ジャミルと初夜権



街中がほんのりと賑わった。わたしはいつもよりも華やかな衣装を着てみんなに祝福されながら花道を歩く。
今日で結婚するのだ。商人の娘として生まれたわたしは、父の取り決めた貿易商の息子と結婚するのだ。彼のこげ茶の瞳は、出会った頃から寸分変わらず今もわたしを優しく見つめる。





「ナマエ、おめでとう」

「あら、領主様じゃありませんか。お祝いにきてくださったの?」


おめでとう、という祝辞の言葉とは裏腹にジャミル様の瞳には鋭い棘が含まれていた。笑っていない目と、緩んだ口元は、まるで彼の奴隷に向けられているようなそれ。

「なあ、ナマエ。今夜俺の家に来い。もちろん、わかってるよなぁ?」

ゴクリと自身の生唾を呑む音が聞こえた。わかっている、今夜彼の家に行く理由も、行かなければどうなるかも。
ただ、今この瞬間。何よりも幸せな時間においてその事実を改めて知らせて欲しくはなかった。

「……………わかり、ました」


後ろでは、わたしの旦那様が顔を歪めているだろう。ああ、なんでわたしはもっともっとお金持ちじゃなかったのだろう、なんでこんな制度が設けられているのだろうと。深く深く心の中で世界に向けて憎しみの感情を放つ。

「…じゃ、またあとでな」



再びに笑みを貼り付けた領主様はひらひらと片手を振りながら、赤紙の奴隷を連れて式場から去って行ったのだった。


(続きいつかかきたいです…!)