蒼葉曰く、ぽわぽわな機体に顔を埋める。これまた蒼葉曰く、おひさまの匂いが鼻孔をくすぐった。 頭を左右に振り、俺のにおいが移るのではという位に顔を擦り付けると、蓮は逃げるように短い手足を動かした。 『秋吉、苦しいんだが』 「許せー……、……ぽわぽわ……」 凭れていたベッドに、首を倒して頭だけ乗せる。天井しか見えない体勢になったところで、蓮に顔の上へ乗ってもらった。 「しあわせだ。蒼葉はいつもこの幸せを味わってるのか……」 「…………」 『蒼葉、思考回路がこんがらがっているぞ』 一旦蓮を顔からおろす。 「なんだ蒼葉ー、いやらしい事でも考えてんのか?」 「……ある意味そうかもな」 予想していたよりも低い声が頭上から聞こえた。雑誌のめくり方がいつもより雑で、機嫌が悪いのをアピールしているみたいに感じた。 「どうした? 何か嫌なことでもあったか?」 訊いてるのに答えない。俺を見ない。 蓮に訊いたらわかるかな。 「なあ、蒼葉は何に怒ってるんだ?」 『それは、秋吉が来てうれ――』 「れん!!」 怒声が部屋に響き渡る。怒ってる蒼葉にびっくりしたのはもちろんだが、それよりも、蓮に怒鳴ったことにもっと驚いた。 「あ、悪い、怒鳴って。でも蓮、変なことは言うなよ?」 『了解した』 蒼葉の考えている事がわかる蓮は、何を言って良いか駄目かもわかるんだよな。 もしかして、俺に対して思ってることなのか……? 知らないうちに、蒼葉の気に障るようなことでもしてしまっていたんだろうか。心の中にしまっておかないで、直接言ってくれたらいいのに。胸が苦しくなった。 「……ちょっと、トイレ借りる」 「うん。階段おりて左……」 階段をおりると、玄関が開いた。 「あ、紅雀」 「よぉ秋吉じゃねーか。蒼葉が人呼んでるのはじめて見たぜ」 「確かにはじめて家に来たかな俺。蒼葉に誘われてさ。そしたら部屋に蓮がいたんだよ!」 「蒼葉のオールメイトだし、いるだろうな」 「それで俺、蓮を触ったことなくてさ。蒼葉は雑誌読んでたから、目一杯蓮をもふもふしまくってた」 「あー……、秋吉、そりゃあ……」 紅雀はなぜか額をおさえてため息をついた。 「蒼葉が気の毒だ」 「なんだよ紅雀まで」 「あ? なんか蒼葉に言われたのか?」 「言われたっていうか……。蓮に思考回路がぐちゃぐちゃだ〜って言われてたから、どうしてなのか蓮に訊いたんだよ。そしたら蒼葉が怒鳴って、蓮を口封じさせた」 「鈍感にも程があるだろ……」 手首を掴まれ、今来た道を戻る。 トイレ……、いや、出したかったわけじゃないからいいか。 部屋のふすまを開けて、紅雀とともに中に入る。蒼葉は俺を窺いながら顔を上げた。 「へっ? 紅雀?」 素っ頓狂な声を上げて起き上がり、ベッドの縁に座った。 俺は御用じゃなかったってことだったのか? 「突然だがな蒼葉、コイツの性格を考えろ。超が何個付いても足りないくらい鈍感な秋吉が、世間で言う思わせぶりな態度やらに気づくわけがないだろ」 もしかして、俺バカにされてる? 足元で二人の会話を聞いている蓮を抱き上げた。蒼葉の視線が痛いくらい刺さる。 「ったく、こら秋吉。お前また蓮を抱っこしやがって」 腕の中から蓮を取り上げると、代わりに俺の背中を思い切り押した。場所が悪く、縁に座る蒼葉の上に倒れ込む。 「うわあっ」 「えっ、秋吉……ッ」 慌てて手を着いたから、蒼葉を潰すことはなかった。 「紅雀! おまえなあ、危ないだろ!」 「ま、まあ蒼葉、ぶつけなかったし大丈夫……」 「そんじゃあお前さんら、俺は蓮を連れて下にいるから、ごゆっくりと仲良ししてくれ」 ぴしゃっと戸が閉まり、俺と蒼葉の間に沈黙が流れる。 「こ、紅雀のやつ、ななな仲良しとか言っちゃって、意味わかんないな!」 空笑いで誤魔化しているようにみえたが、その笑いが突然止んだ。 蒼葉の腕がするりと俺の首に回る。 「なあ、覚えてる? 今日、付き合って一ヶ月だってこと」 「蒼葉と過ごしてると、時間があっという間だったから、全然わからなかった……ごめん……」 そうか。蒼葉は記念日を大事にするのか。それで家に誘ってくれたのに、俺は蓮にばかり構ってしまって……。 首にまわっている腕に徐々に力が篭もり、蒼葉の顔が近くなっていく。潤んだ目がぎゅっと閉じたから、俺もつられて閉じる。 距離は縮まり、蒼葉と俺の唇がくっつく。――と同時に唇が食まれ、蒼葉の舌が暴れた。じゅるじゅると下品な音を出しながら、俺の口内をカラカラにしようとする。 「ちゅぱっ……、いやらしいこと、本当に考えてたんだな」 「秋吉がすぐ近くにいんのに、考えないわけないだろ……!」 言い終わってすぐに求めてくる。蒼葉は腹を空かせた子犬みたいに、べろべろとがっついてきた。 俺を逃がすまいと、蒼葉の両手が後頭部を押さえつけている。 されてばかりだった俺が、お返しに蒼葉の舌に舌で触れる。すると蒼葉はぴしりと固まった。 「俺、……はじめてのえっちは、付き合って一ヶ月後って決めてたんだ」 「キスも?」 「……! キスはできなかっただけ! したかったよ本当は!」 真っ赤な顔で抗議される。 「今日の事を考えて、いっぱい検索して勉強して、勇気出して蓮にも訊いたりしたし」 「俺の知らないとこでいっぱいエロいことしてたんだ」 「変な言い方すんな! それに、今日だって秋吉が来る前に準備してたよ」 「ほんとか……」 右足が蒼葉の両腿にきゅっと挟まれた。上下に擦られて、性感帯でもないのに変な気分になる。もともと淫靡な体付きな蒼葉は、たびたびその肉体を活かして甘えてくるからたまったもんじゃない。 「だから……、したい、かな、って」 「声抑えられる?」 「なっ、ぁ、た、多分……。下の紅雀には聞こえないと思う」 「仲良ししろって言ってたくらいだし、聞かせてもいいんじゃない?」 服の中に手を入れて細っこい腰を撫でる。上は脱がさず、下だけ脱がす。洒落てるベルトを外して、おむつを取り替える格好にしてズボンを足から抜き取った。 ウエストほっそいなあ……。俺の頭にぴったりはまりそうだ。 「いきなり下全部脱がすの……?」 「……初めてだから順序なんて知らないんだよ……」 探り探りでやるしかない。性器にツバを垂らして扱く。自分が気持ちよく感じるやり方で手を動かした。 案の定、蒼葉は可愛い声を出してくれた。本当の声かはわからないが、性器は見る見る育っていく。 擦ったり揉んだりを繰り返していると、腰が浮いているのに気付いた。 慣らしてたって言ってたけど、それも随分前の時間だろう。舐めてもう一度柔くしよう。 ……いや、実践などしたことないから柔くなるのかはわからないが。 「秋吉、そろそろ俺が……」 「ちょっと待って。両足持っててくれる?」 「え? なんでだよ」 「慣らしてあげるから」 「いらねぇし! 恥ずいから秋吉にはされたくない!」 「ひどいなあ。大丈夫。ぺろっと舐めるだけだから。一瞬だよ一瞬」 「クスリの勧誘かよ!」 全く足を持ち上げてくれる気配がないから、俺が自分でまとめ上げる。丸見えになった場所に顔を寄せた。 拒んでおきながら蒼葉も興奮しているのか、息を荒くしながらこちらをじっと見ている。 2014/03/21 |