神(かみ)主


 騒がしく廊下を蹴り歩く音が、部屋に近づいてくる。
「聞いてくだされぬしさま!」
 断りも無しに障子を開くは小狐丸。興奮気味にふんふん鼻を鳴らし、格上の神である秋吉に詰め寄った。
「小狐丸の腹に、ぬしさまとの子を身篭もりました!」
 意気揚々に服を脱ぎ始める。
「これ、なにをしておる」
「ぬしさまにも見てほしく!」
「そ、そうか」
 そそくさと手を動かすが、焦りすぎて指が服を掴めていない。
「小狐丸。うれしいのはわかるが落ち着け」
「はい!」
 見かねた主が手伝うと、小狐丸は「へへへ」とにやけながら主に任せた。
 ばさりと床に落ちる衣。
 見えたのは小狐丸の云う通り、ぽっこりと膨らんだ腹だった。
「これは……」
「ぬしさま、いつごろ産まれるのでしょう……。楽しみですね」
 丸い腹を撫でながら主にすり寄る。
「いつ頃からそうなったんだい?」
「先刻です」
「ついさっきではないか!?」
「お揚げを食べていたら、急に腹が痛くなりまして。段々と気持ち悪くなって嘔吐してしまったのですが、これがつわりというものなのでしょうか」
 目を輝かせ心底喜んでいる小狐丸には悪いが、それは身篭もったのではない――。
「ただの食べ過ぎだ、小狐丸」
「なんとっ?! ぬしさまは時折笑えない冗談を仰る……」
 目に見えて落胆する小狐丸に、罪悪感が募る。
「大丈夫だ。おまえが孕むのもそう遠くはないだろう」
 すると尻尾をわさわさと降り乱し、小狐丸は顔を真っ赤にして目を輝かせた。


2015/02/23
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