だんだん寒くなってきた

今日も私は、家の前で自転車を準備するフリをする

長袖セーラーの袖を必死に伸ばして、手を温めた

普通の人はまだ暑いとさえ感じるこの気温だが、私の体の体温は確実に奪われつつあった

この時期は嫌い

季節の変わり目は気温の変化が激しいから体調を崩しやすい

ただでさえ私は、気温の変化に敏感なのだから

あと、寒くなると人恋しくなるから

この時期は・・・・・・嫌い

ガチャッ!!

扉の開く音がする

それを合図に、私は顔を上げた

顔は見えなくても分かる あの人だ 自信がある

私は自転車の鍵を開け、サドルに跨った

サドルの冷たさが、スカート越しでも分かる

少し顔をしかめながらも、私はペダルに足をかけ、思い切り踏み込んだ

ゆっくりと進む自転車

通学路である土手へ行く道を左へ曲がる

その角で、私はチラリと右を伺った

そこには・・・


まだ自転車を準備している君


また、タイミングが合わなかった

『まただ・・・』

私はへこみながらも、ペダルをこぎ続けた


「おっ!! 未結―!!」

自転車に跨った人影が、私の名前を呼んで大きく手を振っていた

「麻梨・・・」

永中麻梨(えなか まり)
私にとって唯一、幼稚園から一緒の幼馴染

「おっはよ〜 今日も相変わらず不健康に美人だね〜」

「・・・褒めてるの?」

毎日の日課

麻梨との朝は、褒めてるのか喧嘩を売っているのか、分からないような挨拶から始まる

「今日も長袖? 気温30度くらいだよ? 暑くないの?」

「逆に寒くないの? だって、昨日より1度気温低いんだよ?」

「1度で、そんなに変わりゃしないよ」

麻梨は私の長袖・ニーハイ姿を見ながら、顔をしかめて言う

「見てるこっちが暑いよ」

対する麻梨は半そでセーラーにハイソックスだし、スカートも結構短い

もちろん、それが普通の格好なんだけど・・・

私は『低体温』『低血圧』『つねに貧血気味』だから、仕方がない

「で・・・」

急に麻梨の声音が変わった

何を聞かれるのか、容易に想像がつく

「今日は、うまく行ったのかい?」

明らかに楽しんでいる、ニヤついている表情で聞かれた

「ううん いつもどおり タイミングはずれだよ」

「えぇ〜〜!? 何、それ!! おもしろくない!!」

麻梨が左手でハンドルをベシベシ叩く

「だって中2から好きなんでしょ〜? 行動パターンとか分からないの?」

「それが分かったら、もはやストーカーの域」

横でぶつくさ、ふて腐れている麻梨

「もったいないよ〜 未結こんなに美人で可愛いのに!! ちょっと氷の仮面被ってるときあるけどさ〜」

「それは麻梨に対してだけ」

「寧ろ、あたしはそれを未結なりの愛情表現だと思ってるよ☆」

いつも通りハイテンションの麻梨に、私は思わず笑ってしまった

辺りには登校途中の生徒たちがいっぱい

でも、その中にあの人の姿は見えない

「じゃあ、今日は下駄箱で会える可能性に賭けるしかないね〜」

「うん 頑張る」

次こそタイミングを合わすんだ 絶対に


自転車置場に着いて、スクールバックを肩に下げる

その動作を後ろから見ていた麻梨が感心の声をあげた

「いや〜、そのカバンを肩にかける動作すら美しいね〜」

「おじさんみたいなこと言わないで」

「いや、おじさんじゃなくてお父さんでしょ?」

「そういう問題じゃない」

確かに、麻梨の言ったことは他の人からもよく言われる

寧ろ高校に入ってから、もっと増えた

別に普通にしているだけなんだけど、周りの人にはそれが『優雅』とか『おしとやか』と認識されるみたいで・・・

みんなにお嬢様だと勘違いされている

ごくごく普通の家の一人っ子なのに

ましてや・・・

「あたしは意識してないとすぐ、ガニ股になっちゃうからな〜」

こういう麻梨と一緒にいるから、余計引き立つんだと思う

「さてさて、下駄箱で会えるかな〜?」

麻梨がまたニヤニヤしだした

「・・・会えるといいな〜」

素直に言うと、顔が熱くなってきたから慌てて両手で頬を押える

そんな私に麻梨は『恋する未結は、いつもの数倍可愛いね』とナンパ男のような言葉をかけた


そして、下駄箱で上靴に履き替え、上に上がろうとした瞬間

来た・・・

あの人だ

麻梨もそれに気付いたらしく、私の後ろに隠れて背中を押す

私は、口を開けて、声をかけようとした


でも、できなかった


いざとなったら恥ずかしくて、私は無意識のうちに麻梨の手を取って、教室への階段を上がっていた

「ちょっ!! 未結、何してんの!!」

麻梨が手を引っ張られながら、後で声を上げる

私はハッとしたかのように、麻梨の手を離した

「挨拶するんじゃないの?」

そうだ・・・

私は、挨拶したかっただけなのに

またパニックになって、勝手に逃げ出してしまった

自分のやってしまったことに気付いて、目を見開いて地面を見つめ続ける私

そんな私に

「未結のバカ」

麻梨はそう言って、私の頭をゲンコツで軽く叩いた

「今のはダメだよ」

うん、そうだよね

「今のは、自分でも駄目だと思う」

消え入りそうにか細い声をだすと、頭上から麻梨のため息が聞こえる

そして

「おバカ」

また、軽いゲンコツが降ってきた

思わず目を瞑り、頭を押えながら麻梨を見上げる

「クヨクヨしても仕方ない!! 明日、ちゃんと頑張るんだよ」

口角を上げながら言う麻梨に、私は小さく頷いた

「よし、教室行こうか♪」

私は、後悔で胸をズキズキさせながらも教室に向かった

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