「あのね未結・・・あたし・・・小畑君のこと好きみたい・・・」

そう突然言われたのは小5の冬

もうすぐバレンタインだね〜という話題から、いきなりの告白だった

「えぇぇぇっ!!!?」

あまりの驚きに、普段の私からは想像もできないような声を出したことを今でも覚えている

麻梨は「しーーーっ!!」と人差し指を自分の口の前で立てて、大きな声を出した私に詰め寄った

「声大きい」

「ご・・・ごめん・・・」

「まぁ、びっくりしたよね」

そう言ってはにかむ麻梨

「バレンタインどんなチョコ作ってあげようかな〜♪」

そう言って空を見上げる麻梨の表情を見て、私は頭を鈍器で殴られたような衝撃を受けた

恋する乙女―――

そんな言葉がピッタリ似合いそうな表情だった


「あ、未結―――――!!!」

その年のバレンタインが終わって、数日後

いつもどおり、元気のいい声が、登校中の私の背中に浴びせられる

「おっはよーー♪ 今日も顔面蒼白美人だね☆」

「・・・褒めてるの?それ」

麻梨の朝の挨拶は、小学校の頃からの日課だ

いつもと変わらない麻梨

対する私は、妙に沈んだ気分のまま

『麻梨は優眞君に告白したのかな?』

その文字が壊れたカセットテープのように、脳内を同じ調子で何度も何度も流れる

「あ、そうだそうだ 未結に報告♪」

すぐに優眞君のことだと思った

俯き気味だった顔を上げると、目に飛び込んできたのはキラキラした麻梨の笑顔

まさか――――

うまくいってしまったの?

麻梨はその笑顔を一切崩さずに言った


「あたし、優眞君にフラれちゃったんだ〜♪」


・・・・・・・・えっ?

「えぇぇぇぇぇ!!!?」

またも、私らしくないような大声を張り上げる

だが、今度の麻梨は人差し指を立てて詰め寄ったりせず、ただ「えへへ」といった調子で笑っていた

表情と言葉のギャップが激しすぎる・・・

「い、いつ?」

「昨日だよ〜 放課後呼び出されて、そりゃあもう、あっさりばっさりフラれたよ☆」

目から星でも飛び出るんじゃないかと思うような無邪気な笑顔の麻梨

「それなのに笑ってるの?」

「うん だって、いつまでもクヨクヨしてても仕方ないじゃん」

麻梨らしい一言が飛び出してきた

「まぁ、すぐに諦めるってことは出来ないかもしれないし、もしかしたらまた好きになるかもしれないけど・・・」

次に続ける言葉を探しているかのように、麻梨は人差し指を顎に当てる

「まぁ、また好きになったら好きになっただし
第一、 フラれてメソメソするなんてあたしらしくないじゃん☆」

そう言って笑い飛ばせるんだから、麻梨はすごい

「だから、とりあえず今はスッパリ諦めたよ 次の恋が楽しみ♪」

前を見つめて上機嫌な麻梨に、私は何と言ったらいいのか分からなくなる

「・・・麻梨はタフだね」

「うむ? それは褒め言葉だね☆ ありがとうありがとう!!」

ニシシと笑う麻梨に、私もつられて笑い出す

「そういえば未結、あたしがフラれたって言ったら驚いてたよね?
 もしかして、うまくいくと思ってくれてたの!? 
 キャーーーー!! 未結ちゃん素敵☆ イカす☆」

「・・・いつも以上のテンションだね」

いつものように毒舌を吐いてた私の中では、嬉しいんだか安心してるんだか辛いんだか、よく分からない感情が渦を巻いていた

私もその時、優眞君のことが好きだった

でも、麻梨には中2から好きだと言っている

いくら過去のこととは言えど、変な気を使わせたくなかったから

ちょうど中2のとき、私と優眞君は同じクラスだったから、好きになる理由の口実は簡単に作れた

まだ麻梨が優眞君のこと好きだったらどうしよう・・・などと考えたが、いざ言ってみると

「マジか!!? 小畑っち!? いいね〜恋する乙女バンザイ!! 
応援するよ☆ 協力なら任せとけ♪」

と、何ともまぁハイテンションな返事が返ってきたのでポカンとしてしまった

こういうのが麻梨なんだ

そう思うと、後から自然と笑いがこみ上げてきた

どうやら優眞君にフラれた後、本当にスッパリと諦めたらしい

さっきの麻梨の接し方を見れば、過去を気にしていないことは一目瞭然だ

だが、優眞君はどうだろう?

彼は無口で優しいから、多分一度フッた麻梨に多少ながら気を遣っている

さっき麻梨に向けた表情がその証拠だ

きっと、どう接したらいいのか分からずに、あんな顔をしてしまうのだろう

でも、それは優眞君なりの優しさ

鈍感な麻梨は、優眞君がそんな表情していることすら気付いていないのだろうけど


そして、高1の現在に至る

「あ〜あ・・・」

靴を履き替えた私たちは、自転車置場に向かって歩き出す

麻梨が履くスニーカーの「トントン」という音と私の履くローファーの「コツコツ」という音が、不規則に鳴る

私より数歩前を歩く麻梨が、頭の後ろで手を組みながら大きなため息を吐き出した

きっと、その後には「暑い〜」などという言葉が続くのだろう

「まったく・・・小畑っちの奴・・・」

優眞君?

もしかして、麻梨が来たからって、私との話を中断して帰っちゃったこと?


「気にするなって言ったのに・・・」


・・・えっ?

「麻梨・・・?」

予想外の言葉に私は麻梨の名を小さく呼ぶ

麻梨はまたため息を漏らすと、さっきよりも大きな声で言った

「フッたこと、もう気にするなって言ったのに・・・」

まさか・・・!!

「あたしを見た途端にあの顔はないでしょ〜」

気付いてたの・・・?

「麻梨、もしかして・・・」

「あの無理した顔、未結も気付いたでしょ?」

「気付いてたの?」

「当たり前じゃん」

「あの鈍感な麻梨が?」

「おうよ あたしだって成長してるんだぜ☆」

何が・・・?と思わずツッコみたくなったが、今はそういう場面じゃない

私は、喉元まで出掛けた言葉を飲み込む

「まったく・・・まぁ気にするなって言っても小畑っちのことだから、こうなるだろうとは思ってたけど」

麻梨が呆れたような声で歩を進める

地面に伸びた麻梨の影が、何だか淋しそうに見えたのは気のせいだろうか

「まだ、あたしが自分のこと好きだと思ってるのかね?」

「・・・それはないでしょ」

「ですよね〜☆」

麻梨は勢いよく振り返って、笑う

いつもの麻梨だ

「今のあたしには『あいつ』がいるんだから!!」

麻梨が嬉しそうにグランドに視線を向ける

「そうだね」

私も麻梨の視線の先を追うが、どれが『あいつ』なのかまったく分からなかった

麻梨は分かっているのかな?

「今はあたしより、未結のことだけを考えとけっつーの」

「いや、それはおかしいでしょ」

急に風が吹いた

私たちはまた、自転車置場にむかって歩き出す

地面に伸びた私の影が、照れ臭そうに髪を撫でていた

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