小説 | ナノ





星のカレー甘口風(ズミ→ガン)






「ズミ殿、用とはなんであるか?」
用が無ければ己の持ち場を離れる事のないズミに、しかも己の城である厨房に呼ばれたガンピは怪訝に思った。前に一度入ってこっ酷く叱られた厨房に、呼ばれたとは言え長居をしたいとは思えないガンピは足元の心地が奇妙に悪い。
そんなガンピの内心など知らないし構わないズミは、淡々と言った風に要件を口にした。
「料理の試作をしてまして、味見をしていただこうかと」
「光栄なお話である、是非ともお受けいたそう!」
ああ、そう言う事か。良かった、癇癪を爆発させるのかとも考えたがそもそも今日の今の時間は自分と彼しかリーグにいないから己に彼が声をかけるのは至極当然だ、吃驚して損をした。とガンピは胸を撫で下ろした。

「では席に着いてお待ち下さい」
そう言い厨房からテーブルへ己を誘い、席に着かせたズミ殿が物の数分も立たずに持ってきたのは湯気と共にスパイスの香りが鼻を擽る…
「カレーライス、であるか?」
「カントー式です、カレーはお嫌いでしたか?」
「カレーは大好きである!でも我あまり辛いのは得意ではなくて…」
「召し上がって下さい、貴方好みの筈です」間髪いれず有無を言わさず、ガンピにカレーを食べさせようとするズミの気迫じみた言葉に気圧されつつ、大人しくスプーンを取り一口分掬い口へ運んだガンピは
「とても美味である!やはりズミ殿の料理の腕は素晴らしい」
と顔を綻ばせた。
「有り難うございます」
「ズミ殿は素晴らしいお方だな、こんなに美味しいカレーを食べるのは我初めてである」
「大袈裟ですよ」
ガンピの褒辞に心無い返答を口先に載せながら、ズミの口内には先程味見したカレーの味が蘇り反芻されていた…このカレーは

甘い、甘かった。自分の好みではないし香辛料が後一味足りない、まるきり子供向けだ。だがそれを嬉しそうに頬張る目の前の男を見ていればその不服感や不満は薄れる。知らず顔が緩みそうになった時突然
「ややっズミ殿これは」
驚きの声を上げたガンピにズミの顔も心も一瞬で緊張感を取り戻す。
「っな、何か不備、異物でも入っていましたか?そんな馬鹿な、このズミがそんな不手際を…」
「人参が星型である!ズミ殿は本当に御器用であるな!」
それか、それを見つけて突っ込みたかったのか。本当に子供ですかあんたは。ズミは弛まずに済んだ何時もの無表情で
「誰でも出来ますよ、いいから、冷める前にお召し上がりなさい」
と食事を促すが、ガンピの興奮は覚めやらない。

「なんと!一つだけ我の星と同じものがあるではないか!ズミ殿ほら、見て下され!」
「っいいから早くお食べなさい!ズミの料理を最適な状態で食べないとはどんな不心得と無作法ですか!今水を持ってきますので食べ進んでなさい!!」
「あぅ、すまぬ…」
怒鳴り付け、キッチンへ身を翻し、扉を閉めた瞬間安堵の溜め息を吐いた。危なかった、つい顔に出してしまう所だった。小さめの部分で細工したものをああも容易く掬い出して見つけるとはなんと目敏い…もう少し煮込めば良かったか?
いや、折角の人参の歯触りが台無しになってしまう。そもそも最初からこんな事しなければ良かったのだ、好奇心と一褸の期待に負けやってしまった自分が悪い。それも結局は期待外れだった、あれは全く解っていない素振りに態度だ。好い加減勘づいてくれたっていいものを…否よくない。止めてくれ、気付かれたらどうなるか考えたくもない。だが何時迄もこのままではいれないだろう、あの人も馬鹿ではない、何れ勘づかれ閃かれてしまう、何て恐ろしい何て…このざわめく心と裏腹な希望だろうか。
嗚呼でもあの顔は卑怯だ、あんなきらきらと輝く目でたかが細工切りした野菜一つに、たかがあのたった一つの六つ角の星をあの人は、あんなに…喜んで……

抑えきれない情動に振り回され目が回りそうだ。寄りかかる壁は冷たく、熱に浮かされた頭を程好く冷やしてくれるがこの目蓋に胸に篭る熱を取り払ってはくれなかった。





オマケ
「とても美味しかったである!」
「有り難うございます」
「今度はどのような形にしていただけるか、今から楽しみであるな!」
「………そうですか、楽しみにしてて下さい」
あからさまにハート型にでもしてやろうかな?でもあからさま過ぎるか?それとも気付かずにまた喜ぶだけか?
ああ、じれったいなこのおっさんは!!

某所で盛り上がりやってしまったネタ、多分制作最短記録だ。やらかした感はありますが後悔はしていません。ガンピは甘口カレーが好きそうで、ズミは辛口が好きだけどガンピの為に甘口のカレーをわざわざ作り、しかも人参を星形にする手間のかけっぷり。
これでも片思いである、ガンピさんが鈍いのはテンプレな気もしないでもないが


14/8/26