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教室で


大綾

教室で





「清水君!ごめんね、遅くなっちゃって…
…って…あれ?」

委員会が終わり、慌てて教室に戻ってきた綾音は、はたと足を止めた。
いつもなら、
『遅い。』と、少しイラつき気味の声が返ってくるはずなのに、
今日は、何も返ってこず、かわりに、規則正しい寝息が聞こえてきた。
綾音は、そろそろと大河の席に近づく。

「…清水君?寝てるの?」

やはり、寝ている。綾音は戸惑った。

(起こしたほうがいいのかな…?)
(でも…)

キャプテンになってから、練習量も増え、さすがの大河も疲れていたようだ。

(もう少し、寝かせてあげよう…)

そう思い、綾音は大河の前の席に座った。

「頑張ってたもんね。」

授業中も、トレーニングの内容を考えたり、一人一人にあった練習法をみつけたり、大河は必死だった。

綾音は大河の手に自分の手をそっと重ねた。

「清水君は、一人じゃないよ。
服部君も、先輩とか先生、一年生も、それから…
私も、いるから…」







大河は、うっすらと目をあけた。
外は薄暗くなりつつある。
そして、すぐそばでは、先ほどまで彼に話しかけていた少女がすやすやと眠っていた。
手は、まだしっかりと握られていた。
綾音が寝ているのをみて、大河は大きく溜め息をついた。
顔が桃いろにうっすら染まる。

(恥ずかしいことをさらっといいやがって)
(でも…)

大河はぼそっと呟く。

「頼りねぇけど、俺にはお前で充分だよ」

実は綾音はこの言葉を聞いていて、機嫌が良かったのは、また別のお話。