300字SS
桜風
入社して何年も経っているというのに
未だ慣れないこの時期の要らぬ賑わい
会社から最寄駅までの見事な桜並木は
人々を容易く魅了して足を止めさせた
入社一年目はわけもわからず人混みに紛れて通勤
二年目からは桜並木を通らず遠回りをしての通勤
三年目は同期も加わり二人でこっそり迂回の通勤
四年目からは一人で別の最寄駅を利用しての通勤
それからこの時期になると
人の波からはぐれるように
誰にも気づかれないように
二駅先まで歩くようにした
そして今年もその季節になった
同僚達と退社時間をずらして会社を出る
「佳奈」
不意に聞こえる懐かしい声
でも振り向かない
背を向けて歩き出した瞬間
一陣の風が吹き
薄紅色の花弁に包まれ
無意識に涙が零れ落ちた
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