― Happy End ―










あなたのいない世界がハッピーエンドだと言うなら、
私はあなたのいるバッドエンドがいい。


18歳に結婚したあの日。

あなたに添い遂げると誓った日から、
私の想いが変わる事は今までもこれからも変わることはない。










それはいつもと何ら変わらない日常だった。

夫である悟空は約束通り、畑仕事という職でしっかり精を出し、
息子である次男坊悟天は、勉強の息抜きにと悟空の元へ向かったとても平和な日常風景。


この瞬間がなければ、今日も平和な日常は続いていた事だろう。



ーーバタンッ…!!


それはあまりにも突然で、残酷な悲劇の始まりだった事をこの時は知る由もない。

家のドアが壊れそうな勢いで開け放たれる音が耳を劈く。

“ 何だ?! ”と声を張るチチはキッチンから顔を覗かせればそこには悟天の姿。
強敵の襲来ではなかった事に一安心するチチはふぅと一息吐いた。



「 悟天、そげな乱暴な開け方したらなんねぇべ? 」

「 ごめんなさい、でもお父さんが大変なんだ! 」

「 ん?悟空さが? 」



冷や汗を掻きながら肩で呼吸をする悟天の慌て振りはなかなか見られるものではない。
夫に似て喜怒哀楽は激しいのだが、如何せん夫に似過ぎている部分もあって、天然なのだ。

普通の人が驚く事でも悟空と悟天は驚く処かクエスチョンマークを頭に浮かべている事だって、ざらにある。


そんな悟天であるにも関わらず、
只事ではない雰囲気を醸し出すものだから、
チチはキッチンでの作業を中断しエプロンを脱ぎ去ると悟天の元へと駆け寄る。



「 何があったんだ? 」

「 とにかく来ればわかるから!! 」



急ぎ足の悟天はチチの有無も聞かず手を引っ張り、外へと出た。
雲一つない晴天は悟天の心情とは裏腹な天気であろう。



「 ちょっ?! 悟天ちゃん? 」



その問いかけも聞かずにチチの両脇を掴むと空へと舞い上がる悟天。
いきなり宙を舞うものだから多少驚愕しつつも、冷静さを意識し、まず聞きたい事を問うた。



「 悟天、どこさ向かってるだ? 」

「 畑だよ!どうしてこうなっちゃったかは分かんないんだけどとにかく大変なんだ! 」

「 悟空さが怪我でもしただか? 」

「 んーん、違う! あっ、ほら見て!! 」



怪我ではないと聞き、ほっと安心したのも束の間。
悟天の視線の先を辿れば、畑仕事に出掛けたはずの悟空がいた。

しかしいつもと様子が違う。



「 悟空さ?! 」

「 ねぇ、突然あんなになっちゃったんだ。」



畑仕事をする際、身に纏う作業着。
しかしあれが悟空というには程遠い姿だった。
髪の毛は界王神様のようにモヒカンで肌色も黄緑という血色悪い色だ。

今まで数知れず悟空の変身に驚く事はあったが、
ここまで別人になってしまうと、その変貌振りに戸惑わない訳がない。


悟天の腕からすり抜け、地上へ降り立つチチは悟空の顔をまじまじと見張る。

後ろ姿だけでは分からなかったが、顔のパーツ何もかもが違う。



「 なして?何があった?
おめぇ、本当に悟空さか?! 」

「 え、悟空だよ。オラ、本当に本当の悟空だ! 」



夫だと名乗るその声もまた悟空のものではない。
しかし口調と本人すらも慌てた様子が悟空そのものの仕草と一致した。


( これが…悟空さ… )


何があったのか全く分からない状況で、
この姿が悟空だと断定するのに仕草だけで判断していいものなのかチチにも検討が付かない。



「 孫悟空なのは心だけですがね。」



後ろから響く、夫本来の声音。
振り向いた先には、夫本来の姿があった。



「 悟空さ?! 」

「 お父さん? 」

「 おめぇ、オラの顔…。」



悟空本来の姿である謎の男と、
謎の男と成り果てた悟空だと言い張る人物を交互に見張る。



「 貴様には生きていてもらうと多少困るのでな。消去しに来た。」

「 …消去っ!? おめぇ、誰なんだ!! 」



低く笑う謎の男である悟空本来の人物。

しかしチチには分かった。
悟空達の様に常人からかけ離れた気というものを探ることは出来なくても長年過ごしてきた旦那の事だ。


悟天の手を引き、静かに謎の男の姿をした悟空の元へと一歩下がる。



「 悟空さ、知り合いだか? 」

「 いや、見た事ねぇけど、気が神の気って奴だ。」



小声の問い掛けに、静かに答える悟空。


やはり選択肢は間違っていなかった。

彼ならあんな厭らしい笑い方をしない。
消去なんて恐ろしい言葉、使ったりしない。
見た目は違くても、彼は謎の男の姿をしたほうだ。



「 私は第10宇宙の界王神、ザマス。人間でありながら最強と謳われる孫悟空の身体を入れ替えさせてもらった。」

「 入れ替えた…だと?! 」

「 そうだ、スーパードラゴンボールを使ってな。」

「 …チッ、あれか…。おめぇ、卑怯だぞ! 」



スーパードラゴンボールの存在はこの目で見たことがある為知っていた。
しかし悟空の身体を奪ってまで、悟空を狙うザマスと名乗った男の意図が読めない。

もっとも悟空本人はザマスの趣旨というよりも、
自分の体を奪われてしまった事が気に食わないのだろう。

それもその筈だ。
悟空の身体は幾度の歴戦をも乗り越えた最強までに極めた身体。
使い方や使う人が変われば、凶器にだって成り得る代物だ。


ギリッと悟空が奥歯を噛む音がかすかに聞こえた。

その姿をいい気味だとでも言いたげに見張るザマスは低い声でククッと笑う。



「 卑怯? 神は絶対なのだ!
その偉大な神々を超えた貴様が悪い、そうは思わんか? 」



ザマスは一歩一歩ゆっくりと歩みを進めてくる。
それはまるで死という恐怖を知らしめているかのようだ。

悟空は 舌打ちを放つと、チチと悟天を背後に隠すように前へと立ち塞がった。



「 悟天、母さんを連れてベジータんとこ行け。」

「 悟空さ?! 」

「 ダメだよ! アイツお父さんの身体持ってるんだよ!殺されちゃうよ!? 」

「 いいから言う事聞け、悟天!! 」

「 やだ!! 僕も戦うよ!! 」



涙ながらに訴える悟天。

冷静な悟空でも危機感を覚えたのか冷や汗が伝っていた。
しかしこんな状況下に置かれても悟空は決して怖気付く事なく、真っ直ぐにザマスを捉えている。



「 作戦会議は終わったか? 」



悟空の身体を手にしたザマスは、最強の強敵とも言えるだろう。
歩みを止めないザマスは、ナイフのように気を尖らせた。



「 ハハッ、やっべぇな、こりゃ…。」

「 悟空さ…。」

「 チチ、おめぇだけでもいいから、この事ベジータに伝えて来い。」

「 なして?! またおらを置いてく気だか?! 」

「 オラは大丈夫だ、死んだりしねぇ。」

「 あの時もそう言ってただ!んだに…おめぇはっ!! 」



“ 帰ってこなかったでねぇか!! ”
その言葉は切羽詰まって、声になることは叶わなかった。

ザマスを捉えて離さなかった悟空は、一瞬 チチの方を見て、柔らかく微笑んだ。


反則だと思う。
彼はいつもそうだ。

肝心な言葉は絶対に心に留めたまま、はぐらかすように笑うのだ。

とても優しく。
とても悲しそうに。

セルゲーム戦前、夫婦二人きりで過ごした日々もそうだった。



「 ザマス!! チチと悟天に手出してみろ!! ぶっ殺してやるからな!! 」

「 ほぅ、よくその格好で言えるな? 」



そう言ったのとほぼ同時だったと思う。
悟空は身構えるより先にチチと悟天へと手を翳し気合いで吹き飛ばした。



「 きゃっ! 」

「 んわっ! 」



吹き飛ばされた勢いで芝生へと転がるチチと悟天。
体制を整えて見遣った先は悟空の姿。


常人を超えたそのスピードを、チチに捉えることは不可能だった。
ただ風が横を通り過ぎて行っただけ。

けれど、その次に見たものは残酷なまでに現実を見せられた。

そんな気がした。



「 悟空さっ?! 」

「 お父さん!!! 」



チチと悟天を吹き飛ばす事に集中し、隙を与えてしまった悟空の腹の急所を何の躊躇もせず、貫いたザマス。

ドサッと力なしに芝生へ倒れ込む悟空は吐血し、ピクリとも動かなくなった。


愛しい人が目の前で殺されるのは初めての事。
息が止まる様でいて、血が逆流する様だった。

無力とはこの事だろう。

宇宙最強だと言われた悟空の身体を持ったザマスの前では。
その瞬間さえ、捉えることはできなかった。



「 さぁて、次は お前たちの番だ 」



チチと悟天の方へ振り返るザマスの顔には悪びれた様子など皆無だ。

貫く際に吹き飛んだろう。
ザマスの服には悟空の血吹雪が色濃く残されていた。


悟天を抱き締めていたチチは、悟天と向き合うようにして、肩を掴む。

まだまだ幼い次男坊には酷なことだったのだろう。
涙を流すまいとする悟天の瞳には、溢れんばかりの水の膜が張っていた。



「 いいか、悟天、おっ母の言う事聞けるな? 」

「 …うん。」

「 おっ父の言う事は聞いてたな? 」

「 うん。」

「 よし、偉い子だべ。
悟空さの言ったようにベジータさにこの事伝えて来るだ。」



子供を言い聞かせるよう、そっと頭を撫でるチチ。


必死だった。

悟天の前では母親でいなければならない。
しかし愛する者が目の前で殺されてしまったのだ。

しかもなす術なしで。

泣きたくないわけがない。
大声で泣き叫んで、彼を殺した奴を許して置きたくない。

けれど、今は悟天の傍にいる以上、母親が取り乱しては子供である悟天は混乱してしまう。



「 でもそんな事をしたらお母さんが…。」

「 大丈夫だ、もし死んじまってもドラゴンボールがあるべ?
あれでおっ母とおっ父を生き返らせてくれればええだ。」



昔に聞いたことがある。
地球のドラゴンボールは一度生き返った者は生き返らせることが出来ないのだと。
そのせいでセルとの戦いで死んだ悟空も生き返れなかったのだと。

だからもし死んでしまえば、それは最期を意味する。

悟天がその事実を知らない事を利用してしまった。


( ごめんな。)


嘘吐きだと、
最低だと呼ばれても良いから、
こんなに幼い息子をここで見殺しにするよりはよっぽどいい選択肢だと思う。



「 うん…。」

「 いい子だ、超サイヤ人になって全速力で飛ばすだぞ?
おめぇは悟空さとおらの息子だ、強い子だから大丈夫だべ。」

「 わかった、僕 頑張るよ! 」



水の膜を張った目をゴシゴシと拭う悟天は、ハッと気合いを入れ、超サイヤ人へと化した。

息子ながらに凄いパワーだと思う。
気を感じ取れないチチにですら肌を刺すエネルギーを感じる。



「 ほぅ、やる気になったのか? 」

「 おい!ザマス!! 」



キッと睨みを利かせる悟天は怒りに満ちているようだった。

無論、ザマスは恐れる事なく、寧ろ余裕の笑みで笑っている。
その手には悟空を手に掛けた時同様、ナイフのように気を尖らせていた。



「 なんだ? 」

「 僕は絶対 お前を許さないからな! 」

「 いいだろう、では行くぞ 」



それを合図にザマスは気で纏ったナイフを振り翳してくる。
悟天は寸の所でその攻撃を宙返りして交わし、西の都方面へと飛んで行った。



「 チッ、逃すか!馬鹿が! 」



瞬間移動の構えを取るザマス。
空かさず、ザマスの前に立ち塞がるチチ。



「 待つだ! 」

「 チッ、貴様か。」

「 おめぇの相手はおらだ! よくも悟空さを殺してくれただな! 」



ただ平和に平凡にと願っていた。
それだけなのにこうも残酷に幸福な日々を一瞬にして奪った最低最悪な敵。

チチはザマスを見上げるような形でキッと睨みを利かせた。



「 フンッ、お前に何が出来ると言うのだ? 」

「 何もしねぇだよ! さっさと殺せ! 」



勝てない事なんて分かりきっている。
目で捉えることができない者とはなから戦う気など無い。

あまりの威勢の良さにザマスも驚いたのだろう。
目を丸くした後、ククッと笑って見せた。



「 貴様、死ぬのが怖くないのか? 」

「 あったりめぇだ!
おめぇみてぇに死ぬのが怖いなんて思った事 一度もねぇだ! 」

「 ほぅ 」

「 おめぇさは最低だべ!…悟空さを、おらの悟空さを殺すなんてっ! 」



ザマスの後ろに倒れる悟空の姿を見ては、今まで抑え込んでいた涙が一気に溢れ出した。


悟天の前では母親であり続けた。
しかし、今は母親の姿ではない。

彼の妻として、
愛する者を殺された、怒りと悲しみしか持たぬ女だ。


溢れんばかりの怒りにチチはあの世への土産とし、平手打ちの一発でも喰らわせようと平手を振り翳した。

しかしそれはザマスの頬に当たる事なく、
ザマスの手によって、手首を掴まれ阻止される。



「 …っ! 」



手首から嫌な音がした。
きっと砕けたのだろう。

激しい痛みが襲うと同時に重力に逆らう事なく、手首は妙な方向へと向いた。



「 威勢だけはいいようだな。」

「 …っ 」

「 流石 宇宙最強の孫悟空が妻にしただけのことはあるな。」



ザマスによって掴まれた手首は離されることはない。
寧ろザマスが握る手には徐々に力が入り、更に砕けていく音が鳴る。



「 だがお喋りの時間はもう終わりだ。
望み通り、お前から殺してやろう、次はお前の息子だ。」

「 悟天ちゃんに手出したら許さねぇだ。」

「 フフッ、あの世で見るがいいさ、己の無力さを。」



その言葉とほぼ同時。
腹部へと手を翳され、ブチブチッと気で纏うナイフが徐々に刺さっていくのを感じた。

痛みなんて感じる間もない程、意識が遠退いていく。


やがて手首を解放されたチチは、芝生へと倒れ込んだ。
もうそこにザマスの姿はない。

既に痛みすらも感じる事の出来ない身体で辺りを見渡し、悟空の元へとほふく前進。



「 …ごく……さ 」



傷口が急所間際である上に 片手でほふく前進をしたせいで、
彼を呼ぶ名ですら微かに途切れ途切れになってしまう。

最後の力を振り絞り、悟空の手を握った。
大好きだった温もりは皆無だといっていい程、最後に握った手は冷たい。

チチはそっと瞳を閉じながら一つ涙を零した。



今、そっちの世界に行くだよ。
だから 迎えに来てけろな、悟空さ。



その想いは声になる事なく、チチの心臓は波打つ事を止めた。














真っ白な空間。
苦痛から解放された 何もない世界。

以前死んだ時もこんな感じだったな。

身体も心も軽くて、まるで自分自身が浮遊物体であるかのような感覚。
以前と異なるのは なぜか暖かいものに包まれていた、そんな感覚が身体に残っていた。


あの長い長蛇の列にまた並ばなきゃいけないのか。


そんな事を思いながら、ゆっくりと目を開ける。

そこは 芝生の上だった。



「 うぅ…ッ 」



あり得ない程の重みが身体中に伸し掛かる。
立っている事すらままならないチチはその場へと手をつきしゃがみ込んだ。

以前と違うのは、あの長蛇の列もなく、閻魔様もいない。
そして果てしない重力が身体に伸し掛かっているという事。

だがあの世だと悟ったのは、前回死んだ時同様、ピンク色の空だった事だ。



「 …チチ、」



朝見送ったばかりだというのに、
どこか懐かしく感じる優しい声の主。

ふわっと背中から抱き締められた。
それは懐かしく感じる大好きな人の温もり。
そして大好きな人のお日様の香り。

間違えるはずなんてない。



「 悟空さけ? 」



重力によって振り返ることは出来ないけれど、それは確かに夫である悟空のもの。
視界に見える抱き締められた腕も彼そのものの鍛え上げられた優しい腕。



「 守れなくて すまねぇ。」

「 いいだよ。それより 悟空さ、身体どうしたんだべ? 」

「 界王様がくれたんだ、オラは何回も地球や宇宙を救ったからって特別に戻してもらった。」

「 そうけ、それじゃザマスって言うのは元の身体に戻っただか? 」

「 …んや、アイツもオラの身体のままだ。」

「 そうけ、それは残念だっただな。」



悟空は抱き締める事をやめない。
それ所か、抱き締める腕の強さを増してくるだけ。



「 悟空さ、なしただ? おら動けねぇから離してほしいだよ。」

「 すまねぇ、オラ…。」



鼻を啜る音がした。
ジワリッと背中の服越しに染み渡る 温かい水。

チチは半端無理矢理に重た過ぎる自分の手を悟空の腕の上へ置き、撫でる。



「 なぁ、悟空さ。」

「 ん? 」

「 おら、幸せだべ。」

「 なんで? 」

「 だって、初めてだもんな。悟空さの後追ってこれたの。」



彼が居るなら、死ぬのなんて怖くなかった。

一人で死んでしまうのは多少怖いかもしれない。
けど彼が居る世界ならあの世だろうと地球だろうと何処だって厭いはしない。



「 おらな、悟空さがいねぇ世界で生きるくらいなら、死んででもおめぇと居た方が幸せなんだべ。」

「 ……チチ、」

「 悟空さは強ぇ奴と戦えなくなるからあの世だと窮屈かもしんねぇけどな 」



その言葉でクルッと反転させられ、悟空と向き合う形になる。


あぁ、悟空さだ。

その瞳は先ほどまで泣いていたのだろう。
鼻先と目元がほんのり赤く染まっていた。

彼はこう見えて、泣き虫なのだ。



「 チチ、オラおめぇと一緒にいられんなら強ぇ奴と戦えなくてもいいぞ!
界王様の飯、あんま美味くねぇからチチに作ってもらえたらあの世もいい所だしな! 」

「 悟空さ!! またおらの飯か!! 」

「 ハハッ、まぁいいじゃねぇか! 」

「 お主ら、聞こえてあるぞ!わしの飯がまずいとはなんじゃ! 」

「 あっ、やべ、チチ立てるか? 」



そう目の前に差し出される手。
掴みたくても身体の重みが邪魔をして、彼の手を取ることができない。



「 あはは、こりゃ修行しねぇとダメそうだな 」

「 ど、どうなってんだべっ! この星 おかしくねぇだか? 」

「 ここは地球の確か…10倍?の重力があっからな 」



そういう悟空は全くもって、
重力が地球と変わらないとでも言うかのように身軽だ。

溜息をつく暇もなく、フワッと宙を浮く。

そこは悟空の腕の中だ。
真っ白な空間にいた時と同じ暖かい感覚。


( そっか、迎えに来てくれただな。)


それが嬉しくて、
抱き締めたいところだが、
今はこの強力な重力のせいでできるはずもない。

チチはちょこんっと悟空の胸元の服を握り、頭を逞しい胸元に預けた。



「 飯食って閻魔のおっちゃんとこ行ったら、オラと修行しような! 」

「 んだな、おらここじゃまともに動けねぇだ 」

「 違ぇねぇ 」



ハハッと笑う悟空は死した人間には思えない程の笑顔だ。
その笑顔に釣られて チチもまた微笑む。

彼となら、あの世も悪い世界じゃない。



「 界王様、オラの嫁のチチだ! ちょっくらここに住んでもいいか? 」

「 孫悟空の嫁のチチですだ。」

「 わしは界王じゃ。住むのは構わんがお主らで家を建てて住むんじゃぞ!! 」

「 いぃ!!そんな面倒な事しなきゃなんねぇのか? 」

「 ここはわしの家じゃ!お主らでイチャイチャされても堪ったもんじゃないわい! 」



賑やかな生活が始まる予感。
それは新婚時代を思い出す、ときめきにも似た感覚。


近くして、事態を把握したビルスとウイスの手によって生き返されてしまうのは、また別のお話。










これはバッドエンドだと誰が評しても、
私にとってはハッピーエンドなのだと胸を張って言えるだろう。

だって、私の幸せは彼なのだから。
彼の存在こそが私の幸せの証。







Happy End
〜 君がいないハッピーエンドよりも君と最期を迎えるバッドエンドを 〜






2018.0




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