― 籠の中の鳥 ―
〜 鳥籠から翔く時。〜










謎に包まれた彼の正体。

嘘を吐いていたわけではない。
ただ隠しているだけ。

それでも全てを知りたかった想いは心を見事に打ち砕いた。










悟空さへ


悟空さへは本当のこと話そうと思うだよ。
この事はおらのおっ父、孫悟飯さん、武天老師様には内緒にしてけれな。
おら、修行の旅に出るって言ったけど本当は違うだ。
優しいおじさんがな、おっ父の借金をなくす代わりに手伝ってほしい仕事があるんだと。
内容はよくわかんねぇけど、借金がなくなれば楽に暮らせると思うだ。
ちっとばかし行ってくるけど、大変そうだったりあまりにも長い期間ならおら戻ってくるから待っててけろな。
んで悟空さが結婚できる18になったらおらをお嫁に迎えてけろ。
またね。


チチより





悟空へ綴られた手紙は、そう書かれていた。

同姓同名の全く違う別人が悟空へ送ったのかも考えた。
けれど幼い頃に書いたと思われる字体はまさに昔の自分と変わらない。
方言訛りも自分自身そのものだった。
それを考慮した結果、同姓同名の全く違う別人とは考え難い。


優しいおじさんとやらに言葉巧みに騙され、屋敷に連れて来られたのだろうか。
父はまだいいとして、孫悟飯さんや、武天老師様とは一体、誰なのだろうか。
父の借金返済の為に自分の意思でついてきたはいいものの借金はどうなったのだろうか。
彼は手紙に書いてある婚約に義務感を感じて将来を誓ってくれたのだろうか。


疑問は膨れる一途を辿り、何も解決はしてくれなかった。

お伽話の様に、窮地に立たされたからといって、記憶が蘇るなどという奇跡は起こる筈もない。
それが現実であり、当たり前なのだ。




そうして一週間の月日があっという間に流れた時。

宴が終わった時刻22時。
会場からは客人が次々と出て行く。

チチは呆然といつもの光景を目にしていれば、人々の波を逆らう様にやってくる男。

見間違える筈なんてない。


直帰してくれたのだろうか、ボロボロの道着。
肩口から橙色の道着は破れ、青のインナーが覗いていた。
顔や腕、脚には切り傷や擦り傷が無数に広がっていて痛々しい。

それでも無事に帰ってきてくれたのだ。


気が付いたら目もくれず、一直線に走っていた。

時折、裾を踏みそうになり、転けそうになるのを耐えながら。
ただ一点を見つめ、駆けた先。



「 悟空さっ!! 」

「 チチ!! 」



人目も気にする事なく、抱き合った二人。
悟空の存在を確かめる様に、チチは力一杯に抱き締めた。

彼の太陽の様な優しい香り、温かい体温、厚い胸板。

本当に帰ってきてくれた。
ひたすらに無事を祈り待ちぼうけする苦痛の日々は終わった。


どちらからともなく、身体を離した悟空とチチ。

悟空ははにかみ笑いながら。
チチは嬉しさに涙ぐみながら笑った。



「 おかえり、悟空さっ 」

「 ただいま、チチ。」

「 チチ、孫悟空様、どうかお部屋で。」



念願の再会を割って入ってきたのは、女将だ。

それも当然な事だろう。
ここは宴の場の真ん前。

事情を知らない女将からしたらチチの客に目が付き、指名が取れなくなれば大損だ。


革のトランクケースを持った悟空はチチの手を引いた。
自室までの廊下を早足で歩き、襖を開ければ、ベッドへと腰掛ける悟空とチチ。

僅かな沈黙を破り、先に口を開いたのはチチだ。


聞かなければならない。
手紙の真相を。



「 悟空さ、おら聞きてぇ事あるだよ。」

「 なんだ? 」

「 これ…悟空さのだべ? 」



ベッドの小棚から取り出す一枚の手紙。

それを見た悟空は一瞬で顔色を変えた。
懐を触り、手紙がない事を確認した様子だ。



「 ……なんでおめぇが持ってんだ? 」

「 落っこちてたから拾っただよ。」



何気なしに拾った一枚の紙。

最初はゴミなのかとさえ思った。
それ程にしわくちゃで年季が入った紙なのだ。



「 中身、見たんか? 」

「 んだ、確認の為に見たら、おらから宛てた悟空さへの手紙だっただ。」



綴られた手紙の内容は一言一句覚えている。
それ程、何度も見入った手紙なのだ。

お互い真剣な眼差しを向け、見つめ合った所で悟空が脱力した様にふぅ、と一息吐く。



「 そっか。」



ぼやく様に呟かれた静かな頷き声。



「 どっから聞きてぇ? 」

「 悟空さが知ってる事 全部だ。」

「 ……… あれはな、オラ達が12の時だ。」



悟空は過去を懐かしむ様に語り出した。





悟空の育ての親、孫悟飯に山奥から連れ出されたのは、山の麓町。
ポツンポツンと一軒一軒離れた家屋が置かれた、店などはない田舎町だ。

その中でも二軒、立ち並ぶ様にして建てられた家の前には。

黒いメガネを掛けた老人。
巨体な身体を持つ男。
巨体な男の裏に隠れる様にして顔だけ覗かせる青の道着を纏った小さな女の子。



『 孫悟飯さん、お久し振りですだっ! 』

『 悟飯、ようきたな。』

『 お久し振りです、武天老師様、牛魔王。そしてチチじゃったかな? 』

『 んだ!こんにちわですだ 』



どうやら、黒ずくめのメガネを掛けた老人が武天老師。
巨体な身体を持つ男が牛魔王。
影に隠れている小さな女の子がチチのようだ。

続け様に、牛魔王、武天老師、孫悟飯、チチが挨拶をする中、悟空はきょとんとその光景を眺めていた。

僅かな沈黙の中、孫悟飯の手によって頭を小突かれたのは悟空。



『 いてっ! 』

『 これ! 挨拶せんか! 』



孫悟飯は礼儀に対しては、人一倍厳しい。

沈黙の理由を納得できた悟空は、
孫悟飯に教わった通り、頭をペコリッと下げた後。



『 オラ、孫悟空…です? 』



これで合っていただろうか。
どうも慣れない敬語とやらを使うのは難しいもので語尾は疑問符になってしまった。

孫悟飯の手が出てこないという事は取り敢えず合っていたのだろう。

顔を上げた悟空は、武天老師と目があった。



『 その子は、悟飯の子か? 』



武天老師はじっと悟空を見つめたまま、孫悟飯に尋ねる。

何をそんなに見詰めるのか。
それはよく分からないまま、孫悟飯は悟空の肩に手を置いた。



『 実は赤ん坊の頃に山で捨てられておりましてな。
それで私が育てておるのです。歳はチチと同い年ですじゃ。』

『 ほう、随分腕が立つように見えるが鍛えておるのか? 』

『 流石、武天老師様、実はその事で用がありまして。
どうか私に変わって、もっと悟空を強くしてやっては頂けませぬか? 』



武天老師が悟空を見張っていた理由が分かった。
きっと内に秘めたるパワーでも見定めていたのだろう。

悟空は必死に頭をフル回転させ、状況を飲み込む。



『 なぁ、じっちゃん! このじっちゃんが稽古つけてくれるんか? 』



悟空は武天老師を指差し、孫悟飯を見て尋ねた。
しかし再び頭を小突かれる悟空は、痛そうに頭を抱える。



『 悟空!! 目上の人に向かって指差しするんじゃない! 』

『 いってぇな〜! そんな叩かなくたっていいだろっ! 』



その光景を見兼ねたチチは一人、クスクスと笑い出した。
それに釣られるようにして、牛魔王、武天老師も声を上げて笑い出す。

笑い者にされた悟空は頬を膨らますも、目の前にやってきたのは隠れていたチチだ。



『 なぁ、悟空さ! おらと遊ぶべっ? 』

『 遊ぶ? 』

『 んだっ!おっ父も武天老師様も悟飯さんもいいべっ? 』



天真爛漫で好奇心旺盛な彼女。
皆に振り向いて許可を取る様は紅一点でお姫様のような扱いなのだろう。



『 いいだろう。教育も兼ねてわしが稽古をつけてやるわい。』

『 本当かっ! 』

『 ちょうどチチも稽古をつけていてな、丁度いい相手ができたわい。』



修行が大好きな悟空にとっては嬉しい言葉だ。
チチもまたそれは一緒なようで満面の笑みを浮かべていた。



『 んだっ!おら 悟空さ、一緒に修行するだっ! 』

『 おうっ!! 』



チチもまた腕が立つのかと思うと、ドキドキした。
これから待ち受けるであろう修行が楽しみだ。



『 まぁ、今は二人で遊んでくるといい。
わしらは家でゆっくり茶でも飲むか。』

『 チチ、気いつけるだぞ! 』

『 悟空、チチは女の子なんじゃ。ちゃんと守るんじゃぞ! 』



牛魔王に続き孫悟飯が心配の声を上げた。
しかし大人達の心配の声をよそに、チチは悟空の手を取って走り出す。

山の麓とはいえ、周りは森林に囲まれた深い山々だ。



『 お、おい、チチっ!そんな深いとこいったら危ねぇぞっ! 』

『 大丈夫だべっ!ここはおらの庭みてぇなもんだ! 』



そう駆けていくチチの手は温かく。
悟空は渋々、離すことなく彼女の指示に従った。


間もなくして、仲が良くなったチチと悟空。

翌日から武天老師の教えで、チチと修行の日々が始まった。
武道だけではなく、常識や学力勉強、他にも手話や遊びではしゃぐ毎日。
絆は深くなる一方でお互いにとってなくてはならない存在に変わっていった。





それから約一年という年月が過ぎ去ったある日。
今日もまた、修行に明け暮れていた。



『 休憩じゃっ! 』



いつもより早めの休憩の合図。
それぞれ行なっていたトレーニングを中断し、武天老師の前に駆け寄った。

初夏で激しい修行なだけあって、汗だくなのは悟空もチチも変わらない。



『 頑張ってる褒美にお主達へいいものをやろう! 』

『 いいもの? 』

『 なんだべ? 』



悟空とチチ、二人して顔を見合わせ疑問を抱いた。
武天老師は“ 筋斗雲 ” と大声で空に叫ぶ。

程なくして空からやってきたのは金色に輝くふわふわと浮いた雲。



『 なんだ、これ? 』

『 これは神様から頂いた有難い雲じゃ。』

『 やっぱり武天老師様はすげぇだな! 』

『 じっちゃん一つだけか? 』



単純に疑問を尋ねただけなのに、武天老師の杖で頭を小突かれた。
“ いってぇ ” と叩かれた頭を摩る悟空。



『 これ悟空!欲張るでないぞい!
お主は男なんだからチチを守って飛ぶのじゃ! 』

『 や、やんだ〜っ! 』

『 この雲、飛べるんか? 』

『 そうだ、心に念じた通りに飛ぶのだ。』

『 ……へぇ、』



照れるチチをよそにぷよぷよと雲の感触を確かめる悟空。

どうやら雲に乗ることは出来そうだ。
半信半疑な悟空はひょいっと地を蹴ると雲の上へ降り立った。



『 おっ、乗れた!チチも来いよっ! 』

『 んだっ! 』



足元をトントンと足踏みし確認した悟空。
安心した後、チチを誘う悟空は、彼女に向け、手を差し伸べた。

また頬を染めるチチに忙しねぇなぁなんて思いつつ、引っ張り上げる悟空。

感心したように頷いた武天老師は喉を鳴らした。



『 さすがじゃな、その雲は清き者しか乗れんのじゃよ 』

『 きよき…もの? 』

『 心が綺麗ってことだべっ! 』



嬉々とはしゃぐチチはふわふわな雲を包むように触る。

へぇ、と述べた悟空は、高く上がれ、と心の中で念じた。
思い通りに高く舞い上がる雲はあっという間に空の上で、武天老師が小さく見える。



『 ひゃぁあ〜!こりゃすげーや!!! 』

『 これ悟空!チチを振り落とすんじゃないぞっ!! 』



武天老師の忠告の言葉に、チチを見遣った悟空。
怖そうに震えるチチの身体があった。

自分の心配をよそに森林を駆け巡った強気な彼女とは思えない程に。

チチに背を向け、胡座を掻く悟空。



『 ほら、大丈夫だって。オラに掴まっとけ。』

『 …んだな! 』



強く頷いた様子の彼女は、悟空の腰へと腕を巻き付けた。
彼女の腕の温もりを確認した後、遥か地上にいる武天老師を覗き込むようにして見下ろす。



『 じっちゃーん! オラ、ちょっくらその辺回ってくるなー!! 』

『 一時間後に修行再開じゃ!それまでに戻ってくるんじゃぞい! 』

『 おう!! 』



大声で頷いた悟空は、ゆっくり走れと心で念じる。

念じた通りに行動する雲は、とても快適だ。
世の中に空を飛べるものがあるなんて、心底 感心してしまう。

空中で見る景色はまた地上で見る光景とはまるで違った。
恐怖感は皆無であり、寧ろ肌を撫でる風が汗を乾かしてくれるようで心地が良い。



『 チチ、怖ぇか? 』

『 ちっとな。でも悟空さがいるから大丈夫だべ! 』



風の音が鼓膜を刺激する為、双方声を張って会話する。

森林を抜けた先には、花畑が広がっていた。
呆然とその光景を見下ろしていたが、グイッと服を引っ張るのは彼女だ。



『 悟空さっ! あそこ降りるべっ! 』

『 あ? あぁ。』



はっきり言って、花に興味はない。

だが指差しはしゃぐ彼女を見るのは悪くない。
それに逆らえば恐ろしい鉄拳が降ってきそうな予感もした。

悟空は花畑の中心に旋回して降下する。



『 うわぁ!綺麗だぁあっ!! 』



感激するチチは悟空に目もくれず、大きな花畑に夢中だ。

ふと周りを見渡せば、林檎を身に成す大樹が一つ根を張っていた。
猿のように軽々と木に登った悟空は林檎を三つ手に取り、一つは懐へ、二つは片手で持ち、チチの元へ駆け寄る。



『 これ、食うか? 』



花に夢中なチチをよそに、目の前へ林檎を差し出した悟空。
やっと悟空に向けられたチチの顔は、とても嬉しそうだ。



『 悟空さっ!ありがとうだ!! 』

『 おう 』



嬉々とした満面の笑みを浮かべるチチは林檎を両手で受け取った。
なかなか照れ臭い悟空は胡座を掻き座り込むと、照れ隠しのように林檎へ齧り付く。



『 悟空さ、これお返しだべっ! 』

『 ん? 』



伸びてきた手は、頭に何かを乗せられた。
よく見ると、花を編んで輪にした花冠だ。

クスクスッと声を上げて笑うチチに赤面した悟空。



『 悟空さ、すっごく似合ってて可愛いだよ。』

『 男が可愛いって言われても嬉しくねぇぞ。』



ポイッと芯だけになってしまった林檎を投げ捨てた悟空。
花冠を頭上から取れば、チチの頭にひょいっと乗せた。


( あっ、似合う。)


まるでどこかの国のお姫様のようだ。
桜色に色付いたチチを見つめ、ニカッと白い歯を見せ笑う悟空。



『 おめぇの方が似合ってっぞ! 』

『 ふふっ、おら可愛いだか? 』

『 おう。…可愛い、ぞ? 』



唐突に出てきた言葉は自分でも驚く程素直な回答だった為、語尾は照れ臭くなり小声だった。

花冠を頭に乗せたまま、身を乗り出してきたチチ。
急接近するチチの顔に思わず身を引いてしまい、後退する悟空。



『 なぁなぁ、悟空さっ! 』

『 な、なんだよ。』

『 悟空さが大人になったら、おらを嫁にもらってくんろ? 』



はて、嫁とはなんだろうか。
食べ物だろうか。

悟空は首を捻り、悩んだ末、元の体制に戻った。



『 …嫁ってなんだ? 』

『 んー、一緒に暮らして、家庭を築いていくだよ! 』

『 へぇ、オラでいいなら構わねぇよ。』



パァッと花が咲いたように満面の笑みを浮かべたチチは頬を染めていた。

顔が近づいて来て、頬に何かが触れる。
柔らかくて温かい。

その正体が唇だと言うことに気付くまで、然程時間は掛からなかった。



『 なんだ、それ? 』

『 誓いのキスだべ。大人になったら悟空さからプロポーズしてけろな! 』

『 あぁ、だったらオラも誓うぞっ! 』



彼女の行動を真似て、頬目掛けて唇を押し当てた。

想像していたものとは遥かに違う感触。
自分よりも赤い頬は、自分のものとは比べ物にならない程 弾力があり柔らかかった。

羞恥を覚えた悟空の胸は、トクンッと一つ、大きく波打つ。


女は守れ。大事にしろ。
そう言った孫悟飯や武天老師の言葉を初めて理解出来たような気がした。



それから翌日の事だった。

いつもの様に修行の為、孫悟飯を山に残し、麓まで降りてきた悟空。
だがそこにいつも通りの光景は、存在しなかった。


何やら慌てた様子の武天老師と牛魔王の姿。
チチの姿は見当たらなかった。

訳も分からないのに嫌な予感を感じ取った悟空は冷や汗が背を伝う。



『 な、なぁ、なんかあったんか? 』

『 あ、悟空! 』



悟空の元に駆け足で近寄ってきたのは、牛魔王だ。
立ち尽くす武天老師の様子は苦虫を噛み潰したような重苦しい表情だった。

とりあえず目の前にいる牛魔王を見上げる悟空。



『 なんかあったんか? チチは? 』

『 それが…チチについてなんだべさ。』

『 なんだ? 』

『 オラが朝起きた時にこれがあっただよ。』



落胆する牛魔王の手から差し出されたのは、二枚の手紙。
一つは既に開封済みで、なにやら書かれていた。


“ おら、修行の旅に出るだ。
ちっとばかし世界を見て知って、帰ってくるから心配しねぇで。
悟空さに宛てた手紙は悟空さだけで見るように言ってけろ。”


綴られたチチの文字。
驚愕した悟空は牛魔王の手中から手紙を引っ手繰る。
何度も目を通し、一語一句確認したが、見間違いではない。



『 な…んだよ、これ。』

『 チチが出て行っちまっただよ。オラもその手紙以外の事はなんも知らなくてな。
家の周りやご近所さんにも訪ねたんだが見た人は居ねぇみてぇで。』



牛魔王の言葉に、絶句してしまう。

何故、旅をするなら相談の一つもしてくれなかったのだろう。
たった一人で行かず、自分も誘ってくれたらいいではないか。
今から追って探しても間に合うんじゃないか。

悟空は必死に脳内をフル回転させ、考えた。



『 悟空、もう一枚の手紙なんだが、それはおめぇ宛だ。』

『 ……えっ? 』

『 オラはまだ見てねぇ。見てくるといいだよ。』



そう言っては、一人、武天老師の方へ去っていく牛魔王。
心なしか巨体の筈の牛魔王の背中は小さく見えた。

見届けた後、即座に森林へと全力疾走した悟空。

僅かに震える手で、破ってしまわぬ様、慎重に手紙を開けた。



悟空さへ

悟空さへは本当のこと話そうと思うだよ。
この事はおらのおっ父、孫悟飯さん、武天老師様には内緒にしてけれな。
おら、修行の旅に出るって言ったけど本当は違うだ。
優しいおじさんがな、おっ父の借金をなくす代わりに手伝ってほしい仕事があるんだと。
内容はよくわかんねぇけど、借金がなくなれば楽に暮らせると思うだ。
ちっとばかし行ってくるけど、大変そうだったりあまりにも長い期間ならおら戻ってくるから待っててけろな。
んで悟空さが結婚できる18になったらおらをお嫁に迎えてけろ。
またね。

チチより


一語一句、見落としがない様、読み終えた悟空。
無性に腹が立ち、その場で手紙をくしゃくしゃに丸めた。


何故、一人で抱え込んで行ってしまったのか。
何故、相談さえもしてくれなかったのか。

昨日まで一緒にいたのに。
二人きりの時間だって沢山あった筈なのに。



『 なんでなんだよ!チチッ!!! 』



大声を張り上げた悟空の声は、森林に響き渡る様、虚しく木霊する。


丸めた手紙を拳に握り締め、空に振り上げた。
けれど、それ以上は何も出来なかった。

投げ捨てる事も、破り捨てる事さえも。


ただ独り、虚しく佇む悟空は、投げ捨てる事を止め、肩を落とした。


彼女へ抱く想いの名は分からない。

ただ苦しかった。
ただ悲しかった。
ただ寂しかった。

今まで一緒にいて、一緒に居ることが当たり前だと思ってた。
これからも変わらず、ずっと笑い合っていけると思っていた。
それが何も言わず、忽然と姿を消した彼女。

当たり前なんてものは存在しなかったのだ。

初めて大事な物を失った喪失感は計り知れないもので。
鼻の奥がツンッとする感覚に身震いした悟空は、目の水を流さない様、空を見上げる。



( 待っててやるから、早く帰って来い。)



懐に手紙をしまった悟空は、覚悟を決めた様に、晴々とした清々しい気分だ。



それからの日々は一人の修行が始まった。

最初は彼女がいない事に苦労した。
ふとした時に彼女の名を呼んだり、隣を見てしまったり。
何かと思い出す時間は多く、その度に苦痛を催した。

だが、武天老師の元に弟子入りしたいと志願してきたクリリンに心は救われた。
男同士という事もあって、それはそれで気を遣わず快適なものだった。
時にライバル、時に親友という、かけがえのない存在が増えたのだ。

しかし、ふとした時、風呂に浸かりながら尋ねた事がある。



『 クリリンはオラの前から居なくなったりしねぇよな? 』



チチを思うと、また失ってしまうのではないかという焦燥感に駆られた。
当たり前は果たしていつまで続いてくれるのか。

そんな想いから尋ねた悟空の言葉をケラケラと笑い飛ばしたクリリン。



『 当たり前だろ。お前こそ逃げんなよなっ! 』



その言葉はいつしか計り知れない支えとなっていた。

それからチチを思う日々は格段と減った。
思い出さない日常も普通になった、18歳成り立ての時。



“ 悟空さが結婚できる18になったらおらをお嫁に迎えてけろな。”



夢に出てきた、手紙の一文。
ハッとして起床した悟空は、棚へ大事に取っておいた手紙を久々に取り出した。
年数も経過したからか、年季が入り、黄ばみ始めている手紙。

久方振りに開ける手紙を、再び読み返した悟空。



『 長い期間なら帰ってくるっつったろ。オラ、もう待てねぇよ。』



独り言ちに言い放った悟空は懐に手紙をしまう。

早朝にも関わらず、家を飛び出した。
孫悟飯に呼び止められたが決断した意思は頑なだ。
足を止める時間すらも惜しく、孫悟飯へ振り向き様に手を振る。



『 オラ、旅に出っから暫く帰れそうにねぇ! 』



山の麓にある武天老師の家へノックもなしにバンッと開け放つ悟空。

武天老師もクリリンも起床していて、朝食作りの途中のようだった。
腹は減っていたが、今は食事をしている暇さえ惜しい。



『 クリリン、旅に出っぞ! 』

『 はぁ?何言ってんだ、悟空。』

『 いいから、早く!! じゃねぇと置いて行っちまうぞ! 』



早朝にも関わらず騒がしい悟空。

クリリンは武天老師を見つめ、まるでそれは救いの手を求める様な視線だ。
うむっと強く頷いた武天老師は、棚から小包を取り出し、悟空に手渡す。



『 ほれ、少しじゃが金を持ってけ。』

『 えっ? オラ、金なんて… 』

『 都会では金がなくては食って行けんぞ? 』

『 いぃ!それはまずいな。サンキューな! 』



胸に押し当てられた小包を礼を述べてから受け取る悟空。
その様子にクリリンは驚いているようだ。



『 む、武天老師様?! 』

『 お前もはよわしの手を離れて、悟空と一緒に行って来い!! 』

『 本気ですか?! 』

『 わしはいつでも本気じゃっ!! 』



クリリンの背を押す様に叩き出した武天老師。
はぁ…と一つ溜息を吐いたクリリンは元凶の主である悟空を恨めしそうに睨んだ。

一方、呑気にも気付く筈のない悟空。



『 さっさと行くぞ!荷物いらねぇだろ? 』

『 ま、まぁ…仕方ないから着いてってやるよ! 』



渋々といった棘のある言い方だが、悟空は気にしない。
寧ろクリリンが着いてきてくれるならなんだっていいのだ。


それから筋斗雲で旅立った悟空とクリリン。

筋斗雲に乗る事の出来ないクリリンは、悟空の背に抱えられていた。
程なくして初めて街に出た悟空と帰ってきてしまったクリリン。


腹が減っては戦は出来ぬと言う名言がある通り、
悟空とクリリンは街を散策しながら有り付けそうな食べ物を探していた時。
悟空は歩きながら、真実を話す事を決め、口を開いた。



『 なぁ、おめぇには話しておこうと思うんだけどさ、』

『 なんだ? 』

『 オラ、本当は旅なんてどうでもいいんだ。』

『 はぁ?! じゃあ何で連れてきたんだよ! 』



クリリンが声を荒げるのも無理はない。
渋々着いてきたというのに、嘘をつかれていたのだ。

怒鳴るクリリンをよそに悪びれた様子もなく、“ すまねぇ ”と笑って謝る悟空。



『 実はさ、ある女探しそうと思って、旅に出るって嘘吐いたんだ。』

『 女の子ってずっと前に言ってた牛魔王さんの娘さんか? 』

『 そうそう、チチと18になったら結婚するって約束したんだ。』

『 それで探しにきたのか? 』



クリリンの怒りは何処へやら。
すんなりと会話に乗ってくれた様子で聞き入ってくれた。



『 あぁ、どこで何してるか分かんねぇんだけど約束は約束だからな。』

『 そっか。見つかるといいな。』

『 おう。』

『 おっしゃ!それなら俺も手伝うぜ!俺、腕の立ついい情報屋知ってんだ!
そこならもしかしたら、情報探してくれるかもしれないしすぐには見つからなくてもその間、そこで働けば相当稼げるぜ!! 』

『 本当か!んじゃ腹拵えしたらすぐそこ向かうぞ! 』



意気投合してからは、話が早く上手い事進んだ。

情報屋を尋ねた悟空とクリリン。
記憶の中に住むチチの凡ゆる特徴を伝え、探し出すと言ってくれた。
そこへ一旦、就職する事も出来、武道だけは出来た二人にとって、仕事はお手の物。

仕事は週に一度の休みだったが、寮付きであり、
仕事内容も危険が付き纏う故、金払いも相当よくあっという間に使い切れない程の貯蓄も出来た。


そこへ舞い込んできた、一本の情報。



“ もしかしたら遊女屋敷の女かもしれない ”



遊女という単語は初めて聞いた為、何の事かはさっぱり分からない。
疑問を抱いた悟空は、聞いて後悔する内容だとも知らず、いつもの様に尋ねた。



『 遊女ってのは、身体売って商売する仕事だよ。
つまりどこの誰かも分からない客と一晩寝るって事だ。』



情報を持ってきた男の言葉に驚愕し声も出ない悟空。

すぐに聞かなければよかったと後悔した。
知らないままでいたかった。

まさかあんなに純粋で天真爛漫な彼女が他の男と寝てるなんて。

ショックなんて言葉では済まされない程、絶望の淵に立たされた。
何故そんな仕事をしているのかと怒りさえも感じた。



『 …悟空、会いに行ってやれ。』

『 でも彼奴はオラを裏切ったんだぞっ!! 』

『 違うっ!!! 』



クリリンは大声を張り上げ、思い切り否定した。
グッと握り締める拳は血が滲む程、強く震えていた悟空。

そんな悟空を見てか、クリリンは語りかける様に言葉を並べ始めた。



『 いいか、悟空。遊女の大半は人攫いにあった女の子達だ。
言葉で騙して女の子を連れてったり、無理矢理誘拐するんだよ。
遊女屋敷にやりたくてやってる人なんてほとんどいない。』

『 じゃあ…チチは、』

『 あぁ、きっと騙されたんだ。
牛魔王さんはあんなに質素に暮らしてた、借金なんてあったように思うか?
それに戻ってくるって言ってたんだろ?
それが戻って来なかったんだから、帰るに帰れない状況にあるんだと思う。』



クリリンの言葉は一つ一つ納得が出来た。
今まで結び付かなかった糸の先が全て手繰り寄せられる様に。

徐に立ち上がった悟空は、すぐ様、その遊女屋敷から取り返してやろうと決心した。

けれど、それは叶わなかった。
クリリンの手によって、悟空の手首を掴み止められたからだ。



『 なんだよ、居場所がわかったんだ。早く連れてこねぇと…。』

『 それが出来ないんだよ。』

『 ……なんで? 』



連れて来れないわけがない。

力だって兼ね備えている。
塀が高くとも筋斗雲が備わっている。
怖いものなんて何一つないのだ。



『 遊女屋敷は闇社会だ。
お前が今、考えてる事でチチさんを連れ出してみろ。
またお前がいない間にでも連れ去られるのがオチだぞ。
それに逃げた者は重い罰が課せられて、一生牢獄か処刑かだ。』

『 …… だったら、どうすりゃいいんだよっ! 』



悟空の悲痛にも似た叫び声は、広く部屋へ響き渡った。
クリリンすらも黙り込んでしまった。

何か解決策はないのか。

そう思った時、口を開いたのは先輩にあたる情報屋だ。



『 金だ、女は金で買える。』

『 …金か? 』

『 あぁ、だが途方もない程高額だ。
屋敷にもよるが、高いところだと1億5000万ゼニーだと聞いた事もある。』



最高価格で1億5000万。
確かに途方もない多額な金額だ。
しかし情報屋にとって、無理な金額ではない。

僅か一ヶ月足らずで、2000万に満たない程、稼いだのだ。



『 悟空、とりあえず会うだけ会って来い。
チチさんが元気かどうか、その目で確かめてくるのが今出来る唯一の事だ。』

『 あぁ、分かった。
クリリン、一つ頼まれてくんねぇかな? 』

『 なんだ? 』

『 上になるべくオラ達向きで手短に済みそうな、だけど報酬がいい仕事回す様に伝えてくんねぇ?
どんなに危険だろうと構わねぇからって。』



数をこなし、報酬が良ければ、短期間で集められる。

快く引き受けてくれたクリリン。
それを合図に悟空は常人では捉えきれない程の全力疾走で走り去った。



職務が暴露るのは上手くない為、途中で袴を新調した。
準備万端となり、いざ初めて足を踏み入れた遊女屋敷。

カウンターで予約をした悟空は、チチの部屋へ案内される。

久々に再会できる彼女に胸は高鳴りっ放しだった。
それと同時に覚えているかどうかも不安だった。

決心して襖を開けた時。



「 チチ、おめぇが居た。やっと見つけたって思えた。
でもおめぇは記憶がオラの記憶どころか全部忘れちまってた。」



今までの成り行きを語った悟空。
ただただ聞き耳を立てて、静かに聞いていたチチ。

悟空の語った物語は、壮絶で驚愕の連続だった。


記憶を失う以前、彼に会っていた。
一緒の時間を過ごしていた。
婚約する程、仲のいい関係だった。
夢に見た少年は彼だった。

幾度も傷付けてしまった。
そんな最低な自分を彼は探し出してくれた。

全て忘れてしまった自分と全て覚えていてくれた彼。
一体、どんな気持ちだったんだろう。
どこまで苦しめてしまったんだろう。



「 オラ、すげぇショックだった。」



彼の言葉にドクンッと心臓が跳ねた。
全身の血が逆流する様に、身震いさえ感じる。



「 ごめ… 」

「 でもそん時、オラ初めて気付いたんだ。
チチに恋してたんだ…って。」



先程とは違う、胸の高鳴り。
顔を上げたチチの視界には、それは晴々とした悟空の嬉々とした表情があった。

きっと、彼は感情は知ってても、その感情に名前がある事を知らなかったのだろう。
自分が最初に悟空へ感じた感情の名を知らなかった様に。
それはたった一人しか経験した事のない初めての感情だったから。
気付くのには随分と時間がかかってしまったのだろう。



「 本当は何度も話そうと思ったんだぞ?
けど話しても信じて貰えなくて嫌われたら嫌だし、だったらおめぇにまた好きになって貰えばそれでいいやって思ったんだ。」



彼は彼なりに考えていたのだ。

必死に感情を押し殺して。
ずっと苦痛に耐え忍んでくれたのだ。

反対の立場だったら、どうなのだろう。

きっと何で忘れるのって捲し立ててしまう。
約束したのにって狂った様に泣いてしまうかもしれない。

それほどに彼の立場は重く、辛いものだったのだと悟った。



「 ごめんな、おら大事な事忘れちまってて。」



心からの謝罪だった。
謝罪した所で許してもらえる様な罪ではない。
このまま捨てられても文句の一つも言えないだろう。

ふと頭に降ってきたのは、彼の大きな手。
くしゃくしゃっとチチの髪を乱す様に撫でてきた。



「 オラが覚えてたんだ、それでいいんじゃねぇか? 」

「 だども……、」

「 それよりさ、」



チチの言葉を遮った悟空は、大きな革のトランクケースを取り出した。

カチッと鍵式ロックが外され、
パカッと開けられたトランクケースには所狭しと敷き詰められた1億ゼニー。



「 …っ! 」



驚愕し声にならない声を発するチチ。

本当に持ってきてくれた。
申し訳ない気持ちとそれ以上に嬉しい気持ちが入り混じった感情。

可笑しそうに照れ臭そうにハハッと笑った悟空は、告げた。



「 これで、オラと結婚してくれっか? 」



息を飲んだ瞬間だった。

待ちに待ったこの日。
籠に閉じ込められた鳥も羽ばたける日が来るのだ。
大好きな彼と外の世界で自由な時間を過ごせるのだ。

こんな幸福に満たされた気持ちは今まで感じたことはあるだろうか。
馬鹿みたいに心が踊る高鳴りを感じたことはあっただろうか。
全て皆無で、全て彼に捧げた、初恋。


気付いたら一つ、生温かい雫が頬を伝っていた。



「 おらでいいだか? 」

「 おめぇじゃなきゃ駄目なんだ。」



とっくに意志なんて固まっていたが、改めて気持ちが固まった気がした。

涙を指で掬ってくれた優しい彼。
満面の笑みを浮かべたチチは覚悟を決めて告げた。



「 悟空さ、よろしくお願いしますだ! 」



そこにはもう、迷いなんて何一つなかった。

待ち受ける先に例え試練があったとしても彼がいるなら乗り越えて行ける。
もし彼といる事で不幸になってしまったとしても構わない。
そう思える程、恋は深い愛情に変わっていた。


パァッと輝くほどの笑顔を浮かべた悟空。
その笑顔さえ愛おしくて堪らない。



「 そうと決まれば行くぞっ!! 」



トランクケースを閉めた悟空は片手にトランクケース。
もう片手はチチの手を取っていた。

その一言を機に走り出して、長い廊下を駆け出していた二人。

チチの手に荷物はない。
もう荷物なんて要らない。


廊下の途中、女将にすれ違った悟空は、所持していたトランクケース事、放っていた。



「 女将!きっちり1億あっからチチん事貰ってくぞ! 」

「チチ?! 孫悟空様?! 」

「 女将さん、今までお世話になっただ! 」



すれ違い際に放った言葉達。
今は足を止める時間すらも惜しいのだ。

玄関口に辿り着いた悟空とチチは、ガラガラッと勢い良く戸を開け放つ。

舞い込んできた外の空気。
外の酸素というのは、こんなにも清々しく軽かったのか。
こんなにも美味しいものなのか。



「 きんとーーんッ!!! 」



夜空に目掛けて、大声で叫ぶ悟空。
すぐ様 風を切り、目の前にやってきた金色に輝く雲。
初めて目にしたけれど、どこか懐かしい感覚は残っていた。

閉め切られた大門は潜らずともこの不思議な雲で空を飛んでしまえばいい。

最初に乗り込んだ悟空は、そっとチチに手を差し出した。



「 ほれ、掴まれ。」

「 んだ! 」



足を掛けながら彼の手を取れば、優しく引き上げられた。
拍子に彼の鼓動を感じる程近くなる距離。

彼の胸板に身体を預けたまま、筋斗雲は空高く上昇した。



「 とりあえずクリリンとこ行って、皆で山帰っぞ! 」

「 山…? 」

「 あぁ! オラ達が住んでたパオズ山だ!
おめぇの父ちゃんにも会わせなきゃだかんな! 」



こんなに楽しそうな彼を見た事はあっただろうか。
とても輝いていて、今まで知る事の出来なかった外の世界へ放たれた彼の姿があった。

きっとこれからも沢山の顔を知っていくのだろう。



「 分かっただ。おら 悟空さが行くとこなら、どこへでも着いていくだよ! 」

「 おっしゃ!そうと決まれば飛ばすぞ!ちゃんと掴まっとけよ! 」



ビューンッと風を切り、羽ばたいていく二人。

彼の腕はしっかりとチチを抱え込む様に。
チチもまた彼に腕を回ししっかりと支える様に。










運命が引き寄せた糸は、きっと果てしなく続いていく。

私達の物語は、今動き出したばかり。
どんな試練も困難も乗り越えて行く事だろう。


そうして、二人は末永く幸せに暮らしていくのだった。

これは誰も語る事のなかった、遠い昔話。







籠の中の鳥
〜 鳥籠から翔く時。〜






2018.04.15




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