2014/12/20 22:18

社長高杉?と妻銀さん?
深夜のひととき的な





煙草を吸うついで、高杉は左手に目をやった。濃紺ストライプのスーツの袖口、白いワイシャツと銀色の腕時計の先の左手。その薬指に嵌まるプラチナの指輪が、照明を落としてデスクライトだけの明かりにきらりと輝いていた。
右手で火をつけてひと吸いしながらその左手をかざす。歳月により少しだけくすんだ指輪はそれでも輝いていた。この片割れを持つ、相手のように。
思えば不思議なものだ。
こんな輪っかが自分と相手を繋ぎ、なおかつ何も言わなくてもその事をまわりに知らしめる。決して安くはない物だが、それによる効果は絶大だ。首輪よりも趣味がいい。
山になった灰皿に灰を落とす。
これを見たら片割れはその可愛い顔を歪めるだろう。そしてさえずるように小言をこぼすだろう。様子がありありと想像できて高杉は小さく笑った。言う言葉さえ分かる。それぐらい長い付き合いをしてきたし、これからもそれは変わらない。それはこの指輪を渡す前から決まっていたし、何があっても揺るがない事実だ。
しばらく紫煙をくゆらせ、燃え尽きそうな煙草を灰皿に突っ込む。そうして高杉は左手から指輪を引き抜いた。裏側を見る。そこにはなんの飾り気もなく、互いの名前のイニシャルだけを彫らせた。それだけで十分だった。
「……」
相手から名前を呼ばれたことはない。いまだに自分達の名字で呼ばれるが、高杉にとってはもはや同義で、あの口で、あの声で自分を呼ぶなら何だって応える。それぐらいには相手は特別な存在だ。そして、
「ぎんとき」
呟くと湧き上がる優しい気持ち。
今頃何をしているのだろう。時刻は深夜だからきっと寝ているはずだが、もしかしたら古馴染みと飲んでいるのかもしれない。そうだったらあとで説教だなと思いながら指輪を嵌め直す。一人にさせているのは心苦しいが、だからと言って狼共の檻に入れる気は毛頭ない。そうならない為の指輪であり、誓いもたてた。神など信じてはいないが、その誓いに嘘はない。
ぴったり嵌った左手の指輪。ふた回りも小さい片割れを持つ相手を思い、口端を緩め、高杉はそれから視線を逸らした。






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