― Present ―










 子供らしからぬ 願い。

 それは 大きな幸福を呼んだ。










 冬の一大イベント、
 クリスマスを 後 五日後に控えた孫家は 装飾に大忙しだ。


 勿論、悟空もその一人。

 面倒だ、と拒んだものの、
 手伝わないなら クリスマスの飯は抜き、と云い渡され 止む無く お手伝い。



 ( クリスマスの飾付け 終わった後に 生き返りゃ良かったのにな。)



 自己中心的な事を ぼんやりと考えながら、
 チチの指示通り、クリスマスツリーへの装飾品を 不器用ながらに一つ一つ飾っていく。

 そこへ、先程 学校から帰宅したばかりの次男坊が 駆け寄ってきた。



 「 ねぇ、お母さん? 」



 悟空への用事ではなく、
 どうやら チチに話し掛けている様子の悟天。


 悟空は 何も云わず、一旦 止めた手を再び動かし 装飾していく。

 一刻も 早く終わらせて
 何としてでも、明日からは修行に行きたいが為だ。



 「 ん? 何だべ? 」

 「 あのね、サンタさんに送るお手紙、もう送っちゃった? 」

 「 うーん。送っちまったけど、なして? 」

 「 ん〜、サンタさんにお願いするプレゼント、変えたいんだよ。」



 どうしよう、とでも云う様な 表情を一つ 見せながら、
 顎に手を当て、器用に 眉を下げる悟天は、我ながら そっくりだ と思う。


 そんな悟天の様子に チチは母親の顔である 優しい笑顔。
 悟天の頭を 優しく撫でた。



 「 それなら また新しく書いて 送ると良いだよ。」

 「 ほんとう? 」

 「 本当だべ。心配する事ねぇだ。」

 「 それじゃ、書いてくる! 」



 先程の困惑した表情も 一瞬で笑顔に変わった。
 喜怒哀楽が はっきりと表情に出る、そんな所は きっとチチに似てるのだろう。


 可愛らしい次男坊が パタパタと自室に去って行った。


 悟空は 装飾の手を止めずに、
 先程の話の内容が気になり、チチをチラッと視界へ映す。



 「 チチ、悟天のプレゼント、何だったんだ? 」

 「 知りてぇだか? 」

 「 まぁ、オラの子の事だし、一応…。」



 チチの表情が 一瞬 曇った。
 普通の一般人の目には 捉え切れない程の一瞬。

 気の所為かな、と思う悟空は 気にも留めなかった。


 チチは 装飾を一旦止め、悟空も それに従う様に 手を休めた。


 チチは戸棚から 一つの箱を取り出し、開ければ その中には 一枚の用紙。
 無言で手渡された悟空は、不思議に思いながら 二つ折りにしてある 用紙を開く。



 『 サンタさんへ。

   サンタさん、まいとし プレゼント ありがとうございます。
   だから こんかい ボクは プレゼントはいりません。

   そのかわり、かえしてほしいものがあります。

   ボクじゃなくて おかあさんにです。
   おかあさんに おとうさんをかえしてあげてください。
   おそらにいる おとうさんは 孫悟空っていいます。

   おかあさんは ときどき ボクをみて、かなしそうなかおをするんです。
   きっと ボクがおとうさんににてるからだとおもうんです。
   でも ボクじゃ だめなんです。

   だから いつも ボクたちをそだててくれてる おかあさんに ごほうびとして おとうさんをあげてください。
   おねがいします。


   そんごてん。』



 読み終えた途端、目を疑った。

 だが、目を擦っても、
 瞬きを 何度繰り返しても、
 その用紙に連なっている 文面は変わらない。


 正直なところ、戸惑ってしまった。



 「 これ…、悟天が? 」

 「 …そうだべ。」



 手に握っていた 用紙から 視線を外し チチを映す。


 彼女は 苦虫を噛み潰した様な、重く 苦しげな表情で 床へ顔を逸らした。
 きっと 自分も酷い顔をしているだろう。



 「 おらも びっくりしただ。
   悟飯ちゃんが 協力したのかと思って 聞いてみたんだが、悟飯ちゃんも 悟空さと同じ様な反応しててな。」



 悟天は 無邪気な子供だ。
 悟空に似て 能天気で 深く物事を考えないタイプの純粋な子供。


 だからこそ、こんな事を 願ったのかもしれない。

 だが、例え そうであったとしてもだ。
 子供が 考えるような 強請る様な事では無かった。


 悟天が お父さんを下さい、なら まだ分かる。
 同じ年頃の子供なら 両親共に居るのが当然で 影響を受けて 欲しくなるのなら。


 ただ、悟天の願いは 違うのだ。


 お母さんに お父さんを返してあげてください、と云うのだ。

 きっと、幼いながらに 深く考えたのだろう。

 孫悟空だけ 漢字で書かれているのが、何よりもの証拠だ。
 きっと サンタが 同姓同名の平仮名の人と間違えない様に と態々 難しい漢字を書いたに違いない。
 その所為からか そこだけ 何度も消しゴムで 消された跡があるのだ。



 「 すげぇな、悟天は…。」

 「 本当だべな。
   よく出来た子供だども、おら 見た瞬間、泣いちまってなぁ。
   それを書く前に トランクスと同じ おもちゃが欲しいって騒いでたから てっきり それを強請ると思っただよ。
   なのに、子供らしくねぇ事に、ちっと驚いちまってな。」



 そう云う チチの瞳は揺れ、今にも 溢れそうな涙が 溜まっていた。

 悟空ですら、この内容には 深過ぎて 溢れそうになる涙を堪えるのに 必死だった。
 もっとも、情けない、と思い 涙を流す事はないのだが。



 「 オラ、改めて 帰って来れて 本当に良かった。」

 「 そうだべな。」

 「 チチも 随分 悲しい思いさせちまったみてぇだし。」



 悟天が 見抜いた程だ。
 きっと、それだけ チチは 悲しい表情を浮かべていたのだろう。


 そんな姿を胸の中で 思い描けば チクッと 胸が痛んだ。


 チチの瞳からは 涙が一粒 零れ落ちるものの、表情は 穏やかな笑顔だった。



 「 本当だべ、馬鹿 悟空さ。」



 キッと睨み付けるチチは 悟空の頬に 触れる様に殴る。
 でも 怒っている様子はなく、威圧も怒気もない。


 嬉しそうなチチに
 ニカッと負けないくらいの笑顔で 笑って見せた悟空。

 ポンッと 撫でる様に、チチの頭へ手を置いた。



 「 子供は 子供らしく 育てような! チチ。」

 「 それは そうだけんど、
   いつまでも 悟空さみてぇに 子供で居られても 困るけんどな! 」



 その言葉には ごもっとも と思い、冷や汗が滲む。

 だが、この性格を今更、変えるつもりはないし、
 今から 変えた所で 手遅れと云ったものだろう。



 「 ははっ、違ぇねぇや! 」



 二人は 静かに 見詰め合う。
 そして どちらも 劣らない程の 笑顔を作って見せた。





 笑顔 溢れる家庭。
 思い描いた 血を見る事のない世界。


 孫家は 今日も平和だ。









 生き返って 良かった。


 同じ事を 共有し、
 同じ事で 笑い合い、

 こうして、温かな家庭を築いていける 幸福。


 この幸福は、次男坊が生んだ。
 もしかしたら、サンタへの願いが叶えられ、生き返る事が出来たのかもしれない。


 嗚呼、たまには、こんな日も 悪くないな。






― 番外編 ―





Present
〜 また笑い合える、温かくて柔らかな家庭を幸福と呼ぶのだろう 〜





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