「……。」
井上宅でのお泊まりデートにすっかり慣れてきた頃。
風呂上がりの湿り気を帯びて垂れた髪をそのままに愛しいカノジョとの夜更かしを楽しもうとリビングに入った、その瞬間。
釘付けになったシングルベッドに載せられている物体に、記憶の引き出しを開け閉めする必要は無かったけど。
「…井上、」
『は〜い?』
訊かないわけにも、いかなくて。
「…コレ、」
『えへへ…今年一番の自信作なんだよ、このクッション。』
誇らしげに掲げられたピンクとブルーの生地に包まれたソレは質素な部屋の中でも異彩を放って、その上厭な予感が過る。
「…まさかガッコで、」
『いっ、いえいえ!ああ、あたしだってソコまで大胆じゃありませんぞっ!?』
「そ、そっか…。」
安堵するトコロが違う気がしたけど、可愛らしくワタワタと弁解する井上の手から件のソレを受けとり改めて観察してみる。
―まぁ、良く出来てるよな…うん。
『…あ、呆れちゃった?もしかして、』
「ヤ…流石に驚いたけど…イイんじゃね、こういうのも。」
『ほっ…ホントに!?』
「お、おう。」
『えへへ…良かった。…じゃあ、』
「…え、」
『今夜はいかがッスか?黒崎くん。』
「…っ!?」
『ホラホラ、お返事して下さい!』
―お、オマエが訊くのかよ!?
『イエス?それとも…ノー?』
小首を傾げながら覗き込まれて、もはや逃げ道なんて無いのだと思い知らされる。
―んなモン…決まってる、
「い…イエス、」
『ふっふっふっ…朝まで寝かせませんぞ、黒崎くん?』
―此方のセリフだっつの…なんて、こんなツラじゃ説得力ねぇよな。
「…お手柔らかにお願いシマス。」
▼框さま/apricotton
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