short stories | ナノ




本当に大事なものは誰にも見られないように、誰にも悟られないように持っておきたい。
そうしたら、笑われることも失われることもない。

それが、形あるものだろうがないものだろうが何でも、だ。

いつもより随分浮き足立った雰囲気が漂う昼休み。
ポケットの中に入れたそれの重みを感じながら、生徒たちの間を縫うように美奈子を探し歩く。

こんなふうに騒がしいのは苦手だけど、今日だけはその仲間入りをしている事実になんだかこそばゆくなる。
ああ、早く美奈子の顔が見たいな。
どんな顔して喜んでくれるんだろ。笑ってくれるんだろ。それとも、いつもの俺からは想像できないっていって、目をまんまるくして驚くかな?
いろんな姿を想像しただけで、ふんわりと暖かいものに包まれていく。


---それにしても美奈子はどこにいるんだ?

昼休みもそろそろ終わりそうな時間。
今日に限って美奈子が見つからない。いつもならすぐに見つけられるのに。

首をかしげながら窓の外を見ると、中庭の方に歩いて行く美奈子がいた。
だけどここからじゃ名前を呼んで気づいてもらうには遠すぎる。
じゃあどうする、なんて悩むべくもない。

「よし、じゃあ半分おあがり。おいしいよ?」

一か月前のあの日、中庭でもらって半分こしたチョコレート。
あの日の場所で渡せるなんて運命的だ、なんて思いながら踵を潰した上履きをならしながら走り出した。


「ありがとう!すごく嬉しい。大事にするね」

美奈子、と呼びかける前に聞こえたその声は、いつも聞いている声とは全然違っていた。
少し上ずっていて温度が高くて、そして、限りなく甘い。

二人からは見えないように壁に隠れて、そっと様子を伺う。
そいつから贈られたらしきものを持っている美奈子の表情は髪に隠れてあまり見えないけれど。
だけど、全てを理解するには十分だった。

あの後どうやってWest Beachに戻ってきたか記憶がない。
ただ、走って走って冷たい空気を吸い込んで息が出来なくて苦しくて、少し涙がこぼれたのは覚えている。
気づいたときにはベッドの上にいて、オレンジから燃えつきる前の一番赤い色に移り変わる陽をぼんやりと見つめていた。

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