300字SS
遺子



「おねえちゃん、もうかえっちゃうの?」

悲しそうな顔で見上げる小さな男の子。

「うん、おねえちゃん、明日もお仕事だから」

小さな頭の上に手を乗せ、ソッと撫でる。

「ごめんね」

スッと手を離し、玄関のドアを開ける。
パタンとドアが閉まると同時に、男の子の泣き声と、それをあやす声が聞こえてくる。チラリと振り返るも、開くことのない閉じたままのドアは、無機質に私を拒んでいた。
数段の階段を下り、小さな門から出ると、開かないようにカタンと錠を落ろす。
義父も義母も優しい人だったけれど、義弟が生まれてからは、もう、私の居場所はなくなっていた。だから拒まれる前に、私から離れることにしたのに、なぜか涙が零れていた。





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