まだ少し冷たい空気。
寒さなんて関係ないとばかりに響いてくる、子供たちのはしゃぐ声。
綾音はそれを心なしか遠くに感じながら、公園のベンチで大河の胸に顔をうずめていた。
‥どちらかといえば、頭を大河に押さえつけられていた、という方が正しいのだけど。
『ちょっと待っ‥!痛!』
『‥バカ、変に動くからだろ?マネージャーはおとなしくしてて』
『だって清水君‥!』
離れようとする綾音の頭をギュッと自分の胸へと引っ張る大河。
‥周りから見ればどこのバカップルだ、という感じで。実際、何人かの子供たちからじーっと見られている。
『だからって、だからって!』
顔を赤くして、綾音は叫んだ。
『ボタンにひっかかった髪の毛くらい、自分でとれるんだからっ!!』
“こ、こんなところ他の部員の人達に見られたら‥!”
綾音はそれでも自分のせいなのだから‥と極力暴れないように努力しつつ、先ほどの自分の失態を呪った――‥。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
今日は、珍しく部活のなかった休みの日で。
綾音は来週に誕生日をむかえる友達のために、プレゼントを買いに出掛けたところだった。
『あれ、清水君!?』
前方に見えたのは、ほぼ毎日顔を合わせているあの人。
よくある、道端で知り合いとバッタリ、というやつである。
‥しかし大河は綾音を見るなり、なんともいえない顔をした。
『マネージャー‥その格好‥?』
『え?』
今日は、普段マネージャーで忙しい為になかなか着れないお洒落な服を着ていたのだが‥。
“‥何かおかしかったかな?”
そんなことを考えていると。
『あのさ‥何、その格好‥デートとか?』
若干機嫌の悪そうな声が綾音の耳に入った。
『へ‥、えぇっ!?』
『な、何言ってるの清水君!違うわよ!』
一気に顔を上げた。
ゴン。
油断していた大河の顎と後頭部が衝突したけど、上手くいった‥と大きく新鮮な空気を肺に取り入れた綾音だった‥が。
『‥清水、君‥?』
『うわ、ちょっとこっち見るなよ‥!』
顎を押さえながらも、耳まで真っ赤にした野球部キャプテンを目にした瞬間、動きが止まってしまった。
『‥‥えっと‥』
『‥‥‥』
顔が赤くなりすぎてるのは、私も同じなんだろうな、なんて心のどこかで冷静に考えてみる。
‥いや本当は全く冷静なんかじゃないってことは、綾音の早鐘のようになる心臓が証明していた。
さっきからドキドキという音が響いて‥‥あれこれ、どっちの?清水君の?と一人で妙なパニックに陥った思考は、パチンという衝撃によって一瞬で止まった。
『きゃぁ!?』
いきなり受けた軽めのデコピン。
犯人はもちろん、顔の赤みは未だ隠せてない清水大河。
なんなの、と文句を言おうとしたのを遮るように『‥ごめん』の言葉が小さく響いた。
『‥‥‥』
『‥‥それは‥今のデコピンに対して?』
『‥バカ、違うのわかんだろ』
『‥うん』
嘘ついたことだよね?
髪がなかなか取れないだなんて。
そっと腕から抜けて、ベンチに座り直す。今度は大河の隣だ。
綾音が公園を見渡せば、子供達は移動したのだろうか。この十分ほどの間に誰もいなくなっていた。
『いいよ?』
『!‥‥何が?』
『今のこと。‥お、怒ってないし、嫌じゃ‥なかったもん』
そっと、大河の顔を覗きこむ。
めったに見られない、戸惑った表情。そして、頬が緩む。
『‥それって‥俺、いい意味で受けとっちゃうけど』
『い‥いよ?』
綾音が俯きながら答えれば、何でそんな自信無さげなの、と大河がクスッと笑うのが聞こえた。
人がいなくなってガランとした公園では、それはよく響いた。
いや、それは自分だけなのかもしれないけど。なんて綾音は思い直して顔を上げれずにいて。
そっ、と長い髪を一束掬われたことに気づかなかった。
『綺麗な髪だよなー‥』
『へ‥えぇ!?』
ましてや、小指に絡ませたそれに口づけてるなんて。
真っ赤な顔で口をパクパクしている綾音に微笑んで。
『‥‥可愛い』
そんな言葉に、心臓がはねました。
(王子様みたいでズルい。)
飴ころさんが時間をかけて、丁寧に書いて下さいましたw
レアモノですよんw
凄く素敵です!
尊敬いたします(*^o^*)
私もこんなほのぼの癒やし小説を書けるように頑張ります!
飴ころさん、ありがとうございましたぁぁあ!
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