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栄養形式と愛情の換算(ズミガン)






「貴方への愛情を、全て料理で伝えられたらいいのに」

「これはまた…突飛な思いつきであるな」
そう言えば、思い付きではありません、と一言区切った後

「以前から考えていた事です」
と、ズミ殿は手にしていた二つのカップをテーブルに一つ、もう一つを今話しかけたガンピの前に置くとガンピと向かい合うように据えた椅子に腰掛けながら更に重ねるよう口にした。

「私は自分が思うよりも考えるよりも更に不器用な人間です。貴方への親愛の情を言葉に形に、と表すのが思いの外下手くそだと言う現実も事実も嫌と言う程思い知らされてきました」
自分の拙さは自分が一番よく解っている。自分の気の短さも、それにより伝わるものも伝わらない現実も

「ならば一番得意な料理で以って、貴方への愛情を全て注ぎ込んで其れを貴方に食べて貰えたのなら…それで私の想いが伝わるのなら、これ以上に良い事は無いと考えたのです」
料理とは芸術だ、しかしそれでも料理は物質なのだ。その前に消費されるべきものなのだ、愛情と言う形の質量も底が有るか無いかも解らないものを、寸分違わず纏わせ相手にそっくり其の儘明け渡せるツールではない。
「無いもの強請りなのは解っています、それでも私には料理以外誇れる事が無いので…」
其処まで言うと、ズミは手元のカップに口をつけ半分程一息に飲み干した。苦い…筈だ、どうしたものか味が判別出来ない。困った、味が解らないだなんて仕事に差し障る。もしや緊張しているんだろうか?それも困る、人生やポケモンバトル、仕事に於いてある程度の緊張感は必要だ。でも今このプライベートで緊張するのはあまり好ましくない。変な事を口走ったり突飛な行動を起こして彼に幻滅されたら、私には信頼を回復する術など殆んど無いのだ。寧ろ如何すればいいのかなんて解らない。謝る以外何をすればいいのだろうか…想像も付かないし考えも及ばない。

そう一人で懊悩しているズミは眉間を揉んだり両目を手で覆ったり額に手を当てたりと、大変忙しい動作を繰り返しているが当人は全くの無意識であり此れがもうズミの考えている突飛で変な行動に繋がっているのだがそれを判断出来る程今のズミは冷静じゃない。他人から見てもズミさんどうしました?と聞かれても問題の無い状態だ。
そんなズミを眺めながら耳を傾けていたガンピは、静かにテーブルにカップを置くと今だひっきりなしに顔を手で覆っているズミに静かにこう告げた。

「我は今の儘で構わぬよ?」

その言葉に勢いよく顔を挙げ、信じられないと言った顔をしているズミにガンピは続けた。
「其方の言葉に、態度に、仕種に、料理に乗せられた情を摘み上げ拾い上げ、探し出すのはとても贅沢で有意義な行為である」
其方のくれる言葉に態度に料理に、全てに鏤められたものを探し集め、そして其れ等を己の中で組み上げ胸中に抱けるのがどんなに愛しいか、嬉しい事か。それは我にとってなかなか言葉では言い表せられぬ好き時間であるし
「其方には料理以外にも誇れる事がちゃんとあるではないか、我の事をちゃんと考えて下さる、その優しく誠実な心根は誰にでも胸を張って自慢の出来る素晴らしいものであるし他にもっとある、其方は素晴らしい所を沢山持っているのだ。だからあまり謙遜召される事は無い」
そう言いながら机の上で硬く握られていたズミの手を、その上から包み込むように両掌で握り、柔らかく諭す様に言祝いでいく。

「拙くとも辿々しくとも、誰彼が解り辛くとも構わぬ。それ等全てが障害としては些細な事であり、其方の愛を曇らせるものではない」
そしてなにより、

「我はズミ殿が下さるものをちゃんと掬い上げる故」
我は其方が言葉で伝えてくれるより遙かに多く、深く我を愛してくれている事をちゃんと知っておる。
だからズミ殿、とズミの意識を自分へ向けるよう名を呼んだガンピはしっかりと彼に告げた。

「ご心配召されるな、其方の気持ちも愛情も、ちゃんと届いておる」
だから我は其方の傍に居るし、其方の傍でこの様に幸せにしていられるのである。自信を持たれよ、と気恥ずかしそうに鼻の頭を指先で掻きながらそれでも残りの手は離さないガンピは、目を細め表情の固い儘のズミを見遣る。
相変わらず表情が乏しく感情の連結の不得手なズミは、それでもガンピの言葉を理解したのか微かに目尻を赤く染め何かを言いたそうに口許や唇を微かに動かしていたが、その赤くなった目尻が潤み、滲んでいるのに気付き隠すように静かに俯くと僅かな間沈黙した。
ややあって、気持ちが落ち着いたのか顔を上げたズミはぽつねん、と言葉を零す。

「また…こんな時にどう言う顔をしたらいいか解りません」
そして気の利いた言葉も浮かびません、
「貴方に今、途轍もなく大きい愛や情を頂いたのに…それに見合うものを返せる術も……全く考え付きません」
愛しい気持ちや大事に、大切にしたい気持ちは勿論あるのにそれを伝える術があまりに稚拙で、少なくて…情け無い気持ちで胸はいっぱいになり締め付けられ、喉の奥は引き絞られる。そんな幼く拙いズミの胸中を、ガンピはまた優しく掬い上げ包み込む。

「よいよい、これから学ばれよ。先は長い、まだまだ経験を学習を積み上げよ」
其方は若いのだ、存分に悩み、考え倦み失敗するとよい。それが何時か其方の糧となり、そなたの成長を促し先へ繋がる。それを見守れるなんて益々贅沢で喜ばしい限りではないか、年上の特権である。なんて幸福であろう?
そう微笑み、自分の手を包んでいる一回りは大きなガンピの手を今度は自分の両手で包み込むよう握り締めながら、ズミは祈る様にガンピに希ってやまない目標を口にする。

「…何時か方法を見つけ、出来る様になったら、是非貴方を…屹度それで満たしたい」

私の愛を換算する方法を





読み返す程に、首の付け根が、痒くて、どうしようもない!
偶には年上の余裕を発揮するガンピさんをと思えばなんだコレハ


14/7/30