小説 | ナノ





11/11日2014年度版(ギマレン/ズミガン/クロトウ/マチキョウ)






ギマレン
・駆け引きも要らぬ

「レーンブ、今日はカントーやシンオウの方であるお菓子の記念日らしいんだけどね」
と手を後ろに組んでにやにや気持ちの悪い顔をしながらこちらに寄ってきたギーマに、レンブは読んでいた雑誌から顔を上げながら
「ああ、ポッキーか」
それが如何したと言わんばかりのつれない返事をした。

「あれ、知ってるの?」
なんだ、知らないと思ったのに、と机に後ろ手に隠していた赤い箱を置いたギーマに雑誌から目を離さずに
「前師匠に聞いた事がある」
等と昔話を諳んじると、普段の間にしては長い沈黙が続き雑誌から顔を上げたレンブは
「誰ともポッキーゲームなんかしてないから、そんな顔するな」
とさも不機嫌と一発で解る顔をしているギーマに、呆れたように言葉を返す。

「君も漸く私の言いたい事が解るようになってくれて嬉しいよ」
とぶっきら棒に言ってくるから益々それが可笑しくて雑誌を机の上に置きながら
「因みに師匠は酔ってて、俺にするつもりでバンジロウにやってしまい泣かれてた」
過去の釈明しておいたがギーマはそれすらも気に喰わなかったらしく
「そんな事まで教えてくれると益々不愉快だ」
と鋭く白く輝く歯が見えるくらいキリキリと、歯軋りせんばかりの不快感を見せた。おいおい、子供か
なんて考えてる間にギーマは机の上に放り出していた赤い箱の蓋を開けて中身を出そうとしている。おいおいおいおい、

「ムキになるな」
「ムキ?なるさなるとも、自分の愛しい人の初めてが例え尊敬する上司であれ奪われそうになっただなんて、ムキにならない謂れがないじゃないか」
「一々言い回しが卑猥だ」
卑猥って思ってくれてんの?とからかいの滲み始めた声に、一応頭に上った血は下がり始めたようだとレンブは推察しながら「食い物で遊ぶな」とギーマの動きを止め第一、と言葉を続ける。
「何故口付けするのにそれが要るんだ?」
普通にしろ普通に、等と日頃接触を好まない性分の割に大胆な意見をするレンブに
「そりゃゲームだから、ゲームは楽しまなきゃ」
私は勝負師だもの、ゲームと言われて食指が動いたら乗らない訳にはいかないじゃない?楽しまなきゃ、損だよ損。

とかなんとか言いながらそのぎらついた目はどうにかならんのか…と胸の奥で吐きながらしょうがない、とレンブは鼻で息を吐くとソファーから中途半端に腰を挙げ
「ゲームと言うのならギーマ、こっちのゲームに乗ったらどうだ?」
机を挟んだ先でしつこく愚痴を零している恋人の方へ身を乗り出した。

「レ―」
不意打ちの様に、一瞬掠めただけ程のそれが唇に当たるのに、何がどうなった?なんて今更初心なフリはしない。無意識に思考を切り替えソファーに腰を下ろし直そうとするレンブに腕を伸ばし―…た腕を掴んで止められた。
「レンブ?」
誘っといてそれはないだろ?と口が動く前に耳を疑う台詞をレンブに言われる。
「俺はゲームにまだ乗ってない」
「はい?」
「ゲームなんだろ?その気にさせてくれるんじゃないのか?」
「!?」
お前が真の勝負師ならこんな子供騙しな菓子なんか使わなくても俺なんか簡単に手玉に取れるだろう?そうレンブの眼は真っ直ぐにギーマに問いかけてくる。
そう…生業とプライドを擽る最高の誘い文句で恋人が私を勝負へと誘っている。何て最高だ、今日は何に託けるでもなく最高の日になる、してみせる。
だって私は、生粋の勝負師であり君の恋人だからね

「此れでは不満か?」
今更の確認をしてくるレンブに「まさか」
十分、と一声投げ捨て行儀悪く机を踏み越えて流れる様にレンブの肩に首に腕を回して来たギーマの爛々と輝く眼を見上げながらさてどう逃げるべきかと思案するレンブが、自分の嗾けたゲームが己に大変分の悪いゲームだったと気付くのにそう長い時間は必要としなかった。



ズミガン
・窮地に一生

食べ物を遊びに使うなんて芸術に泥を塗るようなものだが、そうも言っていられない。
と言える程に私は追い込まれていた。

私は片想いが募りに募って、何時想い人をこの愛用の包丁でブッ刺してしまうか解らない所まできていた。
それを見かねた友人が、自分の故郷にあるお菓子を使ったスキンシップを教えてくれたのだ。ゲーム感覚だから教えればやってくれるかもしれないと、私にそのお菓子までくれたのだ!
とても有りがたく嬉しい事だったが、肝心の主役であるお菓子は正直美味さに欠けていたので試行錯誤を重ね納得する味に仕上げた時にはもう日が暮れてしまっていたが構うものか、
出来上がったそれを簡単に包むと帰り支度をすっかり整えていた想い人の元へ足を運んだ。
その人は私の姿を認めると目を細め嬉しそうに私の名を呼んだ。

「ズミ殿!帰り際にお会いするとは奇遇であるな」
その表情に要らぬ勘違いをしそうな心を律しながら何時も通りの平坦な声を装いつつ
「このような時間にすみません、試作品が出来たのでその…味見をと」
「よいのか?ではカルネ殿やドラセナ殿達も」
「他の三人にはもう試食していただきましたので!!」
人を射殺しそうな目線と発した先にある物体をさせそうな勢いの声でガンピを制すると
「然様であるか、では、あちらでいただこうか!」
疑いもせず嬉しそうに踵を返すガンピに今更嘘ですとは言えないし言わないが、ほんの僅か罪悪感刺さるがそれは無視した。無視しないと感極まって彼を切り殺してしまいそうだとも言える。私は今崖っぷちなのだ。

席に着いたガンピの前に包みを解くと棒状の菓子が整然と包みの中から現れ、見事な…と小さな溜息を零したガンピに友人に教わった事をその儘口にする。
「ポッキーと言うお菓子だそうです。今日はポッキーの日と言う記念日だそうで」
「ポッキーとはなんであるか?」
うわーーー!この人も知らなかった―!!だよね、生粋カロスっ子じゃ知らないよね…等とひっくり返りそうになる心根を何とか踏ん張らせつつ
「…カントーやシンオウにあるスナック菓子だそうです。話に聞いて作ってみました」
「なんと!そのような物まで作ってしまえるのか!凄いのである」
キラキラと目を輝かせる想い人にあるゲーム用のお菓子ですと一言言えばいいのだが、何故か喉の奥に貼り付いて出てこない。子供の様に輝く瞳を見たら益々言えなくなった。言わなきゃ死ぬ、私の何かが死ぬのに、口から出て行かず、喉の奥に詰まった飴玉の様に言いたい事言わなきゃいけない事がべったりと貼り付いて喉が重い、息が苦しい。
そんなズミの内心など露知らず、ガンピはでは早速とポッキーを一本摘み口に入れた。
ぱき、と軽い音を立てて砕かれる菓子に、それをよく咀嚼して味わう彼に最早料理人の習性と言わんばかりに息苦しさを忘れ集中するズミの視界に次の瞬間広がったのは

「大変美味しいものであるな!流石ズミ殿である」
想い人の、満面の笑みと嘘偽りのない賛辞であった。

「これがスナック菓子だなんて…うむうむ、とても美味しいのだ、我感激して胸が打ち震えておる!」
「気に入っていただけましたか?」
「無論、ほらズミ殿も一つ」
「いや私は」
「ん?両手が塞がっておられるのか?なれば口を開けてくだされ」
我が口へ運んで差し上げるのだ、とすいっとポッキーを差し出してくるガンピにズミの心拍は跳ね上がった。つい後ろ手に隠した愛用品を握る力を強めるが跳ね回る鼓動を抑える事は出来ない。
「はい、ズミ殿、あーん」
見上げている所為か上目遣いにも見えるその眼差しに楽しそうやら嬉しそうやらとくるくると移り変わる表情に、嗚呼、もう皆まで言えずともよいかとズミは当初の予定を投げ出して差し出されたポッキーに口を開いてこの瞬間を甘受する事を決めたのだった―

*

「あれで付き合うてへんって…全くの詐欺やわあ、あの二人」
「ガンピさんが全く解っていないみたいですからね、でも良かったです。ズミがガンピさんを刺さずに済みました」
「ズミはん、ほんに突飛な考えのお人やからね〜」



クロトウ
・嵐の中で

「……なにが悲しくておっさん同士でポッキーゲームせにゃならんのだ…」
チョコレートの独特な甘みとビールの苦味、一瞬触れたかさつきながらも何処か柔らかな感触に、トウガンは苦々しく不可解であると言うのを含めた声音で今起こってしまった事故を疎んだ。
心地好い酔いは一瞬で醒め、後に残るのは奇妙な事をしてしまった気分の悪さと妙に自己主張する唇に触れた感触だけだ。それはゲームを提案し強引に押し通した相手も同じだったらしく、

「…………何だか、世界の全てが鮮明に見える気がする」
なんて両目を手で覆いながら世界を呪わんばかりの台詞を吐いた。こっちの台詞だっつの!
「よおクロツグ、現実によく帰ってきた。そのまま家に帰れ」
そんで嫁さんと子供にでもべたべたチュッチュしてればいいべや、もう俺は忘れたい。冗談でもお前かよ。と大袈裟に視線を向ければ
「…………なんか、悪かったなトウガン」
決まりの悪そうに頭を左右に振っているクロツグにさもさもそうだと言いたげな顔をしながら
「そう思うんなら二度とすんな、いくら巫座戯てでも息子にバレたら俺は居た堪れん」
そう言ってやれば長い間の後
「………………だよな」
と絞り出してきた。は?まさか
「お前また家に帰ってないのか」
「俺は忙しいの!ちゃんと連絡くらいは」
「してないんだろうがこのちゃらんぽらんめ」
図星だったらしく益々頭を左右に振り続け
「ジュンに…また嫌われてしまう」
情けない鼻が詰まった声を出すもんだから
「よーし、俺のエアームド貸してやるからさっさと帰れ、土下座でも何でもして来い」
交通手段を提供してやったのに顔を勢いよく上げてまだ言い募る。
「いやいやいや、今更何言い訳して帰るんだよ!」
「自分の家に帰るのに言い訳がいる程お前が駄目な父親だとは思いもしなかった、俺を見習え俺を」
「タイミングってもんがあるべ?」
「それならエアームド、バトルフロンティアに送ってやれ。そうだ、バトルファクトリーがいいな」
「益々やめて!何か最近ネジキが俺を見る目が違ってきてるの、教えたべ教えたべ?!」
「おー聞いた聞いた、だから益々だ。ネジキ君と火遊びした方がよっぽど身になるべ」
「駄目だ駄目駄目駄目駄目!!ネジキにそんな真似したら親御さんに申し訳が」
「俺に申し訳を立てろ!俺には一人息子と半居候とポケモンとジムと鋼鉄島がある!お前よりよっぽど身に摘まされてるわ!!」
今日のは犬に噛まれたと思って忘れるから、ほらしっしと犬を追い払う様にクロツグを追い払う仕種をしながらエアームドに気をつけろよと声をかけてトウガンは物理的にクロツグを追い出した。ぎゃーぎゃー何かを喚いているがそれは聞こえないフリをして、トウガンは静まり返った部屋に一人佇む。

「…どうかしている」
唇が触れた瞬間、あの居候の青年の姿が過ぎるなんて…あの青年となら、なんて世迷い事にも程がある事を一瞬でも思い描いてしまうなんて本当に

「どうか、している…私は」
答えはなく、唯の無音が其処にあるだけで。トウガンの胸の内を掻き乱す嵐は治まりそうになかった。



マチキョウ
・今日も一枚上手

「キョウ〜Let's ポッキーゲーム!」
等と言いながら飛び出しつつも臨戦態勢は解かないマチスは片手にポッキーを握りながら、キョウの動きを目で追い次の挙動を探る。
日頃ならこの腐れヤンキーが、なんて凍るくらい冷たい声で言いながら手裏剣飛ばしてくるからこんなはしゃいだら何されるやらと頭の中で考えていると

「構わぬが」
なーんてセイテンノヘキレキって言うコトワザにぴったりな返事が返ってきたヨ!どうしたの?
「オーウ…夢じゃないよネ?」
「張り倒してやろうか?」
遠慮しまス、と言いながらも普段より無防備に近付いてくるキョウの機嫌が悪くならない内に事を運んでしまおうと、マチスはポッキーを咥えながら

軽い音を立てながら短くなるポッキーと近付いてくる今日の顔を交互に見るマチスにキョウは密やかな声で囁いた。
「ところでマチス」

「拙者は今、歯に毒を仕込んでおる」
それはそれは嬉しそうな顔をしてキョウは報告してきたものだから
「キョウ〜冗談きついヨ」
と受け流しつつ少し身を離そうとしたマチスの頭を首の付け根をキョウの細い腕が掴み、その細腕の何処から出ているのか聞きたいくらいの力でマチスの頭を引き寄せる。
咄嗟に踏ん張ったマチスだが、抵抗しているうちにキョウの顔はどんどん近付いてくる。

「冗談と思うなら、このまま拙者のなすが儘受け容れればよかろ?」
「だってキョウの冗談、時々冗談じゃないヨ!」
「それはそうだ、本気だからな」
「Holly siiiiiiit!!!!!」
とっくにポッキーは噛み砕かれ、二人の間に差し渡された物は何もないのに、キョウは顔を近づけるのを止めようとしない。それに対していやいや、と子供の様に頭を振るマチスに、キョウは日頃では有り得ない程優しげに子供に言い聞かせるように

「拙者と接吻したいのだろ?なればこのまま大人しくしとればよい」
ともう唇がくっつきそうな距離で囁いた。なんでこんな時だけそんな事言うの?ミーがそう言うのに弱いの知っててワザと?キョウワザとなの?!
ああもう!
「その毒って…ミー死ぬ?」
もう観念したと言わんばかりに毒の効能を尋ねてくるマチスに「一日程動けぬだけだ」と返しながら、更にキョウは嬉しげに付け足した。
安心致せ
「寝てればよいだけよ」
ミーが言いたいよ、そう言う台詞……
マチスの情けない声と言葉は薄く仄冷たい唇に吸い込まれ、外に漏れる事はなかった。






ポッキー&プリッツの日遅刻しました…
阿弥陀で選んだ四組なんですが何たる個性派、拍手にするつもりで考えたんですが微妙な組み合わせと長さだったので普通にこっちに置くように更に手直ししてこうなりました。


14/11/12