三月中旬。世間でいう『ホワイトデー』なるものが、あちこちの男達を悩ませていた。
そしてそれは、聖秀野球部員である大河も例外ではなかった。
ただでさえ何かを人にあげるという行為を滅多にしない彼が、プレゼントを…しかも女子にあげるなんて、いままでなかった。
チョコレートなどをもらわなかったわけではなく、ただ単に好きでもないやつに贈り物なんてしたくない。そう思ったのだ。
しかし、今回は違う。
大河は野球部マネージャーの綾音にお返しをするつもりでいた。
(別に好きとかじゃなくて……
そう!日頃世話になってるし、バレンタインももらったし…)
大河は心の中で言い訳するようにつぶやいた。
(でも、)
何をあげれば彼女によろこんでもらえるのだろう…?
あらためて考えると、大河は綾音の好きなもの、趣味など何も知らなかった。
「…てことで、お前、マネージャーになにやんの?」
「なんだ大河、お前そんなになやんでたのか?」
必死に笑いをこらえているであろう、親友でチームメイトの服部を電話越しに睨みつける。
からかわれる事は予想していた。それでも姉の薫や先輩の藤井に相談するよりかはましだと思ったのだ。
「で、お前はマネージャーに何やるわけ」
「俺?俺は文房具。マネージャーの仕事でも授業でも使えるし。ちなみに一年生はお菓子の詰め合わせ。先輩たちは、髪のピンとゴム。」
すでに野球部員全員がお返しを用意していたことに、大河は驚いた。
「……なぁ服部、俺も…」
「自分で用意しろよ」
「………ちぇっ」
(二人からってことにしてもらおうと思ったのに)
「だいたい、大河がちゃんとお返しやらないと意味が…」
と、言いかけた服部はハッとして口をつぐんだ。
「は?何、それ?」
「や、なんでも」
「?」
「わけがわからない」といった感じの大河に、服部が慌てて話をそらそうとする。
「つーかさ、マネージャーに直接選ばせれば?」
「はぁ?選ばせる?」
「一緒に出かけてさ、そしたら何がいいのかわかるし。ちょうど明日学校も部活も休みだし。」
「………」
なんだか服部にうまくのせられているのが気に障るけど…
大河は電話を切った後、再びアドレス帳を開いた。
***
「おはよう」
聞き慣れたソプラノに顔を上げ大河は立ち上がった。
午前10時10分前。予定より少し早く、街の噴水の前で二人は顔を合わせた。
相手の私服に新鮮さを感じながら、お互い笑顔になる。
「珍しいね、清水君がお買い物に付き合ってほしいなんて。私でよかったの?」
「…あぁ、うん。」
そんな会話をしながら、二人はゆっくり歩きだした。
「ところで…何を買うの?」
「えっと…」
綾音をちらっと見ながら、大河は言葉を詰まらせた。
「俺のは後ででいいから…マネージャーどっか行きたいとこない?」
「えっ!?いいの?えーと、じゃあ…」
まず彼女が向かったのは本屋だった。色とりどりに並べられた本をみながら、マネージャーに聞いた。
「…マネージャー、本好きなの?」
「うん、最近は少し読むの。清水君は?」
「…漫画か雑誌か新聞だけ」
そういうと、綾音はクスクスと笑ったが、嫌な笑い方ではなかった。
(本好きなのか…知らなかった…)
その後も一緒に.歩いているうちに、綾音の好きなものや苦手なものがわかってきた。
白や桃色が好きとか、虫、犬が苦手とか、花言葉に詳しいとか…
綾音の友達でさえ知らないであろう彼女の一面を知ることができ、大河は嬉しくなった。
一時間もした頃、大河は忘れかけていた本来の目的を思いだし、綾音に話しかけた。
「マネージャーさぁ、今欲しいものとかある?」
「欲しいもの…?うーん…特には…どうして?」
「え!?えっと…」
できれば内緒にして驚かせたかったのだが、しょうがない。
大河はかゆくもない頭をかきながらいった。
「バレンタインデーの…お返しを…さ、あげようと思ったんだけど…何がいいのかわからなくて
だから、なんか…好きなの選んで」
「清水君…ありがとう…でも私何も…「俺が」」
言葉を遮る大河の大きな声に、綾音は驚いて目を見開いた。
大河は赤い顔を隠すように俯いていた。
「…俺が何かあげたいんだ。…いつものお礼もかねて」
綾音はキョトンとしていたが、すぐに笑顔になる。
「………じゃあ、一緒に選んでくれる?」
顔をあげた大河は綾音につられて微笑んだ。
少年と白い日 (今日くらいは、素直になってみようか)END
あとがき
翼さん、お待たせしました!
ホワイトデーからかなりすぎてしまい、申し訳ありません…
ホワイトデーに悩む少年、大河君とニブニブ綾音ちゃんの巻でした!(笑)
ほのぼのしたのがいいなぁ〜と思いながら書きました。
二人は私の癒しなので!
…ほのぼの…なのでしょうか…!?
文章力が足りず、すみません…
気にいって下されば幸いです!
リクエストありがとうございました☆
← →