甘いものは苦手、苦味のあるブラックコーヒーが好きだ。
でも最近よく目につくのは、ミルクたっぷりのカフェオレとクリームたっぷりのケーキセット。
細身でシンプルな服が好きだ。
でもついつい見てしまうのは、ひらひら花柄ワンピース。
オンナが好きそうなアクセサリーショップは苦手だ。
でも無意識に探してしまうのは、青い六花のネックレス。
そうして毎回思うこと。
(ああ、井上が好きそうだなぁ)
「お兄ちゃん、次っ!こっちこっち!」
「一兄ー、早く!」
久しぶりに妹達と買い物に出た。
正確に言えばただの荷物もちなんだけど、
前を歩く妹達の顔がいつにもまして楽しそうに見えるのは兄貴としての自惚れか。
各言う俺もさっきから口元緩みっぱなしなんだけどさ。
「おーい、そんな慌てて転けるなよー」
「「はーい!」」
妹達はお目当てのアクセサリーショップを見つけて、2人仲良く駆けていく。
「お兄ちゃんはどうする?」
「なにが?」
「どこかで待ってる?」
店に入る直前で遊子が振り返る。
遊子が指差す店内をぐるりと視線を一周させて考える。
「いや、一緒に行くよ」
「本当?」
「ああ。適当に見てるから、終わったら声かけろよ」
「うん」
俺に背を向けて夏梨と2人、売り物を見る姿を確認してから、自分も軽く店内を物色。
どちらかと言えば、こういうオンナ向けの店は苦手だ。
入るかどうか迷ったけど「可愛い妹達を世の中の悪者から護るんだぞ!」と朝から泣き付いてきたヒゲの顔が頭に浮かんだから。
それに、井上と付き合うようになってから多少慣れてきたってのもある。
というか、最近自分の趣味が変わってきた気がする。
服装の好みとかそういうことじゃなくて、なんていうか意識的なこと。
俺とは真逆だろってものに、無意識に目がいってしまう。
というか自分から探してる、気がする。
今だって俺の視線の先にあるものは、明らかに女物の小さな花のついたネックレス。
俺に女装の趣味はないし、いつだってその意識の先にあるのはたった1人。
井上織姫、その人。
「マジで俺、惚れすぎだろ・・」
いつだって無意識に、気付けば考えている井上のこと。
ああ、あのケーキ井上が好きそうだなぁとか。
あの服、井上に似合いそうだなとか。
とにかく、いろいろ。
その度に、自分がそれはもう心底井上に惚れていることを再確認して1人赤面。
「ゾッコン」って言葉がぴったりなんだろうなって。
「お兄ちゃん、お会計しに行くけど、何か一緒に持っていくものある?」
遊子と夏梨がひょっこりと顔を出す。
2人それぞれに気に入ったものを手にして。
俺の手にも、思わず手にとっていた花のネックレス。
花びらの色は、水色。
それを見ただけで誰のことを想っているのかわかったのか、妹達はなんだか嬉しそうに笑っている。
「やるじゃん、一兄」
「喜んでくれるよ、きっと!」
ああ、兄バカと言われてもいい。
なんて出来た妹達だろう。
ここにいたのが親父なら、絶対に鬱陶しく絡んできたに違いない。
「これも一緒に頼むな」
「「うん!」」
ネックレスと五千円札を妹達に託す。
お前等の分も一緒に払っていいぞと伝えると「やったー!」とバンザイしながら駆けていく。
(さて、なんて言って渡せばいいんだ?)
会計を待っている間に考えるのはやっぱり井上のこと。
普通に「お前に似合うと思って買ったんだ」って言えばいいだけなんだけど、やっぱりちょっとくらいカッコつけたいし、
本音を言えば恥ずかしい。
でも、どんな風に渡したってきっと井上は喜んでくれるとか思ってしまうあたり、兄バカならぬ彼氏バカ・・・。
「はい、お兄ちゃん!」
「おう、ありがとな」
綺麗にラッピングされた箱を受け取る。
これを渡したら、井上はどんな反応をするだろう?
最初は驚いて、照れたように笑って、もしかしたり泣いてしまうかもしれない。
でもきっと、最後には満面の笑みで「ありがとう」って言ってくれる。
俺の一番好きな顔。
こんなことを考えていたら、無性に井上に会いたくなってきた。
あ〜もう、本当にやばい。
好きすぎて俺、バカみたいだ。
*2011.11.01
でもこんな自分は嫌いじゃない。
▼ラテ様/*リトルレスト*
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