「神楽、町で沖田君に会っても、当分の間はケンカふっかけんなよ」
「?なんでアルか、銀ちゃん?」
出かけようとした時、銀ちゃんはそう言った。
私が理由を聞いても、銀ちゃんは首をふるだけだった。
でも、こういう時に限って…
(…なんでいるアル…!)
ソイツはいつも私が遊ぶ公園のベンチを一人で占領し、アイマスクをしてねていた。
銀ちゃんの言いつけ通り、初めは避けるつもりだった。
でも、『ケンカをふっかけるな』と言われればふっかけたくなるもので。
「オイ」
傘の先を、栗色の頭につきつける。
「起きるネ、サド野郎。今すぐ起きねーと頭ぶち抜くぞコルァ」
「…うるせーチャイナ。公務執行妨害で逮捕すんぞ。」
「この公園は歌舞伎町の女王神楽のものアル。許可ナシに寝てんじゃねぇよ」
アイマスクをとらずムクッと起き上がったサドを思いきり睨む。
「ハァ?オイオイ、歌舞伎町の女王サン、ここは公共の場、みんなのものでさァ」
「みんなのものであってもお前のもんじゃねーん…だ、ヨ…!」
サドがアイマスクを取った瞬間、私は一瞬目を見開き、言葉を失った。
「おま、ソレ…」
「え…?あぁ…」
サドの目は痛々しいほど真っ赤に腫れていたのだ。
こんなサド、今まで見たことなかった。
私は思わず笑った。
「…ッハハハッ!お前、泣いてたアルか!?」
「・・・。」
「わかった!ふられたんダロ!いい気味アルな!」
「・・・。」
何も言い返してこない。
それが気に入らなくて、ちょっとムッとしてサドを見た。
「…ほんと、ザマァねーな…」
その言葉に、私は耳を疑った。
「…は、?」
「…本当、俺は…ろくでもねぇ弟だ…」
おかしい。もともとおかしいやつが、もっとおかしい。
「…お前…なんか変アル。」
「…ははっ、そーかィ…。」
「なんかあったアルか?この神楽様に話してみるヨロシ!」
『今なら酢昆布一年分で聞いてやらないこともないアル』とベンチに座りながら言うと、サドはフッと笑った。
「…ありがとうございやす。」
「キモイアル。」
あぁ、こんなときくらい優しくできないのかと自分にあきれるが、沖田は気にしていないようだった。
「姉上が、死んだんでィ。」
「…え…」
そうキッパリと、私に、というより自分に言い聞かせるように沖田は言った。
「病気だったんでィ…」
「そう、だったアルか…」
つらい沈黙が訪れた。
私は普段ほとんど使わない頭をめいいっぱい使って考えた。
こんなとき、どうすればいいアルか?
こいつ、どうすれば元気になるネ?
こんなサド、見たくないアル!
「…悪かったアル。知らなかったとはいえ…笑って。」
「…いや、いいんでィ…。」
「・・・。」
「・・・。」
「…私にも、兄ちゃんが1人、いるネ。」
「・・・。」
昔追いかけた背中を思い出す。
「でも、どっかに消えたアル。」
「…そーかィ。」
その気が抜けた返事に腹がたって、私はベンチから立ち上がった。
「オイ」
「?…!!ぐわっ!」
ガキィィィィイインッ!
私が振り下ろした傘を、沖田が反射的に刀で受け止める。
「な、なにしやがんでィ!」
「いい加減にしろヨテメー!いつまでもウジウジウジウジすんじゃねーヨ!お前の姉ちゃんは、お前にそんな顔してほしいと思ってんのかコノヤロー!」
「・・・っ!」
沖田は私を見て少し目を見開いた。
私は傘をおろす。
「姉ちゃん心配させんなヨ。安心して天国いけないアル。」
「・・・。」
「お前の姉ちゃんだけじゃないアル。ゴリラも多串君もジミーも、みんな心配してるに決まってるネ。」
そう言って沖田をみると、沖田は驚いたようにこちらを見た。そして、いつものようにニッと口角を上げた。
「…俺としたことが、チャイナなんかに元気づけられるとはねィ。」
「アァン!?『なんか』とはなんだコルァ!」
良かった。いつものサド野郎だ。
私はニヤリと笑った。
「今日のところはお前の姉ちゃんに面じて生かしといてやるアル。」
「そりゃあこっちの台詞でィ。」
「お前は絶対私が地獄送りにしてやるネ。だから、
それまで勝手に死んだり、どっかにいなくなったりすんなヨ」
「…フッ。お前こそな。」
そう言って、その日私たちは別れた。
次の日、万事屋の戸の前には、大量の酢昆布が届けられていた。
END
ちょっとシリアス。
やっぱり2人が別人…(泣)
題名は『Bouno!』の曲から
← →