― 抱えきれない程の愛 ―










 一生 貴方に添い遂げようと 決めた 若かれし頃。


 私の判断は
 きっと 間違っていなかった。



 だって、こんなにも愛されているのだから。











 「 悟空さっ !! 」



 まだ朝だと云うにも 関わらず、
 けたたましい怒鳴り声が 部屋中に キンッ と響き渡る。



 「 …何だよ、」

 「 何だよじゃねぇべっ!
   朝から そんなにダラダラしちまって、服ぐれぇ 着替えたらどうだっ! 」



 チチの怒りの原因。

 それは 朝から珍しく 悟空がダラダラとした生活をしている事だ。
 朝食を食べ終えたかと思えば、ソファで再び眠気に誘われ、息子達が出掛けた事にも気が付かない程だ。


 悟空は 大欠伸をしながら、気怠そうに上体を起こす。



 「 今日くれぇ いいじゃねぇか。」

 「 何云ってるだ。
   いい大人が 朝からダラダラしちゃなんねぇだ!
   それに おめぇの大好きな修行は どうしただ? 」



 皮肉交じりに 云い放つ チチは仁王立ち。

 悟空は 未だにシャキッと起き上がる事が出来ず、何度も大欠伸をしては 目に涙を溜めていた。



 「 …今日は 修行しねぇ。
   身体 休める日も大事だし 何より今日は チチと居てぇ気分なんだよな。」

 「 …なっ! 」



 平然と 呑気に云い退ける悟空に、
 チチは 不意打ちを突かれ 頬を真っ赤に染め上げた。

 その所為で 怒りはどこへやら。
 チチは盛大な溜息を吐いて、悟空の座るソファの隣に腰掛ける。



 「 …おめぇは、本当 恥ずかしい事 すんなり云ってくれて、」

 「 ん? 恥ずかしい事?
   オラ 今 何か云ってたか? 」
 
 「 云ったべ? 」



 顎に手を当て 少し考え出すも
 それは 一瞬で ニカッと 明るい笑顔で 頭を掻き出す。



 「 ハハッ、オラ わっかんねぇや! 」



 その笑顔は 彼らしくて、
 お陰様で こっちまで その笑顔に 釣られるように笑顔が零れ落ちた。



 「 まーったくっ! 悟空さらしいだな。」

 「 ははっ、すまねぇ。」

 「 困った旦那様だべ。
   おめぇが死んじまってる間に おらが再婚なんてしてたら どうなってた事か。」



 こんな能天気で どこまでも 鈍感な彼を放って、
 自分が幸せになる道を選んで 再婚をしていたとしたら、
 果たして、こんな自由奔放な彼を 面倒見れる人なんて 居るんだろうか?


 チチは そんな事を考えながら クスリッと小さく微笑む。



 「 …再婚って、あれか?
   もう一回 結婚するやつか? 」

 「 そうだべ。」

 「 オラ以外の男とか? 」

 「 まぁ、そうなるべな?
   おめぇ 死んじまってる時なら おら未亡人だった訳だしな。」



 ふーん、と 興味無さそうに 鼻を鳴らす 悟空。

 既に上の空 状態な彼に
 チチは ちょっとした悪戯心が 働いて、悟空と視線を絡ませる。



 「 ねぇ 悟空さ? 」

 「 ん? 」

 「 もし、おらが 再婚してたら 悟空さ どうするだ? 」

 「 オラ? 」

 「 そう、悟空さ。」



 一人で 自由気ままに 暮らすのか。
 はたまた 次の結婚相手を 探してしまうのか。

 後者だったら 悲しい気もするが、自分が今 質問している事は 同じ様なものだ。


 チチが視線を絡ませたまま、見詰めていれば、
 悟空の目つきと表情が 一瞬で変わり、真剣さを帯びたと思えば、肩に腕を回され 引き寄せられる。

 驚く暇もなく、顔が近付けば 額を合わせ 至近距離で 視線が絡み合った。



 「 取り返してやるさ。」

 「 おらをけ? 」

 「 あぁ、おめぇは オラのもんだ。
   生きてようが 死んでようが それは変わりねぇ。」



 彼の言葉 一つ一つに トクンッと 胸が荒波の様に波打つ。

 全く 予想してもいなかった答えで、
 好きな人の甘い言葉に ときめかない者なんて 絶対居ない。



 「 …自分勝手だべな。」



 なんて、嬉しいけれど、素直になれない自分が居て。

 ちょっとばかり、ツンッとした云い方で返せば、
 肩を押されたと思った瞬間、あっと云う間に 背にはソファ、上には彼の顔と天井が 視界に入る。



 「 もう一つ、」



 そう 呟く様な声で述べる彼は 既に男の顔。
 漆黒の瞳は 逸らすのを許さないかの様に 鋭く見詰めてくる。

 吸い込まれそうになりながら、チチは頬を上気させ 頭の中は真っ白だ。



 「 …何だべ? 」

 「 もし、おめぇが他の男のもんになってたら、
   オラ そいつん事 殺っちまうぜ? 」

 「 …っ! 」



 頭が沸騰しそうな程、
 全身の血が 逆流しそうな程、
 心臓が大きく高鳴って、身体を熱くさせた。



 どれだけ、愛してくれてるの?

 いつも 言葉が足りなさ過ぎて、
 言葉は愚か、貴方の行動すら よく分からない時だってあると云うのに、
 どうして 時々 こうも 抱えきれない程の 愛を囁いてくれるの?


 抱えきれない程の愛によって、瞳には 涙が溜まる。
 それでも 嬉しくて 涙よりも先に 笑顔が零れ落ちた。



 「 相変わらず 野蛮人な悟空さだべな。」

 「 へへっ、そうか? 」



 そう笑う 彼は
 やっぱり いつもの彼で、
 零れ落ちそうになる涙の目尻を ペロッと舌で掬って見せた。


 その優しさが
 時に 強引な貴方が 魅力的。

 また 貴方に堕ちていく。




 「 …おら、悟空さを選んでよかった。」

 「 何がだ? 」

 「 秘密だべ。」




 彼に負けない程 微笑んで見せては、
 そっと 頬に触れるだけの 口付けを落として見せた。


 そうすれば、こっちがいい、と云って 唇を重ねられた。










 本当は 何度も迷ったの。


 好きだけじゃ 夫婦は成り立たないんだって。
 お互いの 悪い所も含めて 全部 受け入れて 愛さなきゃいけないんだって。


 自由気ままで、
 吹かれた風に乗る貴方は どこまでも高く昇り詰めて
 私の手には 届かない程 遠くに行ってしまったのだと 思った日も数え切れない。



 それでも 私は そんな貴方が好きで、
 憎たらしいと思うのに 貴方以上の人なんかいなくて、

 私は 間違っていなかったよ。



 貴方を 旦那様に選んだ事。



 だって 貴方はどんなに遠くに行ったって、
 必ず 私の元に帰って来てくれて 貴方なりの不器用な愛情表現をしてくれているのだから。







抱えきれない程の愛
〜 果てしなく堕ちていく私は 相当 貴方に惚れ込んでいる 〜






2015.12.13 UP




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