小説 | ナノ





sweet home. My darling(ズミガン)






ガンピやもめ設定、息子出てきます。それでも宜しい方どうぞ。




























「昨日、息子が戻ってきたのだ」
「そうですか…お元気でしたか?」
私の恋人には、息子がいる。奥様は5年前に亡くなったと聞いた。この人の事だ、未だに深く深く愛している奥様の忘れ形見の事を話す時はそれはそれは嬉しそうなのだ。
だが、私は件の息子には会った事はおろか名前すら知らない。今何処に居るのかも、歳も容姿も、どの様な人柄なのかも全く…何も知らないのだ。

「相変わらずであった、顔つきは我に似たのにポケモン勝負は全然我に似てくれぬ…準備運動ほどであった」
「またコケコケにのしたんですか?手加減して差し上げればいいのに」
「騎士の世界において、一対一の勝負での手加減は許されておらぬ。手加減は即ち相手への侮辱である、」
「息子さんは騎士にはならない、と言ったのではなかったのですか?」
「うむ…痛いところを突くのはよして下さらぬかズミ殿……」
歴史深い家系の騎士の息子は騎士になった。しかし、歴史を継いだ騎士の息子は物心ついた頃に自分は騎士にはならないとはっきりと言ってのけたと言う。
「父さんのワイン畑は継ぎたいと思っているけれど…とその後に言ってのけた事は、未だに思い出す度涙が止まらぬ」
「それは…現物的な息子さんですね」
だがその現実的な息子は己の発言の為に今、家を放り出され勉強と修行に明け暮れているのだと言う。
「我が出した条件”経営の知識と経験”と”我とのポケモン勝負で勝利する”を果たす迄家と畑は継がせぬと言って二年前に送り出してやったが…確かに勉強は捗っておるようだったが……あれは、」
目も当てられぬ…と大袈裟に方を上下させ、深い溜息を吐く。彼の息子は余程の腕の持ち主らしい、四天王と言う高位な職業についた彼が溜息を禁じえない程の………初心者級の腕前を!

「我がはがねタイプの使い手だという事は解っているし、その対策も知っている筈だが…なのに、何故」
センスが…いやそもそも基礎が……何故ああなるのか、あやつは何をしておるのか…ズミ殿に愚痴を聞かせるのは大変失礼であるが、この心の内留めておくにも狂おしすぎる。
「しかし、幼い頃から貴方の傍でポケモンバトルやポケモンへの接し方を見て学んでいたのではないのですか?」
「しっかり教育しておったつもりだったが…耳からすり抜けておったようだ。情けない…」
しかも相手は四天王、それを鑑みても良いのでは?と助け舟を出してやろうと言う慈悲は、その水を向けてやった人間の親に振り落とされ零れた。

「一番手のクレッフィに新しい鍵をつけてやれるほど我が息子から毟り取ったと言えば、伝わるであろうか?」
それは駄目だ、芸術の門も叩いていない状態だ。人様のご子息に言うのは失礼かもしれないがつい口に出してしまった。

「それは…アミューズ止まりもいいところですね」
「アミューズどころの問題ではない…アペリティフ止まりである」
しかもまだ飲み込んでもいない…辛口評価の様に聞こえるだろうがあれは戴けなかったのだ。本当に

「はぁ、何時になったらディジェフティフに辿り着いてくれるのやら…」
「食後酒どころか、フロマージュにすら辿り着けないのでは?」
知識は学べば覚え増える、仕事は働けばある程度身につく、だが…ポケモン勝負だけは、自分で気付かなければ成長出来ない。センスも問われるがどれだけそのポイントに気付けるかが成長の鍵なのだ。こればかりは他人に言われても教えを乞うてもどうにもならない。

「ズミ殿を見習って欲しいものである」
「……光栄です」
しかし、彼がこの話を我が息子にする事は無いだろう。未だ彼は私の事を息子に伝えていないのだと言う。それもそうだろう、手甲の下の黒い皮手袋に包まれた左手の薬指に鈍く自己主張する指輪が…未だに彼を悩ませている筈なのだから。

最初に思った通り、彼は未だ亡くした奥様を愛してやまないのだろう。私とは同情で付き合ってくれているのかもしれない、この問いは彼を傷つける、そう考えた時からどうしても胸の奥から出て行こうとしない問いになってしまった。
それか彼は自分で気が付いていないのかもしれない、自分が未だ奥様の影を追い求めている事を。日常に追われる振りをしながらその日常の何処かに奥様の姿を追い、些細な出来事に姿を重ね、家庭の隅々にその姿を見ている事を。

そう、たった一人で過ごす灯火を失った住処に、部屋に閨に、彼は奥様の幻影を抱き目蓋の裏に存在を希い続けている事を彼自身気付いている筈だ。だがそれを彼は自覚していないと言っている。
だが彼に好意を伝えた時、彼は無意識にも発していたではないか。後から否定していたが、あの否定は発言の内容を否定するのではなくその裏に隠された事を否定していたのではないかと思うようになった。

『我は…やもめ男であるが』

それでも構わない、と私は言った。貴方の一番でなくとも構わない、暗に私はそう言って彼と関係を持った。自分の父親よりは若いがしかし、一回り以上は歳の離れた彼に、息子とほぼ同年代の恋人が出来ると誰が考えただろうか。その世間体を気にし、奥様への愛と私への後ろめたさとで雁字搦めになる彼を…それでも私は手放す事が出来ない。

貴方を思えば夜も眠れない、貴方が傍に居ないと息の仕方も忘れてしまう。彼にもその覚えがあった筈だ、だから私を突き放す事が出来ないのかもしれない。なんて姑息で滑稽だろう、私は。なんて愚かしく惨めで矮小な器だ、伝説のシェフの名が泣く、そんな名を頂いたのも間違い、鳥滸しい事だったんだろう。
私の全てを賭け、貴方に捧げたとしても屹度……貴方の心の奥底には屹度届かない

「…ズミ殿」
「今日は息子さんと過ごされるんですよね」
「うむ、そのつもりだが」
「…簡単なものを用意しましたので、宜しかったらどうぞお二人で」
「かたじけない。何時も済まぬ」
「いえ…私には此れしか出来ませんので」
「ズミ殿、あの…用向きがなければその、今日か明日にでもその……息こに」
「どうぞ、よき時間をお二人で」
「ズミ殿っ…」
ガンピさんの言葉を遮り、なおも言い募ろうとする彼を振り切るように彼の視界から消える。胸の底にワインの澱の様に溜まり、胸と言う入れ物から溢れ私の中を満たしていこうとするこの醜いヘドロよりもまだ悪い感情を彼の前に曝したくないと逃げ出した。

私を愛して欲しいと言う独りよがりを見せたくなくて、私は、私は……っ

自分で選んだ恋路だと言うのに、自分で捧げると決めた愛なのに、あまりの足下に昏さにあまりにも先の見えないこの道が堪らなく苦しく、悲しく辛い。




自分で逃げ道を塞ぐズミさんと自分の子供にもう話をしてあって、どうにか顔合わせさせたいけれど最初のアレを引き摺って強くでれないガンピさん
アレだよ、どっちかが感情振り切ればどうにかなるって言うアレだよアレ。

14/9/3