「…帰った?」
「あぁ、一昨日の朝にな。」
それは暑い暑い8月のある日のこと。
ジャンプを買いに来ていた銀時といつものように街中をブラブラしながらサボっていた沖田は、コンビニで鉢合わせした。
『万事屋の旦那じゃないですかィ』
『あ、沖田くん。何やってんの?』
『見てわかるでしょ。見回りです』
『…コンビニでアイス食べて雑誌立ち読みすんのが?』
『わかってませんね、旦那。このコンビニから町ゆく人々を見守るのも、俺の仕事でさァ』
『つーか、お前限定の仕事じゃね、ソレ?』
と、いつものやりとりをした後、沖田が『そういえば、』と、思い出したように続けた。
『明後日の晩に、近藤さんが屯所で花火大会しようって言ってんですけど…旦那もどうです?』
『あのなぁ、いい大人がんなことして何に『酒とか有名店の料理とかでますぜ』
『何時集合?』
『酒』『有名店の料理』ですぐに釣られる銀時に苦笑しながら、『6時頃です』と沖田は答えた。
『姐さんも連れて来て下せェ
近藤さん喜ぶだろうし、あとメガネと…チャイナも。』
すると銀時が沖田を胡散臭さそうにみた。
『ふーん?珍しいなァ
お前らいつのまに仲良くなったの?』
『別に仲良くなんかありませんぜ。どっちみち旦那がくるなら、ガキ2人もくっついてくんでしょう?』
『…わかってんじゃん
でも残念だったな、神楽がくんのは無理だと思うぜ』
『は?』
『アイツ、故郷に帰ったんだ』
そして、冒頭に至る。
「そう…だったんですかィ」
「あぁ。まぁうるさいガキもいねー事だし?沖田くんもゆっくりサボれば?」
そう言って、銀時はジャンプをつかみ、レジへ向かった。
(…ダメだ、寝れねぇ)
公園の木陰になっているベンチで横になっていた沖田だが、なかなか寝つけない。
いつも場所を横取りしてくる少女もいないのだから、じっくり眠れる…はずなのに。
(…なんか、)
逆に寝にくい。…胸にポッカリ穴が開いたみたいだ。
なんか、モヤモヤ、する。
沖田は溜め息を一つつき、立ち上がった。
その後も、何をしていても、なんだか物足りない。
サボっていても、寝ていても、土方の命を狙おうとしている時でさえも、集中できないのだ。
(なんで…いや、)
理由はわかっている。だけど…
『その理由』の理由がわからない。どうしてそんなことを思うのか。どうして…
『チャイナがいない』ということだけで、こんなにモヤモヤするのか。
…アイツは、
ただの喧嘩仲間で、ライバルで…
ここのとこ、毎日のように喧嘩してたのに、突然、いなくなるなんて思わなかったから…
…だから、少し違和感があるだけ。ただ、それだけだ。
…本当に?
…本当にそれだけなのか?
このモヤモヤの正体がわからないまま、時間は少しずつ過ぎていった。
あれから2日。
今日は花火大会の日だ。
ウキウキな近藤のおかげで屯所は朝から忙しく、準備に追われていた。
おかげで、沖田はいつものうるさい上司の目も容易にくぐり抜けることができた。
(…つまんねぇ)
ベンチに寝転がり、アイマスクをつける。
真っ暗闇に浮かび上がるのは、桃色の髪のチャイナ娘。
「アホチャイナ」
「誰がアホアルかコルァ!」
…一瞬、息が止まった。
聞き間違いだと思った。
「…」
「シカトかヨ、オイ!」
少々いや、かなり乱暴に剥ぎ取られたアイマスク。
太陽の真っ白な光に負けじと目を開くと、桃色の髪。
…と銃口。
間一髪のところで神楽の攻撃をよける。
「なにすんだテメーはぁぁあ!」
「シカトするテメーがわりーんダロ!!」
「つーかお前帰ったんじゃ‥」
「帰ったアル」
「‥‥」
そこで、沖田は初めて勘違いをしていたことに気が付いた。
「里…帰り?」
「そうアル。マミーのお墓参りしてきたネ
…お前、私が本当に帰ったと思ったのカ?」
「…まァ」
認めるのがなぜか少し癪にさわる。
沖田は言葉を濁した。
「…残念アルナ。私、お前と決着つけるまでは、故郷に帰る気はないネ」
「‥‥」
「‥‥」
沖田と神楽は互いに向かい合い、ニヤリと笑い、そして武器を構えた。
One summer day(そういや、今日屯所で花火大会やるんでィ
旦那方も来るはずだぜィ)
(マジでか 行くアル!)
end
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