部室
ガラリと戸を開けると、油絵具特有の匂いが鼻の孔に入り込む。
「おはようございます」
「あら、早いのね」
二十五号のキャンバスを前に、絵筆を動かしている。
「先生こそ」
マフラーを外し、コートを脱ぎ、部室の後ろの棚に鞄と一緒に置く。
「私が早く来ないと部室が開けられないでしょ」
明らかに来たばかりとは言えない室内の温かさに、もっと早く来ればよかったと思う。
「僕に鍵を預けてくれれば、遅く来れますよ」
「それはダメ」
「なんで?」
「遅刻するでしょ」
言われてムッとする。
「もうしません」
今は貴方との二人きりの時間を確保する為に、遅刻どころか誰よりも早く来るようになった。そう、他の部員が来るまでの僅かな時間の為だけに。