今日は日曜日で、珍しく練習が午前中で終わって、それでもハードな鬼道監督の練習メニューは僕のお腹をペコペコに減らした。だから、お昼一緒に雷々件で食うド!とニカッと笑った天城先輩の誘いを断る理由は何処にも無かったんだ。

「あ、天城くん、」
「天城?」

そこに行く途中見かけた、というか見かけられた二人は、ついこの前戦った幻影学園の人だった。それと同時に天城先輩の小学校の頃からの幼なじみだったから、そのまま会話はどんどん進んで、今四人でラーメンを啜ることになっている。
僕は当然断った。否、断ろうとした。流石に幼なじみ三人水入らずを邪魔する気はない。なのに今ここにいるのは僕はいいです、と言おうとした僕の服をぎゅ、と掴んで天城先輩達にばれないくらい小さく首を降った香坂さんのせいだ。

「さっきはごめんなさい。」

三人の邪魔をしないように黙っていた僕の横に席を移動した香坂さんは遠慮がちにそう言った。

「あ、別に大丈夫です。お腹空いてたし、」

その申し訳なさそうに下がった眉毛に怒る気は起きなくて、はは、と笑いながら返事をする。香坂さんは安心したようにため息をついて、あの、とやっぱり遠慮がちに話始めた。

「あの試合の後も、やっぱり学校違うし、サッカー部の練習もあるし、あんまり会えなかったんです。それで、せっかく会うなら二人で話して欲しくて。だからって一人で黙ってると多分二人とも心配しちゃって話すどころじゃ無くなるから、」

それで、巻き込んじゃいました、ごめんなさい、ともう一度謝った香坂さんに大丈夫です、と僕ももう一度言った。前もそうだったけどやっぱり今回も、香坂さんは天城先輩達のことを一生懸命考えてる。わいわいと楽しそうに喋る二人を見て、心底嬉しそうに口許を緩ませていた。

「優しいんですね。」
「え、」
「香坂さん、優しいです。」

その嬉しそうな口許を見ながら、僕はなんとなく、前から思ってたことを言ってみた。突然誉められた香坂さんは、あからさまに困ったようにうろうろと視線を回す。少し左に視線を置いて、小さくありがとうございます、と呟いた。それでも、何か落ち着かないらしくてついに視線は下で止まる。

「あの、天城くんは、そっちの学校でどんな感じなんですか?」

三秒くらいの間の後にパッと顔を上げた香坂さんは、むず痒さに耐えられなくなったらしく、新しい話題を口にした。僕も香坂さんを困らせても仕方ないし、話題にのる。

「うーん、しっかりした人って感じで、みんなに慕われてますよ。あと、よくこういう風に後輩を食事に誘ってくれたりします。」
「そうですか、じゃああんまり昔と変わらないなぁ。」

良かったです、と懐かしそうに、嬉しそうに目を細めた香坂さんを見て、やっぱり優しいな、と思った。もちろん言ったらさっきみたいに困らせるだけだから黙っておく。

「僕の部活のマネージャーさんで、たくさん写真撮る人がいるんです。」
「写真?」
「はい、試合中の写真とか、他にも休憩時間に話してる様子とか撮ってるんですよ。」
「へえ、すごいですね。」
「それで、天城先輩の写真も多分撮ってると思います。」
「天城くんのも?」
「はい、みんなの色んな写真を撮ってるんで。だから、今度見ませんか?」
「え、いいんですか?」

香坂さんはぱぁ、と効果音を付けて僕を見た。それにはい、とにっこり笑って答える。そうしたら、余計嬉しそうな表情に変わる香坂さんは、ありがとうございます、とお礼を言った。

「来週末、暇ですか?」
「はい。大丈夫です。」


それからトントンと会う約束は決まっていった。来週末、午後三時に駅前のファーストフード店。ありがとうございますとまた嬉しそうに笑ったから、こちらこそ、と答えたら香坂さんは疑問符を浮かべた。だってこれはもちろん香坂さんのためでもあるけど、僕のためでもあるんだ。香坂さんの暖かくて優しい、嬉しそうな表情をもう少しだけ見ていたくなって、だから誘ってみたんです。なんて言えないから、心の中でそう答えて、また天城先輩のお話を再開させたら、香坂さんは嬉しそうに黒髪を揺らした。


▼たまさん/ちょこおり

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