今時風に言うならば俺の今の状況は


「テスト期間なう」


って、ヤツだろうか。




まあ、受験生であるとこも加味してか、ぶっちゃけテスト期間と普段と、あまり勉強時間は変わらない、といってもおかしくはないが。
しかし、井上は違う。
3年生になった今でも大好きな手芸部に出続けており、帰る時間がそこそこ遅い日もある。
もちろんそんな遅くまで残る彼女を一人で帰らせるなんてことはさせない。俺は井上が戻ってくるまで勉強等をして待ってから二人で帰るのだ。
そんな彼女はテスト勉強に熱心で、テスト期間ともなるとなかなか会ってはくれない。一緒にいれるのはせいぜい二人で帰るときくらいだ。


要するに、俺が言いたいことは、


「井上不足」である、


という、こと。






カチ、コチ、カチ、コチ、


規則的に鳴り響く時計の針の音が、嫌に大きく感じる。




カチ、コチ、カチ、コチ、


それは俺の錯覚なはずなのに、段々と錯覚なんかじゃない気がしてきて。




「あー、くそっ……」


ダメだ。




集中すればするほど、井上の存在が俺の頭から離れなくなっていく。
こうなってしまっては、テスト勉強どころの騒ぎじゃない。


俺一人の力じゃ、治まらない。






ケータイを手にとって、出てきたのは電話帳。
映し出されるのは、彼女の名前。
少し躊躇った後に押した、発信ボタン。






プルルルル
プルルルル






何を言おう、何を話そう、そんなことを考えていると、いつの間にか電子音は切れていた。
「もしもし?」
ハッと引き戻される、俺の思考回路。
「あ、もしもし、い、井上!?」
しまった、声が裏返った。
恥ずかしさをきにする間もなく、彼女が尋ねてくる。
「どうしたの?何かあった?」
「あ、いや……………」
何もない、ただ、お前の声が聞きたくて…
(なんて、死んでも言えねえ…けど…)
「黒崎くん?」
「あ、あの…………」





やべえ




すげえ好きだ





「こ、声が…」
かすれそうな程、微かな俺の声。
「声?」
「聞きたかった、っつーか…」
「……………へ?」
「最近、その、テスト勉強で…あんまり、会えて、なかったから……」
「………………」
…しまった、言ってしまった。
これが電話で本当によかった。
こんな真っ赤な顔、恥ずかしくて井上には見せらんねえ。
…しかし。
井上からの返事は、何もない。
ああ、やっぱり、やっちまったか…
「……わりぃ」
「………………えっ?」
「いきなり、電話して、こんなこと言うとか…可笑しいって思うよな」
「え?!いや、そんな…」




「…俺が恋煩いとか、笑うだろ?」




半分自分を心のなかで嘲笑しながら、まだ赤みの残る顔で言った。
ヒかれた、よな。
と思っていたとき、思いもよらない返事が返ってきた。
「……………わ、…笑わないよ!」
「…………え、」




「だ、だって、アタシだって、可笑しいもん、アタシだって、黒崎くんに、会いたい、なんて、思っちゃって…………」




「…………井上」
「おかしい、よね」
こんなに嬉しいことが、あっていいのだろうか。
まさか、まさか、彼女も同じ、だったなんて…


「待ってろ、井上」






「え?」




もう、我慢することは何もない。


「今から、会いに行くわ」



END



▼まーとぅん様/無重力ワンダーワールド




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