short stories*R-18 | ナノ


rain 04-天泣-


例えばこんな夢を見る。

美奈子が笑っている。
そこに浮かぶのは、分け隔てなくすべてを包み込む光のような柔らかい笑顔。


その笑顔は誰に向けられてる?

目を凝らして見ようとしても、あまりの眩しさに目がくらむ。

そうこうしてるうちに、いつの間にか侵食していた闇に光が取り込まれていく。


見えない。
何も見えない。


慌てて手を伸ばしても、虚しく空を切るだけ。
絶叫に似た声で、そこにいたはずの少女の名を呼んでも全てが自分に返ってくるだけ。

何も掴めない手で、耳に届くしんと静まり返る空間に広がった振動で、独りであることにようやく気づく。

怖い。
怖い。

お願い、誰か。

「助けて…」

まだ完全には覆われていないほんの少しの光を掴みとるように、もがき手を伸ばす。


「美奈子…!」


そこで夢は終わる。


細かい内容こそ違えど、ほとんどの内容が同じ夢を繰り返し何度も見る。

「俺はまだ……」

美奈子から笑顔を奪い去った張本人のくせに、まだ美奈子が俺に笑ってくれるんじゃないかという淡い期待を抱いた夢を見続けてしまう自分に吐き気がする。


わかってる。
俺が壊したんだ。
美奈子の笑顔を。


ただただ純粋で綺麗なものであったはずの「好き」という気持ち、それで命よりも大切に思っている美奈子を壊したんだ。

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