「秋吉、たすけて……」

 消え入りそうな匡の声が、少し離れた居間から聞こえた。
 助けを呼ばれて行ってみると、匡が全身ふさふさになっていた。仰向けに転がった匡の上に、デブ猫が三匹も眠っている。
 三匹がいっぺんに胴体に乗っかられるなんて苦しいだろう。猫をどかす腕が無い匡は、猫の寝床にされたまま俺を見つめる。
 微かな抵抗として、短い手足をちょろちょろと動かしているのが、毛の中から僅かに見えた。
 こうして俺が傍観している間にも、猫の長い尻尾が匡の顔を叩いて悪戯する。
 そろそろ睨んでくる匡が怖かったから、一匹ずつ猫を降ろしてやった。

「おいで」

 と言っても匡から抱きついてくる事はできないから、俺が抱き上げる。
 軽々と持ち上げて、ソファに座る俺の膝の上に匡を乗せて抱き締めた。
 手足が無い人間を抱き締めると、密着度が高くなる気がする。
 俺に気遣って全体重をかけないなんて事はしない。それに、素直に肩に顎を乗せているのがかわいい。無抵抗なぬいぐるみでも抱いてるみたいだ。

「匡は俺に抱きしめられるの好き?」
「気持ちいいから嫌いじゃない」
「素直に好きっていいなよ」

 匡を腕の中に仕舞い込んだまま、静かにソファの上に仰向く。
 これは俺なりのおねだり。すると匡は短い腕の先っぽで、ほんの少しだけ起き上がる。ずり上がって、更に首を伸ばしてようやく唇同士がちょんと触れた。
 犬猫の肉球でつつかれているだけみたいで物足りない。
 俺の顔の真上まで引き上げると、匡は自ら俺の口内に舌を入れては唇を食むのを繰り返す。
 最近気付いたが、匡は濡れたものが大好きらしい。じゅるじゅると味わい、真っ赤な唇で唾液を引っ張りながら頭を上げていく。

 匡は、てらてらと唾液で艶めく唇を舌で舐め取ると、力尽きたように俺の胸に倒れ込んだ。


2014/03/06
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