〜 First time promiss 〜










 死への恐怖は ない。
 寧ろ 戦いの中で死ぬ事が出来るのなら 本望だと思っていた。

 ただ 死を目前にして思ってしまったんだ。



 死とは こんなにも惜しくて 生が恋しくなるもんなんだな。












 あの日、彼女は泣いた。


 声を必死に押し殺して、
 小さな身体を震わせて、

 何かを云うわけでもなく、ただ泣いていた。



 確かなのは、
 今までに見た事ない程の彼奴の泣き顔。



 『 …チチ。』



 彼女の名前を呼び、
 部屋へと足を踏み入れれば、
 やっと気付いたのか、彼女は涙を隠すかのように顔を伏せた。



 『 …悟、空さ…っ。』



 震える声で、必死に名前を呼ばれた。



 『 何で泣いてんだよ、』



 彼女の初めて見る泣き顔に、動揺しながら尋ねたら、
 ふふっ、と優しい笑顔を此方に向けて、彼奴は笑っていた。

 瞳には大粒の涙を溜めながら、必死に笑顔を繕っていた。



 『 おら、泣いてなんかいねぇだよ。』



 泣かれるのも、辛いけど、
 こうやって我慢させて、笑顔を作らせる方が、余計に辛かった。


 でも彼女にこうさせているのは、紛れもなく自分自身なのだ。



 『 チチ、一個だけ約束してやる。』



 彼女に歩み寄り、自分の方へ引き寄せ、彼女を抱き締める。

 優しく、壊さぬように、
 背負っているものを全て包み込むように
 自分でも驚く程、力加減が利き、彼女に温もりを与えた。



 『 …何だべ? 』



 彼女の震える声は 変わらない。
 ただ肩の力が抜けたようにも思えた。



 『 帰ってくる。
   チチの元に、オラのこの家に必ず 帰ってくる。』

 『 悟…空さっ。』



 腕の中で、再び泣き喚く チチ。





 あの時、何故 お前が泣いたのか、
 何故 泣き止む事が出来なかったのか、

 こんな状況の今になって わかっちまうなんてな。









 今、自分は笑えてるだろうか。
 あの日 お前が必死に笑ってくれた顔 出来てるだろうか。



 「 母さんに すまねぇって云っといてくれ。」



 約束なんてした事、なかったもんな。

 余計 不安にさせちまってたんだよな。
 だからあの夜 泣かせちまったんだよな。



 「 … いつも 勝手な事ばっかりしちゃって。」



 言葉とは、使い方によって 時に残酷なものだ。
 残酷な言葉を残した 自分自身は きっと最低なんだと思う。



 「 …バイ、悟飯。」



 残酷な言葉を最後に
 戦友とも云える仲間を残し、死へと繋がる道を歩いた。




 嗚呼、何でだろうな。

 こんな時だってのに 場違いな事を考えてしまうんだ。


 チチの泣き顔が 脳裏を過ぎる。
 あの日 泣いていた チチの泣き顔が 忘れられなくて。






 なぁ、チチ。


 オラ こんな時になって お前の泣いた意味を知ったけど、
 チチはオラの今の気持ち 伝わってるか?



 …… 初めて交わした約束。
    一番 守りたかった約束だった。



 なんて、
 今となっては 叶う事のない願いに変わるみたいだ。












 お前の泣き顔が、脳裏を焼き付ける。


 嘘吐きだと
 裏切り者だと
 恨んでも 憎んでもいいから、どうか泣かないで。









First time promiss
〜 初めて交わした約束は 一生 叶う事のない願いに変わり果てた 〜






2015.12.02
前作『 約束 』大幅加筆編集作品




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