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ならぬの人(ズミガン)






※キャラ崩壊です、苦手な方はバックお願いします。



人にはそれぞれ口癖や口調と言うものがある。ことにガンピの古風且つ独特の口調全てが珍しく、耳に残るのだが最近の口癖はこれなのではないかと片手にメガホン、片手に愛用の包丁を握り走りながら声を張り上げるズミは考えていた。

「ガンピさん、私と結婚して下さい!」
「ならぬ!」


・ならぬの人


「何故駄目なのですか!最初やや強引に迫った時の貴方の説得と忠告を大人しく受け入れ貴方の望む様な付き合いをしていたと言うのに!!」
「何処がなのだ!あまりに急速且つ強引な、女性ならば泣いてしまっても可笑しくない気迫で迫っておいて!何度我に技をかけられても懲りぬ貴殿に先に文の一つでも寄越して見ては如何かと譲歩に譲歩を重ねた後渡された手紙はまるきりストーカーの様な内容ではないか!全くときめかない、恐いだけであると申したのに!!何度も酷い手紙ばかり送ってくるのだもの!我あんなラブレター認めないのだ!!!!」
「ラブレターが欲しいのならそう言ってください!私があなたの何処に恋情や劣情を抱いたのかを聞きたいのかと思ったからあの様な手紙を認めたと言うのに」
「益々あれでは伝わらないっならぬ!」
「その後清い交際ならと言われて交換日記迄したじゃないですか!」
「あれの何処が清い交換日記なのだ!まるきりストーカーと精神に異常をきたした様な者を足して2倍にした様な狂気!正気の沙汰ではないわあ!!」

そう、ズミは色々説明ははしょるが何故かすっかり職場の同僚(同性)ガンピに惚れてしまい事ある毎にアピールをしていたのだが、ズミの積極的な様でいてよく解らない遠回しの告白は天然と言うか鈍感と言うか特に自分への好意感情に鈍いガンピには全く伝わっておらず……手応えの無い反応にあまり長くないズミの堪忍袋の緒は容易く切れ、強引に迫ると言う強硬手段に打って出たのだが長年修行した騎士VSそこそこの腕力や体力を持つ一介のシェフでは勝敗は見えてるも同然と言うものであり……腕を取られ関節を決められ投げられ綺麗なブリッジ決められ手持ちのポケモン勢揃いでガンピに主人の無礼を許して欲しいと縋られと、枚挙に暇は無いくらい強行的に迫ってきたズミを律儀に毎回締め上げながら説教してやっていたガンピだったがズミのポケモン達の涙があまりにも可哀想で到頭折れてやったのだ。手紙の内容は口に出すも憚られる狂気の連続だったがそこはガンピがオブラートを十重二十重と巻いて更にお互いを知る為に清い付き合いから始め様と甲冑の隙間から取り出だしたるは一冊のノート。
なんとこのご時世に交換日記をしようと持ちかけてきたガンピに最初ズミは訳が解らず日頃口に出す事の無いはあ?なんて若者らしい口調で訊ね返したが、それで互いの関係が進展するのならと了承した。だが、日記を交換し続ける毎にズミはガンピに恐がられ避けられる様になった。訳も話してもらえず呼び止めると走って逃げる始末にズミの堪忍袋の緒は再び切れ逃げるガンピを追いかけながら訳を聞こうとした。だがしかしガンピは歩くだけでも音の鳴る男(主に甲冑が原因)、走れば騒音と言われてもなんら可笑しくない程に五月蝿くそしてあの身なりからは考えられない程に身のこなしが軽く足の速い男だった。甲冑なんか着ていないズミでも普通に走っていては追いつけないし呼んでも叫んでも甲冑の音でズミの声は届かない。ズミはメガホンを用意して迄ガンピを追いかけながら叫ぶと言う奇行を連日行い続けた。
最初は雑誌を丸めて叫んでいたがその内プラスチックのメガホンになり、甲冑の音に負けないよう業務用のメガホンを買い求めたズミは振り向きもしないガンピに釈明を繰り返す。

「日記の内容はザクロとマーシュに見せたら半日説教されました、恐がるのも当たり前だと!」
「あれをご友人に見せたのか!なんとご友人達にむごい仕打ちを……」
数か月必死にやり取りを続けた日記の内容を思い出したガンピが目を伏せつつ、彼等がこの己の感情のふり幅にも疎い青年にどれだけ噛んで含める様に説明したのだろうかと若い二人のジムリーダーの苦労を思い偲ぶ。
「こうも言われました、勝手に家に入ったり下着を盗ってきてはいけないと」
「数が合わないと思っていたら貴殿が犯人かーーーーーー!?」
最近妙に窓の鍵が緩いし干していた下着はなくなるし、仕舞っていた下着もなくなっていると思っていたらよもやその様な犯罪行為に手を染めていたなんて!
「見損なったぞズミ殿!騎士として、いや紳士としての風上にも置けぬ行いを!」
振り返らず後方に向かって叫べば日頃そこそこに大きいズミの叫び声がメガホンを通し益々大きく背後から響く。
「なんとでもおっしゃい!貴方を手に入れられると思いメル友ならぬ交換日記等と言う古代文明に付き合ったと言うのにこの仕打ち!貴方が手に入れられないのならせめて身に纏うものの一つや二つ欲しくなるのが男と言うものでしょう!」
「一つや二つできく数ではないのだが!?」
「一度手を染めてしまえば十も二十も同じに見えてくるものです!」
「犯罪者の様な言い訳は止めてもらおうかズミ殿!そろそろ貴殿を一人の人間として尊重出来なくなってしまう!!」
「つまりそれは私を伴侶して認めて二人で生きていくと言う告白と受け取っても宜しいのでしょうか!」
「ズミ殿貴殿はまっこと明るい発想をする様になった!良い事であるしかし違う!!そのような発言には一切かかっていない!」
こんなに間抜けな男だったろうか?こんなに残念な青年だったろうか?我が何をしたと言うのだ?息子の様だとは思っていた、いらぬ世話やお節介をやいた自覚もある。だが、恋愛対象になる様な期待をさせる素振りは一度足りとて取った覚えはない。何処に我の隙を見つけたと言うのだこの青年は、なかなかやりよるわ。等と走りながらも思考を逃がしていたガンピだったが速度を下げてはならぬ、アレの餌食になりかねないと気を引き締め直し前を見続ける。走り慣れたリーグの外周、余程の事がなければ躓く事はないが相手はズミ、ポケモンを出して何か仕掛けてくる可能性も考えなるべく距離を取っておくに限る。し、

「それに何なのだ、何故貴殿は片手に包丁で我を追いかけてきているのだ!」
今し方自分で例えたアレ、ズミの右手にしっかりと握られ走る腕の動きと一緒に前後しながら激しいきらめきと乱反射を繰り返すズミのお気に入り且つ長年の相棒のカントーやホウエン、ジョウトシンオウで使われているナイフ、包丁が切っ先をガンピに向け続けて迫ってきているのだ。そんな状態で迫られれば負傷と死の恐怖がガンピを襲わない訳が無い。
「逆手で持てと言うのですか!」
「益々恐い、仕舞われよ!そもそも何故持っておるのだと今聞いたのに何故持ち方の有無を聞き返すのだ貴殿は!」
逆手で刃物、暗殺者かよ!
「持ってないと落ち着かないのです!緊張していると何をしでかすか解りません!!」
「その様なものを持っていれば何をしでかすか等と言う言葉事態が悪い方向にしか考えられぬ!捨てられよ仕舞われよ!!」
「料理人の命を捨てろとはなんて外道な発言を!」
「命を剥き出しにして持っている方が外道である!大切なものは然るべき保管方法と言うものがある筈である」
「つまり晴れて貴方と恋人になれた際は貴方を監き――ゲフンゲフン失礼噎せました」
「今なんて言おうとした?今なんていいかけたのだ貴殿は?!」
監禁とか言いたかったのか?益々立ち止まれぬ、警察か?病院か?どちらかに連絡をしなければ彼が正気に戻ったとしたら我の死体とご対面する事になるやもしれん。我は死にたくはないし同僚を犯罪者にしたくも無いしドラセナ殿やカルネ殿に相談?いや話を大きくしたくはないし……
等とガンピが悩んでいる合間にズミはまた叫び始める。

「貴方が好きですガンピさん!」
「ならぬ!」
「ならぬと貴方は仰る。それでも貴方を愛しています!」
「無理!恐いもの、ズミ殿恐いから嫌なのだ!」
「貴方に受け入れられるよう努力します、パンツもお返しします!」
「嫌だ恐い、何に使われたか想像もしたくないパンツ返されても迷惑なのだパンツは廃棄せよ!!」
「却下です!まだ何にも使っていないのに勿体ないじゃないですか!!」
「貴殿は下着か好きなのかそれとも我が好きなのか下着を手に入れる事が好きなのかはっきりしていただきたい!」
「ガンピさん貴方が好きですしかし!貴方が手に入らないのなら貴方の下着を盗るしかないじゃないですか!!」
「だから何故我のパンツを盗ろうと言う場所に着地したのだ……解らぬ、最近の若者全く訳解んない」
パンツ以外を盗れとは言わない言いたくない、だが、何故一度足を通したパンツ等欲しがるのか、何に使うのか、集めてどうするのか――聞きたくないし知りたくない。
「そんなのアレに使うにきま」
「聞きたくないし知りたくないから口を開くな!」
「是非とも知って頂きたいのです!」
「好いた相手に嫌がらせをするのが貴殿のやり方か?ならばその性癖は我には到底我慢出来るものではないのでお断り申し上げる!」
もうこれ手袋叩きつけて決闘を申し込んだ方が早いのではないか?寧ろ手袋ではなくギルガルド投げ付けたい、アイアンヘッドの指示出した上で投げ付けたい。寧ろ手持ちのポケモン達が活気づいていて何故か勝手に飛び出していきそうで抑えるのに必死だが、抑える必要もないかも知らぬ……
ガンピが懊悩を胸に抱きつつかれこれ15分以上走ってる気がするが、そろそろ後ろの青年の息が上がる頃だろう。外見の細さの通りどうにも健康面に不安がある様でならない青年に世話を焼いてしまったのが運の尽きだったと思うべきなのだろうか?否、騎士道は隣人友人を助けるのは当たり前の事と言う、故に手を差し伸べただけだだが……あの時もう少し躊躇うべきだったのではとも今は思わない訳がなく、嗚呼早く息を切らしてぶっ倒れてくれないものかな?そんなガンピの想像通り背後の青年の体力は限界に近く、息は上がりぜえぜえと喉が鳴るのすら聞こえてくる。だが、それでも追いかけるのを止めようとせずギラギラと輝き燃える瞳が益々ガンピに恐怖感を植え付ける。なんで?なんでこの青年はこんなに必死なの?中年のおっさんに惚れた腫れたと謳い、住居に忍び込みパンツを盗み、あまつさえ今追いかけ続けている。何がこの青年を突き動かしているのかそれはガンピには解らないし到底解りたくもない。つまり、ガンピには走る以外の選択肢は存在していないのだ。
そんなガンピの背後から、先程よりは勢いの弱い声が咽ながら咳き込みながらも響く。だから、なんでそんなに必死かな〜

「ガンピさん、私本気です」
「本気なのはよぉおく解った!だがならぬ、怖すぎる。貴殿の狂気我には抑えられる自信がない」
「貴方と共に生きていきたいのです」
「ならぬ、もっと似合いのマドモアゼルや紳士が屹度貴殿の前に現れる。その方と添い遂げるがよかろう」
「そんないもしない人間を待つなんて荒唐無稽です。私は今目の前にいる運命を捕まえたいのです」
「運命とはなかなかロマンチストであるな貴殿は」
「そんな訳ないでしょう?私は生粋の現実主義者、夢等殆ど見ないのです。しかし、貴方との出会いは運命としか言いようがないのです」
「そこが夢見がちだと言うのだ、目を覚まされよ。何なら後で目覚まし往復ビンタをして差し上げよう」
「褒美ですか?」
「なんと痛みに快楽を見出すタイプか!ならば蔑んだ視線でやや離れた所からの説教でよろしいかな?!」
「褒美と思えば貴方との時間は何があっても幸福ですよガンピさん!」
「明るくない考え方なのに何故そんなにも前向きに聞こえるのか……不思議である」
こんな会話をしながら、彼のトレーニングに付き合ってると思えば健全で良いのではなかろうかとガンピの頭の中が何処か明後日の方向に逃げようとする。だが健全なトレーニングには、どう考えても刃物の携帯は不必要だしメガホンも要らない気がするし……等と結局自分の逃げ道を自分で塞いでしまったのでこの考えは無しにしよう。あ、でもそうしたらやはり我は変な青年に追いかけられ続けていると言う不健全な騎士ではないか!ならぬ、騎士たる者が不健全である等と!!だが背後の荒れをどうこう出来ると言う訳でもないし……神よ、何故この様な試練を与え給うたのか…………
ガンピが天上にまします神に脳内で何言か述べている最中、先程よりも掠れ疲れきった声がまるで後生だと言わんばかりの弱弱しさでガンピに訴えかけてきた。
「――どうしても駄目だと言うっなら、ガンピさ、ん、一つだけっ願いを聞いてくれませんか?」
必死さの中にせつなさと真摯さを匂わせるその声に言葉に、ガンピの胸は抉られ足を止め振り向きたくなる。だが一抹の不安がそれをさせず、申してみよと背後に言葉を投げかけるに留めたがその感働きが間違いではなかったとすぐさま証明されてガンピは益々もって泣きたくなったのだ。自分に、この若く情熱的で残念極まりない同僚に。

「ガンピさん、一回だけセックスさせてください!!」

「……ならぁあぬ!」






15/8/12