幸せな夢をみた。
憧れの甲子園球場で
大きな歓声の中
彼が仲間達と泣きながら
抱き合って喜んでいる
そんな
幸せな夢を───
Dreaming「おはよう、清水くん!」
前方に、見知った姿を見つけて、私、鈴木綾音は駆け寄った。
「あ。マネージャー…はよ」
そうそっけない挨拶を返した彼は清水大河。私の所属する野球部の新キャプテンで、同じクラスだ。
茂野先輩達が引退した後、新キャプテンを任された清水くんは、なんとか聖秀野球部を強くしようと一生懸命だった。
練習やトレーニングのメニューを考えたり、部活中も人一倍努力していた。
しかし、今の清水くんは頑張りすぎていた。
「…清水くん、…昨日…ちゃんと寝た?」
「……寝た」
「そう」
しかし、彼の目の下の隈を、私は見逃さなかった。
学校中の人からの新野球部への期待がプレッシャーとなったり、新一年生からの反発などがストレスになっているようだった。
彼はいろいろと口うるさく言われるのが嫌いだ。
私は彼になんといえばいいのかも、わからなくなっていた。
「という訳なんです…」
「あー…確かにねぇ。大河はプレッシャーに弱いところあるし…」
困った私は清水くんのお姉さんに相談に来ていた。
彼の事を誰よりもわかっているのはお姉さんだと思ったのだ。
「本田や寿くんの事も結構ライバル視してるしね」
「…そうなんですか…」
「…なんかごめんね。綾音ちゃんにまで心配かけちゃって…」
「い、いえ!…それは…私が勝手に…」
「そんなことないよー。本当にありがとね」
次の瞬間彼女の笑顔に彼の顔が重なって。
『やっぱり姉弟なんだ』と実感する。
「…それからさ、アイツ意地っ張りでいろいろ溜め込んじゃうんだよね。なんか変なとこ真面目だし」
「あ…はい」
「…でも、アタシは…大丈夫だって思う。だってアイツには、こんなに真剣に悩んでくれる友達がいるんだもん」
私を見て、お姉さんはニッと笑った。
「辛い時だけど…でもアイツ、綾音ちゃんに救われてるところもあると思うから
綾音ちゃんは綾音ちゃんのやり方でアイツを応援してやってくれる?」
(…私…の…やり方…?)
「大河のこと、頼むね、鈴木マネージャー!!」
「…は、はい…!」
私は…私でいいんだ…
私のやり方で…清水くんを応援するんだ。
「…あれ?清水くん…まだ残ってたの?」
「…マネージャー…」
もうとっくに練習は終わっている時間。部室には、まだ清水くんがいた。
「いつもこんな時間まで残ってるの?」
「まぁ、最近はね」
そう言う彼の横には野球関係の本。手には私のスコアブック。
「あぁ、ごめん。そこにおいてあったから」
「えっ、あ、ううん…」
スコアブックに目線を戻し、清水くんは口を開いた。
「…で、マネージャーは何してんの」
「あ!そうだ!ビデオ…」
山田先生に借りた次の練習試合の相手校のビデオを取りにきたことを忘れていた。
すぐにビデオを見つけ、
迷った末に部室の隅に腰かけた。
「…何?どしたの?」
「えと…あのね、…夢…をみたの」
「…夢?」
私がみた内容の夢を話すと、清水くんは暗い顔になった。
「…でも、それは夢じゃん」
「夢…だけど、…もしかしたら「無理だよ」
清水くんは苦々しい表情でつぶやいた。
「いくら頑張っても…俺には…」
「そんなこと…やってみなきゃ…」
「……マネージャーにはわかんねぇよ!」
「…!!」
清水くんは拳を強く握りしめ、壁に叩きつける。
「…清水く、」
「俺なんかには…茂野先輩や…佐藤先輩…みたいに…みんなを甲子園に連れていく…なんてこと、…絶対…無理、なんだよ」
そういう清水くんの目には、涙。
考えるよりも先に、体が動いていた。
私は、清水くんを優しく抱きしめた。
「…マネー…ジャー…?」
「…ごめんね…ごめんね、清水くん…」
(清水くんがこんなに自分を追い詰めてることを、私は知らなかった)
また壁を殴らないように、抱きしめる腕に力を込めた。
思わず涙がこぼれてしまう。
「…清水くんは…清水くんでいいんだよ…!茂野先輩や佐藤先輩みたいじゃなくたっていいの…だから…だから!
もう…一人で苦しまないで…」
しばらく黙っていた清水くんが急に吹き出した。
「…なっ!えぇ!?なんで笑うの!?」
「マネージャーこそ、なんで泣いてんの?」
「え、あ、…だ、だって!」
真っ赤になって清水くんから離れると、彼は心底楽しそうに笑い声をあげた。
「もう…ホントに心配したのに…」
「ごめんごめん」
そういいながらも、やっぱり笑いつづける清水くんに、思わずつられて笑ってしまう私だった。
END
あとがき
藤城様、本当にお待たせしてしまい、申し訳ありませんでした…
書いてはつまり、書いてはつまり…で、
こんな事になりましたf^_^;
綾音ちゃんがみる夢と大河がみる現実…を考えました。
そしてもう一つのサブテーマが
『自分らしく』です。
大河は吾郎や寿くんにコンプレックスを持っているんじゃないかなと思いまして…
また、そのままの大河を認めてくれる人…それが綾音ちゃんならいいなと思います。
綾音ちゃんは夢の事を話して、やる気を出してもらおうと思ったのですが、大河は逆にさらにやる気がなくなっちゃう…
そんなもどかしさを表現したかったのですが…
ごめんなさい…遅い上にこんなものになってしまい…
本当にスミマセンでした。
ではでは、リクエストありがとうございました!
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