short stories | ナノ


意地悪の理由


「も、もうこれ以上は……!」
「あ?全然足りねぇな?」

すがるように触れた逞しい腕は、わたしの気持ちを知りながら、するりと抜けていく。

離れた身体から伸ばされた指先に、視線を合わせろと言わんばかりの強く柔らかな力が入る。

――ああ、やっぱり。

いたずらっぽく笑う顔も好き。
胸の奥が暴かれるような艶めいた声も好き。
力強いのに、壊れ物に触れるように扱ってくれる繊細さも好き。
ぶっきらぼうな言葉とは裏腹に少しだけ震える指先も好き。
唇が触れる前に、ふわりと緩める目元も好き。


琥一くんの全部が大好き。


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