並んで隣りから見る景色は、今までより鮮やかで。
世界中がキラキラ輝いているみたいで、ドキドキが止まらない。
そんな中で、新しい黒崎くんを知る度に、あたしの中の『好き』がどんどん増えていく。
幸せに感じる瞬間。
だけど。
その反面、不安も増えた。
好みが違ったら。
気に入ってくれなかったら。
あたしに愛想尽かして、キライになったら…――
きっと些細なことなんだろうけど。
ふとした時に考えてしまう、『もしも』。
好きなのに。
出逢った頃よりも。
片想いだった頃よりも。
あたしの中の、黒崎くんを好きって想いが、どんどん溢れてきて。
とっても、とっても…――
「井上。足下、気を付けろよ」
あたしより数段先に降りる黒崎くんの背中を見つめながら、浮かび上がってくる『もしも』を、必死に掻き消そうとしていたから。
気付かなかった。
「わっ…きゃぁぁあっ!?」
「…井上!!」
あと2段か3段ってところ。
滑り止めが削げて無くなった階段に、躓いて。
落ちる瞬間、みっともないとこ見せちゃうな…って、頭の中で思った。
でも。
痛いと感じる衝撃は、なくて。
ぶつかる筈だった床も、すぐ目の前にない。
「〜っ…大丈夫か、井上?」
代わりに、あたしを守ってくれた黒崎くんが、目の前。
すぐそこに。
「ご、ごめんね黒崎くん…」
「それより、怪我してねぇか?」
「うん、大丈夫……ごめんなさい」
心配してくれてるって、分かった。だけど、情けなくて顔を上げられなかった。
いつも心配掛けて。
迷惑ばかり掛けて。
「……っ」
「い、井上っ!?」
頬を雫が流れた。
「オマエ、やっぱりどこか怪我してんじゃねぇのか?」
慌てる黒崎くんに、あたしはただ、首を横に振って答えるしか出来ない。
泣きたくないのに、涙を見せたくないのに。
止めようと思えば思うほど、溢れて零れ落ちていく。
あたしの手を濡らして、黒崎くんの制服に跡を残す。
「…き、なの…」
「え?」
「すき…なの、黒崎くんのこと」
「……知ってる」
「ううん…きっと、黒崎くんは知らないよ」
涙と同じように、言葉が溢れて止められない。
「好きなのに…嬉しいのにね……あたし、コワいの。黒崎くんに嫌われたらって、いろんな『もしも』を考えちゃう…。好きと同じだけ不安が溢れてきて……苦しいよ」
「俺も…同じだから」
それまで何も言わずにいた黒崎くんが、呟く。
涙で濡れたあたしの頬を、ゆっくりと、その大きな掌で包み込んで。
「正直言うと、な。俺も困ってるっつーか、不安っつーか…。井上の気持ちはすっげぇ伝わってくるのに、俺の気持ちは伝わってんのかな…とか。オマエの言うところの『もしも』ってやつ、考えちまうんだよ」
そう言いながら、親指で涙を拭ってくれる黒崎くんの顔は、窓から差し込む夕陽を受けて穏やかで。
こんな状況なのに、『好き』が増えてしまう。
「けどよ、それでもいいんじゃねぇか?」
「どうして?」と視線で尋ねてみると、少しだけウーンと唸って、黒崎くんは続ける。
「きっとさ。相手を想って苦しくなるのは、自分の気持ちと向き合うってことなんだって思う。それを、好きなヤツと乗り越えなきゃダメなんじゃねぇか?」
「俺は、井上と一緒に向き合っていきたい」
言葉だけじゃなく、瞳から、身体から。
黒崎くんの気持ちが真っ直ぐ、あたしに向かってくる。
自惚れとか、そんなんじゃなくて。
「あ…あたしで、いいの?」
「おう」
「だって、あたしきっと……」
「井上は、どうしたい?」
「あたしは……あたし、は…」
「黒崎くんと…一緒が、いい」
好きと一緒に溢れてくるのは、あたしの正直な気持ち。
不安だったり、寂しさだったり、キレイじゃない気持ちだってある筈。
だけどあたしは、その気持ちと向き合おうと思う。
だって、その根っこにあるのは、『黒崎くんを好き』って気持ちだから。
一緒に居てくれるなら。
あたしは、自分の気持ちを信じられる。
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▼まの様/ソラアイ
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