだらけだ。



お題、恋は罪悪をお借りしました。