小説 | ナノ





お題(ダツジン)








例えば、俺が一介の研究者の儘ジンダイと会わない人生を送っていたらどんな生活になっていたんだろう。つまりそれはブレーン全員との邂逅がない世界…ヤバイ全く想像がつかない。様々な思考が柔軟に出来ないなんて…俺も頭が固くなったもんだ。否考えたくない、のか?仮定と想定、推定、全てが想像の域を出ない絵空事、平行世界の話。なのに、誰もいないその世界はあまりに暗く寂しく侘しい…頭を振り思考を散らすが一度湧いた考えはしつこくダツラの頭の中にへばりつく。書類の休憩中に思い付いた暇潰しに振り回される等本末転倒だ。厄介だどうするかーー
「どうした、凄い顔をして」
また論文が詰まったのか、書類か。何時の間にか隣にいたジンダイが何時の間にか手元の紙に得体の知れない理論を書き上げていた俺に声をかける。対した反論も言い訳も思い浮かばない儘俺はまとまらない考えをその儘疑問として口にした。
「おっさん、例えばおっさんが探検家の儘で俺と同じブレーンにならなかったら今、どうしていたと思う?」
「お前は無茶な仮定を振る、ならない訳が無い。全ては奇跡の様な偶然の連なりだがそれは最早必然だ、覆し様がない」
「だから聞いてんのにその返事はないぜおっさん…」
相変わらずの真っ直ぐな言葉と返答にそうじゃない、と言いたいが切り口が見つからない。本当に頭が働いていないのか固まっているのか…嘆かわしさに涙すら出そうだ。

「全く、貴様の考える事はややこしい事ばかりだな。もっとシンプルなテーマは浮かばないのか」
「仕方ないだろー、先に湧いたんだから…」
あーもーいいよおっさん、じゃんじゃん罵っちゃって。多分俺今なら気持ちよく罵しられ叱られるからさ。
「難しく考えすぎなんだお前は、もっと単純明解に考えれば済む話もある。無いものより有るものを数え見ろ、真理は何も無い所からは生まれない。故に私やリラ、ヒース達に縦しんば会わなければ良かった等と言う答えはその仮定には正しくないし会えなければどうだったと言うのもお前の個人的な胸の内の感傷にしか過ぎない」
等と真理の一つを突き付けられればぐうの音も出ず額で書類をぐしゃぐしゃにしながら返す言葉もゴザイマセン…と呻けば軽い溜め息とまあお前の考えを否定する訳ではない、なんて許容の言葉の後にジンダイが告げる言葉にダツラの意識は急浮上する。

なによりもダツラ
「個人的な事を言えば私はお前に会えて良かったとしか思った事がない」
「おっさ」
「よし、元気が出たならさっさとやる事やれ。私は帰る」
顔を上げたダツラの表情を確認したジンダイは何かに納得して帰宅の意志を口にするとさっさと入り口に向かって歩き出していく。それをはいそーですかと見送れる程には動きが鈍っていなかったらしい頭を高速回転させながら、ダツラはジンダイに取り縋る。
「ちょ、待って待ってくれよおっさん一緒に飯行こう後30分、30分で目処着けるからさ!」
「えー、お前の三十分は一時間だからな」
「今日はちゃんとするから!なあ30分、30分だけでいいから!」
「解った解ったから重たい、離れろ!」
但し一分でも遅れたら私は帰るからな!ダツラを気合い一発!と振りほどいたジンダイが指差しながら隣室へと足を向けドアを明け閉めするのを見送ったダツラは先程とはうって変わってきびきびとした動きで書類をこなしペンを動かす。仮定の世界に囚われていた心は今、30後への世界に想いを馳せ進んでいた。






15/7/30