(現パロで紅炎と夢主は恋人) __ 『ねえ紅炎キスしようよ』 「どうした急に」 久しぶりに携帯に入った着信。第一声がそれだった。ノイズが混ざった電話越しの掠れたナマエの声が昔のモノクロフィルムの映画のようにぼんやりとどこか遠くから聞こえているような気がした。 『わたし欲求不満なの。紅炎覚えてる?わたしたちが最後にあったのってもう一ヶ月も前なのよ。だから、キスしにきてよ』 「…ナマエ、お前はいつからそんなはしたない言葉を使うようになったんだ」 『あら、はしたなくなんかないわよ。あなたが欲しいの。まあ、しいていえばあなたがわたしをこんな風にしちゃったの。わかるでしょ?』 この女はこんなに感情を言葉に出すような人間だったかと過去を探るが、なるほどナマエの言うとおり、ここ最近ナマエに関する記憶がぽっかりと抜け落ちている。…いや、もとよりここ最近のナマエとの出来事など皆無なのだ。 『ねえ、聞いてるの?今からわたしを迎えにきてよ』 「っ、今からって何時だと…! …今どこにいるんだ、何処にでも迎えに行ってやる」 『…魔王の、城の前かしら』 チラリと横目で時計を確認すれば、長針と短針が12の手前で今か今かと重なる瞬間を待っていた。 寝巻きの上からコートを羽織って手ぐしで髪を整えた。一日中動き回って、体はこんなに疲れていて、わがままな恋人の願いを聞き入れるのには少々気分が優れないとは思っている。しかし無意識のうちに溢れた鼻歌がそのすべての感情が偽りだったのだと証明している。 「今から行く」 『待ってるわ』 ナマエの声が重複して聞こえるのに気がついたのは、玄関を出る直前だった。 ガチャリと重たい扉を開ければ、予想通りそこにはナマエがいた。ぶわりと遠く離れていたような世界が一気に縮まる。 『「ねえ、キスしてよ」』 機械を通したざらついた声と、目の前から紡がれる暖かな声とが耳に届くその前に、ナマエの体を引き寄せた。 (最後のセリフただのホラーですね…) |