彼女から溢れだす、鼻を掠めた薫り。いつもと違う、知らない薫りが嗅覚を刺激した。






ふと感じる違和感。別にどうってことない感覚なんだろうけど、気になっていることがある。
それは最近感じ始めたことで、はじめはふとしたことから、そしてそれが違和感だと察すると余計に気になり始めた。その原因はおそらく解っている。




「黒、崎くん…?」


声がする方に頭を回すと、井上が少し申し訳なさそうにそこに立っていた。わたわたと両手を大きく上下させてひどく慌てた様子だ。


「…どうした?」


「あ、今から帰るんなら、方向一緒だし、と思って…。」


相変わらずばつが悪そうにしている彼女に、一緒に帰るのは別にいいけど、どうしてそんなに落ち着きがないんだ?と聞くと、いつもより眉間の皺が険しいから話し掛けてよかったのかなって思って。と井上はやっぱりまだ少し気を遣いがちに笑っていた。





* * * * * * *




「だいぶ暖かくなってきたねえ。」


見慣れた景色の帰り道、隣を歩く彼女から明るい声が聞こえる。とても嬉しそうに笑っていて、少し気持ちが落ち着いた。


そんな中ふわり、と薫る。少し大人びたような薫りは彼女からあふれ出るものだ。雰囲気も少し変わったように見える。


「井上、あのさ、香水…変えたのか?」


「あ、う、うん!ちょっと雰囲気変えたくって香水を使うようになったの。」


そう言って井上は嬉しかったのか、少し照れたように笑った。
いつも傍にいるというわけではない。だからこそ井上の小さな変化に反応できたのかもしれない。ただ気になった。変わったのは、香水だけてはなく、化粧の仕方、肌や爪の手入れなども、最近はまっていると井上は言った。
少し、背伸びした井上の雰囲気に、心揺らいだ瞬間でもあった。




「本当はね、黒崎くんが好きな薫りだと思ったの。」


だからこの香水にしたんだ。と無邪気に向けられる笑顔に大きく揺らいだ。このときに気が付いた。井上の雰囲気に気が付いたのも、無意識に意識していたということ。彼女の変わりゆく変化に少しの躊躇を感じつつも、心揺らいでいたのだ。


(だから、か。)


どくどくと脈打つ心臓は意識しだせば留まることを知らない。呆気にとられた俺の様子を見て、慌てたように撤回をする井上を見て、さらに熱が増していることを自覚しつつ、もう今更撤回しても遅い、と笑った。




恋の病は君にしか治せない





end


▼魅也さま/DNA25




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