(ジャーファルと妹)

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揺らめく朝日が、珍しくうっすらと降り積もった雪に反射して視界をキラキラで覆った。じゃりじゃりと足の裏で雪を踏み固めながらツンと張り詰める空気の中を四本の足が駅へ向かう。


…もう一枚、厚着してくるべきだった。

寒さに身を震わせながら、むき出しになった素足を見つめた。着ているセーラー服がずっしりと湿気を吸い込んでいつもよりも重くなっていた気がするのは、それは多分きっと、気のせいなんかじゃあないだろう。

「…寒いですねぇ」

ポツリと漏れた声によこをみやる。わたしと同じ、雪と同じ、色素の薄い銀色の髪を揺らしながらわたしとめをあわせた。
コロコロとカバンにつけたチャチなキーホールダーが間抜けな音を立てる。優しいテノールは、朝の空気には優しくはない。

「…ジャーファル、手袋忘れたの」

「え、ああ。まあ、急いでましたし」

「ふぅん」

学ランのポケットに両手を突っ込んでいるジャーファル。いつもは生真面目に両手を出して「こけたら危ないでしょう!」とわたしにまでそれを強制してくる兄にしては珍しいことだった。
それにしても、ポケットに両手を突っ込んでいてこけた記憶などわたしには一度としてなかった。
ジャーファルはわたしのことを妹としていつまでも過保護に守りすぎだと心の中で悪態をついた。


「あ、時間やばいかも」

「……あと5分ですね」

それを皮切りに足のスピードを早めた。ツルツルと先人によって開拓された路面は滑りやすく、寒さに固まった体もあってか、幾度かつんのめりながら。その度にジャーファルに手を差し出されながら駅の改札まで一気に走り抜ける。


一番ホームのエスカレーターに足を載せかけたとき、つるりと滑ったわたしを支えたのはやはりジャーファルだった。瞳は一瞬揺らぎ、再びいつもの優しい兄の瞳に戻ると私はこっちだから、と三番ホームへ向けて歩き出した。

支えられていた手が離れた瞬間、ぞわぞわと心の奥から湧き上がったのは、私がこけなかったのはそうか兄のおかげなのかと珍しくジャーファルに感謝の念を抱き、彼の背中に向けて大きく名を呼びかけた。

「ジャーファル!」

「はい?」

ぼすっ、とポケットから取り出したまだ開けたばかりの冷たいカイロを思いっきりに投げつけた。慌ててキャッチしたジャーファルは何事か小言を言おうと身を乗り出したが、飛び乗ったエスカレーターのおかげで二人の間にはぐんと溝が広がった。

「…ありがと、」

ぼそりと背後から聞こえた優しい声にほんの少しだけほおを緩ませた、朝の忙しない時間の話だった。



(二人の間に恋愛感情とかはないです。ジャーファルさんはとにかく妹思いだと嬉しいです(^O^))