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世界の値段






拝金主義の現実主義の、物質世界至上主義の即物的で無神論者も裸足で逃げ出す程世界に病んでるんじゃないか?と勘繰りたい程に全てを斜めに見ている節があるギーマとはこの先何があっても解り合えないと思っていた。

こいつは世界だって金で買えると考えているんだろうと思っていた時期があった。それくらいお互いに深い溝を掘り、その上の平行線上で距離をとりながら接していた。あちらだってそうだった筈だ、正反対の俺の性質に付き合えないと何度口にして宣言されたか解らない。

だかそれでも、世界は変わるものだったと、今になって思い起こした。
あんな現物主義者のリアリストだって一個の人間だし、過去がある。その過去をふとした切欠で知った時俺の彼奴に対する見方は大分変わったのだ。俺よりも数年長く生きている男は、俺と比べるのは申し訳ない程にそれはそれは辛酸を舐めややこしい人生を歩んできたと言うのだ。
そんな多様な理由を知れば軽蔑も不理解の心も薄れこの男の歩んだ人生を慮った。

この男が値段をつけたかった世界は屹度…とても小さく大切な世界だった筈だ。

そんな回想を目蓋の裏に思い描きながらふと
「お前にとって世界はいくらなんだろうな」
と何の脈絡もなく零すとその小さな声と言葉と意味を判読したのか、件の男ギーマは
「何、そんなに高くもないさ」
と顎をしゃくって告げてきた。この頭の回転は生まれつきなのか、それとも凶悪で最悪だと師匠すら固唾を呑んだ人生の何かにの出来事で培われてきたのか、否両方だろうな。今はその思考能力に便乗しながら言葉少なに
いくらだ?なんて不躾に聞いてしまった。常識が無い行いだと気付き直ぐ様すまない、と謝ったがとうの本人は意に介していないのか
「うーん、そうだね今は」
等と指折って数えたり上を向いたり左右に視線を廻らせたりと何かを考えている。怖ろしい、この男の思考回路も速度も桁違いで恐ろしい事この上ないが、まぁそんなに高くないと言ってたし

……否、こいつの金銭感覚は俺よりぶっ飛んでいる部分があるから油断できない。桁違いだったら予想していても度肝を抜かれてしまう、等と無駄な気合を入れて答えを待っていたら

確かに度肝を抜かれた。


「今晩のディナー代、かなぁ?」


…………


「は?!」
なんだその安価で安易な価格表示は。三ツ星フレンチやイタリアン、和食や中華の高級レストランに行かなければ大した打撃を食らわない金額設定に逆に度肝を抜かれ唖然としていると
「それも目の前の麗しの君との、ね?」
等と更に悪戯めかしたふうに此方に目配せしてくる。またか、お前は何度言ったらそんな悪戯を止めるんだ?
「…からかうな」
と努めて押さえた口調で告げるとこいつは至極楽しそうに笑って
「はは、それでこそ世界の天秤の皿につりあう人に相応しい」
俺を見据えた、その目は何時もの冗談めいて人をおちょくっている時のものではない。ああ、それならば、と腰のホルスターに手をかけボールを取り出す。
お前が勝負を望むというのなら、それがお前の世界への代金だと言うのなら喜んで手伝ってやろう。

お前が欲する世界を、お前が手にする為に。


*


実際世の中金だと言う部分は確かにある、

でも別に金で全て解決出来るなんて、本心で思った事は一度も無い。
ただそれでも、金で物質で手に入れられる事が、護る事が出来るのなら喜んでその対価を支払おうと思っていたのだ。昔から、そう人生がギャンブルの様にスリリングで危うい物になった時から、ずっとずっとそう考えていた。

そんな小さく幼く、箱庭の様な手の中に納まる程ででも、手にとってもすり抜け永遠に手に入る事の無い、欲しくて欲しくて堪らない世界と調度天秤がつり合う迄の君の事が、私は欲しくて欲しくて堪らない。

でも君はそんな私の本心を冗談だと一蹴してしまう。未だ君には悪い冗談としか思われていない、何て現実だ、面白くない半分面白くて仕方の無い人生の一幕だとも考えつつ彼が唐突に零した言葉に私は、本心からの言葉を何の気なしな風に放り投げてやる。その方が二の句を告ぎやすいだろうと言う優しさと打算だ、思ったとおりあっさりと聞いてきたその言葉が無遠慮なものと直ぐに気付いて謝罪する誠実さを好ましく思いながら、私は指を折ったりあっちこっちを見てみたりと考えるフリをする。
実は疾うに決まっていた言葉を間を開けてまただらしない感じに告げてやった。そうしたらほら、また想像通りの返事と呆れた顔に内心にやりとしながら彼にしては珍しい表情変化を楽しみつつ戯言混じりの口説き文句をぽつり、と零したら途端不機嫌になった。無愛想に見えて思いの外豊かな感情表現の彼は隠してる様でいて全く隠せていない不機嫌さを滲ませている。そんな君が益々愛しくて欲しいと言う欲求が、胸の奥底から溢れてきたもんだからつい私は嬉しくなって笑い、混じりっ気の無い本音を彼にぶつけ懐からボールを取り出し彼に向かって無言の提案をする。そうすれば嗚呼ほら、
途端目の色を変え君は、ホルスターに手をかける。私達勝負師と似たような勝負への執着と勝利と強さへの渇望、君にだって覚えはあるだろう?同じだ、私は欲しい世界とその世界と天秤に掛けてでも更に欲しい君を手にする為に、今からこの提案を言葉にし君を勝負へと引き摺り込むのだ。


「それではもう一勝負」





この伝わるようで伝わってない、肩とか腕擦れてますよってくらいのすれ違いがじれったくて好きです。

14/7/30