十年後捏造。
不動が木枯らし荘の住人設定。





最近、木野の体調があまり良くない。
原因は分からないが、ここ数日食欲が無いみたいだし、食べてもしょっちゅう戻している気がする。

体調が悪いなら寝てろ、と天馬や木枯らし荘の住人達にも言われ、漸く大人しく寝る気になったのか、今は自分の部屋で眠っている。
そのお陰で、元々当番制だった家事をやるのは大抵住人達だった。



一通り家事を終えると、コーヒーを自分の分をカップに注ぎ、一口飲む。
そして、未だ渡せていない指輪をポケットから取り出すと、自然と溜め息が出た。
中学の時からずっと引摺っている想いを伝えることすら出来ない。
その上居候同然に一つ屋根の下で暮らしているのに関係は変わらないまま。溜め息だって出てしまう。
ぼーっと考えていると、バタバタと走る物音が聞こえ、直ぐに指輪をポケットに入れた。

『秋姉!不動さん、ただいまー!』

『おう、お帰り。』

『…あれ?秋姉は?』

帰って来たばかりの天馬は、中学指定の鞄を下ろすと、キョロキョロと辺りを見回す。

『天馬、アイツ今寝てるから…。』

静かに、と言いかけた時。顔を真っ青にしながら、フラフラと木野が現われた。

『あ…天馬、お帰り。』

『秋姉、大丈夫?』

『大丈夫よ、少し寝たから…。』

口では大丈夫だと言っているが、やはり顔色は悪い。

『秋姉、病院行ったほうがいいよ!顔真っ青だし。』

『大丈夫よ、そんな大袈裟な…。』

遠慮している木野を何とか説得すると、天馬とタクシーで木野を病院まで連れて行った。





最初は、医者の言っていることを理解することが、お互い出来なかった。

『おめでとうございます。三ヵ月です。』

『……え?』

『………え?』

『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?』

因みに大声を出したのは天馬で、病院だから静かに、と言われ、隣に縮こまるように座った。





『えーと、その…。』

『やっぱり…不動くんと私の…だよね?』

『……だよな…。』

気まずい。非常に気まずい。
三ヵ月?何が?……妊娠が。誰との餓鬼だ?………俺か?

『あのさ…その…何て言うか…。』

『あ、あのっ!えっと…子供なら私一人でも育てるつもり』

『…は?一体何『だって、私、嫌だよ…私のお腹の中には一人分の命があるんだよ?堕ろすなんて嫌!』

『あのー、木野『確かに…好きでもない人との間に子供が出来たって、嬉しくないかも知れないけど…それでも産んで育てたいの。』

『いや、ちょっと話を『不動くんが子供の頃、家族がバラバラになったのは分かってるよ。けど…私だけでもこの子の側に居てあげたいの!お願い!』

………駄目だ。全く話が出来る様子じゃない。これ以上興奮させるのは、本人にも腹の餓鬼にも悪い。
…それに、誤解も解いておかないといけないだろう。

少し落ち着かせようと肩を抱き寄せ、じっと向き合う形になった。そしてポケットに入れていた中学からずっと続いていた想いを込めた指輪を左薬指にそっと填める。

『秋、』

『え…。』

『その…。』

一回しか言わねぇからな
『俺と結婚して欲しい。』

すると、秋は病院ということを忘れ、ただ笑顔の目に涙を浮かべながら抱き着いた。



▼澄霞さん/あきあき同盟/砂時計が刻む時

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