正直、井上織姫という少女を恋愛の対象としてみていたことは一度もなかったと思う。
かけがえのない仲間。ルキアや恋次、チャドや石田とおなじ。
そして現世での同級生であり数少ない友人。
護りたいと、そう心が願ったことはある。けれどそれは大切な仲間だったから。自身の使命感のような……そんなものだった。


けれど。


彼女に告白されて嬉しかったのは本当。そしてじゃあ、とつきあいだしたのはすぐ。
恋愛なんて興味がなければ、自分はよくわからないカテゴリだ。彼女とつきあいだした当初も、自分はどちらかと問われれば受けとめる側だった。
手を繋ぎたい、と言われたら手を繋いで。
出かけたいと言われたら指切りの約束をして。
お昼を共に食べたいと言われたら、周りに冷やかされながらも机を向かいあわせにして。


自分からは特にアクションを起こさない。
だからきっと、彼女を悲しませたことだって少なくなかっただろう。


そんなことを考えた時、どうしようもなく自身への苛立ちを感じてしまう。
自分は本当に井上にふさわしい男なのだろうか? 自分なんかよりも彼女に幸せを与えてやれる奴がいるのでは――そんなことを考えて。
だけど。




黒崎君が好きだよ




……知ってる。っても知ったのは最近だけどな。




あたしは、黒崎君が傍にいてくれるだけでとっても幸せなんだよ?
笑ってくれたら、もっと嬉しいの




俺も。……井上の笑った顔が好きだ。
本当にそう思ってる。






彼女がりんごのように滑らかな陶器のような頬を染めながら好きだと言う度に、夏の太陽のような眩しい笑顔を向けてくる度に、俺の心はとくんと高鳴るようになっていた。
そうなればもう、止めなくなって。必要以上に寄りそった。細い腰を抱き寄せた。優しいキスを何度も送った。
初めて、二度目、三度目……どこでしたかなんてもう覚えてはないけれど。彼女を怖がらせないように、優しい口づけをしてきた。
けど。




「……井上、あのさ」
「なあに?」




茜色の光が窓から差し込んで、俺の部屋の中に柔らかいものを落とす。
唇が離れた瞬間から、まるで時が止まってしまったかのように感じていた時間がまた動き出す。静かな中で、とても近くにある井上の綺麗な顔。なのにどうしようもなく可愛いと思ってしまう矛盾。




「黒崎くーん?」




どうかしたの? と顔の前で小さな手を左右に振る井上を認めながらも、尚も俺は心の中でうーん、と考える。
……どうしようか。
嫌われたら嫌だし、引かれるのも嫌だ。だけど、もう我慢出来ない自分がいて。


俺は井上の胡桃色の頭を片手で引き寄せ、そのてっぺんに触れるだけの口づけを落とす。




「! く、くく黒崎くん?!」
「井上」
「は、はいっ」
「……もっと井上を感じれるキス、していいか?」
「!」




名前を呼べば、どこぞの小学生のようにびしりと返事を返してきた彼女に、俺はおもわずくつくつと喉を鳴らしてしまいながらも、そう問うた。
そろそろ触れるだけのようなそれでは、我慢ができなくなってしまっていた。


 おわり




▼めいこ様/千花




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